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第二三八話、戦利品の分配


 異世界人にとっての急所――アヴラタワーを狙う戦法が通用しなくなるかもしれない、と杉山大佐は言った。

 緊張感のない口調で、さらりと大事なことを言う男である。


「セイロン島攻略にアヴラタワーを狙い撃ちする戦術は、上手くいった。だけど、敵さんもあれが自分たちの生命線であることは承知している」


 杉山は天を見上げた。


「マータレーに建造途中だった特大アヴラタワーへ、うちの部隊を送ったわけよ。そこには魔核があって……いや、それ自体は珍しいわけじゃない。僕が言いたいのは、その特大タワー、防御障壁の発生装置も設置されていたことがわかった」

「!」

「そう、次からはこっちがタワーを攻撃しようとしたら、防御障壁に阻まれてしまう可能性が出てきたわけ」


 これは由々しき問題だった。今回のように、攻略に先駆けて、航空隊によるアヴラタワー奇襲が成り立たないかもしれないというのだ。


「改めて神明ちゃんに言うまでもないだろうけど、もし僕らの奇襲でアヴラタワーを倒せていなかったら、セイロン島攻略なんてできなかったわけだからね。タワー狙いの戦術は、当面有効ではあるけど、敵が対策できるようなら、すぐに効果がなくなる」


 それはその後の作戦展開にも大いに影響する。


「まあ、防御障壁はエネルギーの消費が大きいから、常時張っているわけじゃない。敵に見つからずに攻撃できるなら、まだ撃破のチャンスはある。だけど――」

「事前に察知された場合、攻撃はほぼ失敗」

「そう。それに、消費が大きいなら専門のエネルギー供給施設を併設させるという手もあるから、自分たちの生存圏のためなら多少大変でも導入するだろうね」


 つまりだね――杉山は目を細める。


「アヴラタワーを叩くにも、今後はひと手間かける必要があるかもしれないってことだ。障壁も関係なくぶっ叩ける武器があるなら簡単だけど、うちにはそんな便利兵器は今はないし、海軍さんもそうだろう?」


 一応、研究はしているけど、と杉山は付け加えた。


「今回のセイロン島の失陥。その原因を奴らが徹底的に調査したなら、きっとアヴラタワーの防衛について最優先で動くだろうよ。……幸い、この島にいた異世界人が全滅しただろうから、告げ口される心配はないけど、勘のいいヤツは、短期間でセイロン島がやられた理由に考えつくと思う」

「常に、二手三手先を考えて動け、ということだな」

「さすが神明ちゃん、理解が早い」

「忠告、痛み入る」


 神明は軍帽のひさしに指を当てた。会釈のように見えるそれ。


「ところで、防御障壁絡みで聞きたいのだが、ポータルはどう発生させるんだ?」

「……おやおや、いきなり軍機に触れますか? いくら神明ちゃんでも――」


 杉山は苦笑するが、神明は構わずいつもの調子で言った。


「防御障壁の内側へポータルの出入り口を置ける手段があるなら、そこから兵を送り込んだり、砲弾や誘導弾を撃ち込めないかと思っただけだ」

「……本気か? 神明ちゃん」


 真顔になる杉山である。神明は言った。


「どうなんだ?」

「……一考の価値はあるね。いや本当に恐れ入ったよ、神明ちゃん。なるほど、障壁をすり抜ける手段ね」


 非常にワクワクするような表情を浮かべる杉山だった。神明は肩をすくめる。


「解決のヒントになったのなら光栄だ。――話は変わるが、陸軍はセイロン島についてどういう認識か、お前の意見を聞きたい」

「それって、陸軍がどう考えているかってこと?」

「そうだ。海軍としては、セイロン島は、ベンガル湾への防波堤であり、陸軍の大陸決戦遂行のために確保しておく場所と考えている」


 神明は、連合艦隊や小沢中将らと話した上での所感を述べると、杉山も真顔になる。


「僕には陸軍の上層部が考えていることは推測しかできないから、確かではないけど、海軍がインド洋の制海権を押さえてくれているなら、インド方面での補給や、陸戦において陸軍も安心して戦えると思う」


 海軍には、有力な艦隊をベンガル湾に置いてほしいと、陸軍は考えるだろう。


「補給に関して、船を用意したり、護衛がどうとかの調整が面倒ではあるけど、海軍がセイロン島で防壁になってくれるというなら、ポータルを使った補給も陸軍は協力するだろうよ。側面防御、インド方面の補給を鑑みれば、海軍が制海権を確保し続けてくれることは、君の言うとおり、大陸決戦の助けになる」


 杉山は首肯した。


「でも決めるのは、陸軍参謀本部だからね。そこまで都合よく考えてくれるかは保証できないよ。……でも何で、それを聞いたんだい?」

「いや、連合艦隊としては、第一機動艦隊は太平洋に戻してそちらで使いたいからな。大陸決戦を考えれば、側面防御は必要だろうから、海軍も艦隊を送るだろうが……もし陸軍がセイロン島を軽視するようなら、海軍もそうなるのではないか、と思っただけだ」


 要するに、敵とは戦うが、不利とみたらさっさとセイロン島を捨てて撤退するかも、という話である。扱いが軽いのであれば、海軍が派遣する戦力も、縮小される可能性もあった。


「陸軍としては、きちんと海軍には守ってほしいよねぇ、インド洋の制海権」

「海軍としては、太平洋での決戦の比重が大きいからな」


 復活した異世界帝国太平洋艦隊との戦いを、海軍は考えている。アメリカ太平洋艦隊と合同で、ハワイ攻略を行うという計画があると、神明は司令部で小耳に挟んでいる。

 杉山は皮肉げな顔になった。


「相変わらず、陸軍は大陸、海軍は太平洋を見ている、か」



  ・  ・  ・



 その後、セイロン島での鹵獲品の取り分について、その品目の確認が行われた。

 敵の航空機や戦闘車両、鹵獲兵器などなど。貯蔵されている石油や物資、食料などについても、どう分配されるかはお上が決めることではあるが、何がどれだけあるのかの内容確認は必要である。


「魔技研を預かる神明ちゃんとしては、何があるのかきちんと見ておきたいだろう?」


 杉山は品目の書かれた報告書を渡しながら、兵器に関しては、実際に神明にもわかるように見せて歩いた。


 異世界帝国の主力戦闘機ヴォンヴィクスや、ミガ攻撃機、オルキ重爆撃機、ガリオス双発爆撃機などの彼らオリジナルの他、英国からの鹵獲品であるハリケーンやフルマー、ソードフィッシュなどの航空機も見せたが――


「神明ちゃん、ちょっと見てくれよ。この鹵獲機のコクピットについている球体……」

「これは?」

「調べている途中なんだけどね。これ、奴らが使うゴーレムのコアに似ているんだよね」


 杉山は、その球体の予備を、部下に持ってこさせた。


「あいつらの航空機の何割かは、このコアっぽい球体が動かしているんじゃないかって思うんだけど……どう思う?」

「無人制御の機体、ということか?」

「これ、こっちでも応用使えないものかね――」


 杉山の言葉に神明は考える。確かに、これが使えるのなら、搭乗員不足を補う方法の一つとなるのではないか?

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