表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/1119

第二三四話、荒鷲は舞う


 1943年8月31日。カルカッタ上陸作戦が開始され、陸軍第二師団、第四六師団を主力とする上陸部隊は、異世界帝国陸軍と激突した。


 異世界陸軍も、日本軍がインド攻撃に戦力を集めていたことは、偵察や情報収集により察知しており、その上陸地点をカルカッタと想定していた。


 故に周辺駐留部隊を集結させ、防衛線を構築していたが……。日本軍は、異世界人の生存圏であるアヴラタワーを狙った攻撃を行ったことで、戦術行動で遅れをとり、その上陸ならびに侵攻を阻止できなかった。


 ただでさえ、異世界陸軍は前線集中主義であり、後方戦力は手薄である。集結したとはいえ、日本軍上陸部隊よりも総数は劣っていて、さらに対異世界軍との戦闘を研究してきた日本軍が相手では、カルカッタ防衛部隊に勝ち目はなかった。


 異世界陸軍大陸侵攻軍は、ビルマ方面にいる前線部隊との間を分断される形となった。インド駐留軍は、前線への輸送経路を確保するため、カルカッタに上陸する日本軍を攻撃すべく、戦力の集中を決定する。


 しかし、後方戦力が少ない異世界帝国陸軍にあって、広大なインドに展開する戦力を結集しても、カルカッタの日本軍を撃退できるかは微妙ところであった。


 故に、ヨーロッパや中東から移動する前線への増援部隊の一部も加えて、前線を遮断する日本軍を撃滅することとした。……したのだが、ここで一つ問題が起きた。


 セイロン島と連絡が途絶えたのである。

 アヴラタワーを喪失し、同島の守備隊の上級指揮官は壊滅しており、現地輸送船や小型艦艇から『日本軍襲来』と『救援要請』が傍受されたことで、日本軍がセイロン島を攻撃しているのでは、と気づいた。


 東洋艦隊が、日本機動部隊と交戦している通信は受けていたが、以降音沙汰がなく、どうやら海軍は負けたらしいとインド駐留軍は判断した。

 日本軍は、セイロン島を攻撃はしても占領はできない――インド駐留軍はそう判断していたことで、いま島がどうなっているかの確認が遅れた。


 音信不通のセイロン島を調査すべく、偵察機が飛んだが、これらは未帰還となった。日本軍の戦闘機に早期迎撃されてしまったのだ。


 そうこうしているうちに、日本軍に先手を取られた。

 セイロン島に一番近いインド最南部東に位置するタミル・ナードゥ州の沿岸、近隣飛行場が、日本軍機による空襲を受けたのだ。


 かつてイギリスが作った空軍基地のあるティルチラーパッリ、タンジャヴール飛行場が日本海軍の攻撃隊に襲撃された。さらにマドゥライ飛行場にも日本機が襲来した。



  ・  ・  ・



 イギリス空軍が建造し、それを完成、運用しているマドゥライ飛行場の異世界帝国陸軍は、監視塔のレーダーにより、接近する未確認航空部隊――日本軍の進撃を察知した。


 ただちに待機していたヴォンヴィクス戦闘機を緊急発進させ、さらに後続として基地にある戦闘機の発進準備をさせた……のだが。


 地形を這うように高速で接近する別動隊が飛行場に現れた。


 一見すると双発機だった。明らかに空母艦載機ではない。

 その機体の名前は、二式複座戦闘機。日本陸軍の双発戦闘機だ。全長11メートル、全幅15メートルと、一式戦闘機よりも一回り大きなボディ。主翼にエンジンを積んだ影響で、機首は鋭角的だ。長い航続距離を持ち、戦闘、爆撃、偵察なんでもござれの万能機を目指して作られた。


 しかし現実は、単発戦闘機の軽快さには勝てず、対戦闘機戦闘は苦手という、戦闘機として落第と評価されてしまう。せいぜい、大型機の迎撃くらいしか戦闘機として使えないと言われたが、この機体を万能機としての別の要素で見直された。


 つまり、爆撃である。


 戦闘機並みの速度で一早く、敵飛行場に乗り込み、そこにある航空機を攻撃する――軽爆撃機としての運用だ。


 実際、異世界帝国との戦いで、陸軍航空隊の軽爆撃機隊は大きな損害を強いられ、補充として、戦闘機としては落第点とされた二式複戦が当てられた。その速度性能から現地からは意外と好評で、二式襲撃機と呼ばれたりした。


