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第二五一話、コア運用に関する中間報告


 神明大佐は、連合艦隊司令部のある呉軍港、戦艦『播磨』を訪れた。


 連合艦隊司令長官、山本五十六大将は、神明のために時間を割いた。依頼していたコア関連技術と、それを用いた兵器に関する問題に対する報告を受けるためだ。


 神明は報告書を提出したが、それは非常に簡素なものであり、結論は書かれているが、それ単独のみでは少々不足も否めない。分厚い資料にまとめる時間がなかったのかもしれない。

 だが山本は気にしなかった。聞けばわかる神明本人が目の前にいるのだから。


「――この短期間でよくやってくれた。まだ検討と調整が必要なのはわかったが、僕が思っていたより進んでいるようだ」

「恐縮です」


 人員不足を補う目的で、研究された異世界帝国軍が使用するコア。解析の結果、早速、日本海軍の装備に取り入れられた。


 まず艦艇用は、元々、無人艦構想で研究されていた部分と被る部分が多く、能力者と魔核がやっていたことにやらせることで、思いのほか早く、取り入れることができそうだった。


 基礎研究が済んでいた部分だったこともあるが、東洋艦隊撃滅の際、異世界帝国が使用していたドイツUボートを大量に確保できたことも大きかった。

 何せこれら鹵獲潜水艦には、多数のコアが盛り込まれていて自動化がかなり進められていたからだ。船を動かすに必要な機能を、どうコアでやらせるかの参考に大いに役立った。


「――うむ、敵さんも無限に兵がいるというわけではないのだろう」


 山本が言えば、神明は頷いた。

 世界を同時に敵に回している軍隊とはいえ、前線を抜ければ案外脆かった。人員のほうも、決して無尽蔵ではない。


「その不足を、彼らも自動化、無人化で補っているのでしょう。敵が使っているなら、我々も使って同じ土俵に立たねばなりません」

「そうだな。その技術、我々も有効活用させてもらおう」


 艦艇に関しては、これから再生を行う艦はもちろん、修理、改装予定の艦に段階的にコアを配備していき、人員削減を図る。


「航空機に関しては、陸軍魔法研究所の協力を得て、コア制御の無人航空隊の実用の目処が立ちました。指揮官機は有人ですが、コアと専用端末を取り付ければ、最小人数で運用可能な飛行隊をすぐに増強できます」

「なに、陸軍?」


 山本は渋い顔になった。陸軍と海軍の仲の悪さ、そしてコアという機密に近い装備のこと故、警戒したのだ。しかし神明はしれっと言った。


「魔研は、我々より早くコアを解析し研究していましたから、コア技術を早期実用、運用するために技術の共有化を行いました」


 今、神明が報告した技術について、その気になれば陸軍も魔研を経由すれば作ることができるということになる。これは高度に海軍と陸軍の間の、政治的問題にも触れるため、一大佐が軽々しく判断していいものではないが――


「気になるな。その辺り、詳しく話してくれ」


 山本は怒るでもなく、説明を求めた。陸軍の魔法研究所についての個人的興味もあったのだろう。山本は珍しいもの、新しいものに関心を持つ傾向にあった。



  ・  ・  ・



 山本との面談の数日前、神明は陸軍の管轄する孤島、五身島の魔法研究所に突撃した。

 セイロン島に顔を出していた所長の杉山達人大佐は、ポータルで島に戻っていたから、神明の来訪に対応したが――


「ゴーレムの記録を出せ」

「正気かい、神明ちゃん?」


 海軍魔技研、陸軍魔研は、他の組織に比べれば協力的関係にあったとはいえ、神明の言葉は実に横暴だった。


「鹵獲したゴーレムとそれに関する技術は、陸軍でも機密に相当するんだよ? 海軍の神明ちゃんにおいそれと見せるわけには――」

「鹵獲したコアを艦艇に組み込んでみた」


 神明は、持参した艦艇の設計図を荒々しく広げた。陸軍が海軍から貰い受ける予定の鹵獲軽空母の改装案に重ねて。


「これで貴様も海軍の機密を知ったな」

「汚え! 神明ちゃん、汚えよ!」

「――そしてこっちは、航空機搭載型のコアだが」

「見てない! 僕は見ていない!」


 杉山は目を閉じたが、神明は構わず続けた。


「貴様の目と記憶力のよさは知っている。一秒以下でも見えたのなら、もう貴様は記憶したはずだ。……さあ、話を続けよう」


 話を勝手に始める神明に、杉山は諦めて席についた。


「牧田少尉、お茶。……神明大佐にも出してあげて」


 従兵に頼んで、杉山も資料を見やる。


「で、何でゴーレムの記録が欲しいの?」

「ゴーレムの体とコアの連動を見たい。歩く、走る、腕を動かすといった動作をどう行っているか、それがわかれば、より効率のいいコアの使い方がわかる」

「なるほど、それは道理だ。で、何でうちなの?」

「陸軍は前々から、異世界人のゴーレムを自分たちでも使えないか、研究をしていただろう? ここの地下にも開発中のブツがあるはずだ」

「!? 何でそれを?」

「……」


 無言の神明が、じっと杉山を凝視した。それで杉山は気づいた。


「鎌をかけたな! きったねぇ!」

「自白したのは貴様だ。気にするな。海軍もウェーク島とセイロン島で鹵獲したゴーレムを使えないかとやっているから、貴様が何を話そうが関係ない」


 放っておいても、海軍は海軍で独自にゴーレムを作る――と神明はにおわせた。


「さあ、観念して記録を出せ。私も貴様たちが興味を抱くだろうコアの記録と、兵器案を見せてやる」

「今日の神明ちゃんは、いつになく乱暴じゃないか。何かあったの?」

「研究室にこもって、あれこれ考えても、進捗が上がらない段階にきた」


 神明は、机の上に資料をドンドン乗せていく。


「時間がないのだ。ここからは討論して、ペースを上げる。貴様という天才の脳味噌を使ってやろうというのだ」

「言っておくけど、コアの解析と開発においては、陸軍も海軍もどっこいだろう? 多少ゴーレム関係はこっちが進んでいるかもしれないけど――」

「詰まっているなら、ちょうどいい刺激になるだろうよ。人間というのは、他人の悪いところを見つけるのが上手いからな。貴様らの研究資料を私が見てやるから、貴様はこっちの資料のダメ出しをしろ」

「んな、無茶苦茶な……。まあ、見せてくれるならいいけどさ。――牧田少尉! コア関係の資料、こっちに全部持ってきて!」


 半ば自棄な調子で杉山は声を張り上げた。それから二人は研究室にこもり、時に黒板を使い、討論を繰り広げたのだった。

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