 そして今回、マドゥライに現れた二式複座戦闘機は、魔研によって作られた改Ⅱ型である。エンジンにプロペラのついていない、つまりマ式エンジン搭載型だ。

 一式戦闘機Ⅲ型と同じく特マ二号発動機を装備したこの二式複戦『屠龍』は、その小型箱形のマ式エンジンを二枚重ねしたものを主翼に搭載している。……つまり、これは双発機ではなく、四発機である。


 おそらくこの世界を探しても、ここまで小型の四発の航空機など存在しないだろう。結果、機体の重さを差し引いても最高時速652キロを誇った。

 この快速戦闘機は爆装で、あっという間に飛行場へ突入した。50キロ爆弾、もしくは250キロ爆弾を、滑走路や飛行場建物、そして発進作業中の敵戦闘機に叩きつけた。

 12.7ミリ機関砲と20ミリ機関砲を唸らせて、屠龍が掃射をかけて、敵機を地上で粉砕する。


 この襲撃で、マドゥライ飛行場は火の海と化した。後続機を叩かれた異世界帝国戦闘機は、緊急発進した8機のみが無事だったが、これらはレーダーに引っかかった――つまり囮役となった一式戦闘機Ⅲ型と三式戦闘機改の23機が待ち受けていた。


「セイロン島では、相手がいなかったものだがな」


 第99独立飛行隊第一中隊長の小林大尉は、上がってきた敵機を発見していた。一〇〇式司令部偵察機による電探の探知と誘導のおかげで、先手が取れる。


『あーあー、コバヤシ、コバヤシ、聞こえるか? こちらカネオ』


 第三中隊長の金尾良一大尉が無線で呼びかけてきた。


『そっちの一式戦は実績があるが、こちらの三式戦は初見参にて、敵機と交戦したい。譲ってくれ』


 野郎め――小林は口から出かかった言葉を飲み込んだ。こちとら久しぶりの敵機との交戦だと意気込んでいたのに、水を差しやがって。


 確かに敵機が8機しかいないのでは、23機は過剰だ。第99独立飛行隊が試験戦闘部隊でなければ『馬鹿言え』とはね除けるのだが……。


「カネオ、カネオ。こちらコバヤシ、了解。譲ってやるからには、ヘマするんじゃねえぞ」

『恩にきる。帰ったら一杯奢ってやる』


 そう無線で言って、金尾隊――三式戦闘機改が、上昇中の敵編隊に向かってダイブを開始した。


 第99独立飛行隊の使用する戦闘機で唯一のレシプロ機となる三式戦闘機。この機体は今年配備が始まった新鋭機であるが、すでに魔研はその改良型を手掛けていた。それがこの仮称『三式戦闘機改』である。


 エンジンが長く非常にスマートなこの戦闘機は、低高度へと猛烈な勢いで突っ込む。さながら一陣の矢の如く、鋭く飛び込むと、機首と両翼の12.7ミリ機関砲4門が火を噴いた。


 だが同時に、敵ヴォンヴィクス戦闘機もまた機銃と光弾砲を放った。


 ヘッドオン。騎馬が互いに正面から突撃し、すれ違うが如く、曳光弾と光弾が互いを掠めた。3機のヴォンヴィクスが爆発し、1機の三式戦改が火を噴いて墜落し、もう1機がジュラルミンの破片を撒き散らして四散した。


「馬鹿野郎が!」


 小林は思わず口走っていた。マ式エンジン搭載の敵機の上昇力は、レシプロ機に比べてパワーロスが少なく、上から被る機動が必ずしも有利にはならない。ただでさえ正面から突っ込むのは危険だというのに、弾道がほぼ直進する光弾砲を持つ敵機に挑むなど、返り討ちにされやすくなる。


「新品だからって浮かれやがって! ――白夜隊、突っ込むぞ! 突撃、突撃!」

・二式複座戦闘機『屠龍』Ⅱ型

乗員:2名

全長:11メートル

全幅:15.02メートル

自重:3300キロ

発動機:マ二号 魔法式850馬力×4

速度:652キロ

航続距離:2000キロ

武装:20ミリ機関砲×1 12.7ミリ機関砲×2 7.92ミリ機関銃×1

   50キロ爆弾×4 250ミリ爆弾×2

その他:陸軍の複座戦闘機。しかし対戦闘機戦闘には向かず、異世界帝国の主力戦闘機には歯がたたなかった。マ式エンジンを主翼に四基搭載する四発機となったが、速度は大幅に向上。運動性が上がったわけではないが、その高速性能を活かして敵重爆撃機迎撃や、襲撃機として活用された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