第二二八話、試製彩雲改、発艦準備よし
第一機動艦隊・甲部隊は、甲第一部隊と甲第二部隊に分かれて、セイロン島にある大アヴラタワー破壊のための行動を開始した。
セイロン島の北東部より侵入する甲第一部隊は、小沢中将が率いる。
その編成は――
・戦艦
第六戦隊:「伊勢」「日向」
第二戦隊:「大和」「美濃」「和泉」
・空母
第一航空戦隊:「大鶴」「紅鶴」「黒龍」
第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」
第七航空戦隊・第一小隊:「海龍」
・重巡洋艦 :第十六戦隊 :「利根」「筑摩」「鈴谷」「熊野」
・防空巡洋艦:第二十四戦隊:「狩野」「秋野」「伊佐津」
第一防空戦隊:
第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」
第六十二駆逐隊:「新月」「若月」「霜月」「冬月」
他 「鰤谷丸」「神鷹」
・海防艦:「日振」「大東」「昭南」
一方、武本中将指揮する甲第二部隊は、セイロン島の南へ回り込む。
・戦艦:「武蔵」
・空母:第七航空戦隊・第二小隊:「剣龍」「瑞龍」
・特殊巡洋艦
第二十九戦隊:「北上」「大井」「木曽」
第三十戦隊 :「初瀬」「八島」「九頭竜」
第七水雷戦隊:軽巡洋艦:「水無瀬」
第七十一駆逐隊:「氷雨」「早雨」「白雨」「霧雨」
第七十二駆逐隊:「海霧」「山霧」「谷霧」「大霧」
第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦2:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』
・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612
・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613
甲第二部隊は、全艦が潜水行動が可能な艦で編成されている。航路的に、敵の輸送船との遭遇率が高いので、これらを叩ければ叩く。
しかし万が一それらに通報されて、ないとは思うが敵の有力艦隊が現れたり、インドから空襲にさらされるなどの事態が生じた場合でも、潜って離脱できるようになっていた。
指揮するのが、浮上奇襲戦の神様である武本なので、現状小沢も心配はしていない。
二日後、セイロン島近海に達した二つの部隊は、夜明け前に攻撃隊の発艦作業を開始した。
第一部隊、第七航空戦隊第一小隊の『海龍』では、桜隊、柳隊の九九式艦上戦闘爆撃機、二式艦上攻撃機が朝前の闇の中を発艦していく。
戦爆6機、攻撃機6機、計12機の攻撃隊を、ジャフナ、トリンコマリーそれぞれに1隊ずつ放つ。九九式戦爆は護衛と必要なら地上施設攻撃を担当。二式艦攻が大アヴラタワーを攻撃する。1小隊(3機)が攻撃し、もう1小隊(3機)は予備である。
空母『エンタープライズ』の生まれ変わりである『海龍』の飛行甲板には、さらに二機の航空機が準備されていた。
試製彩雲改である。中島C6N彩雲は、単発エンジン搭載ながら長大な航続力と、敵を振り切って偵察する高速力を発揮する機体である。
これを偵察爆撃機仕様に改造したのが、試製彩雲改だ。
遮蔽装置によりレーダーや肉眼での索敵から逃れて、さらに安全に偵察ができる彩雲であるが、そのまま先制襲撃ができないかと考えられたのが偵察爆撃機型の原案となっている。
九九式戦爆や二式艦上攻撃機が遮蔽装置で、敵艦隊に忍び寄り、敵空母を叩き、制空権を奪う――その戦術の延長で、偵察で見つけた時点で敵空母を奇襲できれば、同じではないか、というものである。
陸軍航空隊の十八番である航空撃滅戦――敵機を飛ばす前に敵飛行場を潰すという案の海軍版。……そういう言い方をすると、海軍の航空主兵論者たちから、『いや、空母の甲板を先制して叩く案は以前からあった』と反論するだろうか。
それがかつての前衛偵察部隊に、艦爆を積んだ『蒼龍』『飛龍』を同行させるという初期の空母戦術、その構想だったりする。
閑話休題。
彩雲改の一番機には、大和航空隊から派遣された須賀義二郎中尉と正木妙子少尉コンビが乗り込んでいた。
「とうとう、偵察機に乗ることになるとはね」
九頭島魔技研に配属されてから、まともな戦闘機に乗るより、様々な試作機に載せられてきた須賀である。
後ろから、相棒である妙子の声がした。
「言っても、一式水戦だって、偵察任務がこなせる機体なんだから、やること自体は初めてじゃないよね?」
「一式水戦は、もともと戦闘爆撃機が主で、偵察機能はおまけだろ? 九七艦攻が索敵に使われるのは三座だからで、基本は対艦攻撃なのと一緒さ」
しかしこの彩雲は、偵察がメインであり、爆撃任務は次点である。初めからドッグファイトもできる戦闘機と、高速離脱型の偵察機では、作りから何から違うのである。
「でもまあ、今回は偵察より攻撃が重視される任務だよ」
妙子は楽しそうだった。
「遮蔽装置で敵の目をかいくぐって、油タワーだけを叩くんだからね。これはこの爆撃機型彩雲に求められる機能を活用しないといけない任務になる」
「へいへい。車曳きを頑張るよ」
複座や三座の機体の操縦担当搭乗員を、そう呼ぶことがある。爆撃や攻撃担当が仕事できるように機を操るのが操縦担当の役目だからだ。
妙子が後ろを振り返った。
「天根二飛曹、大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
彩雲は三座――つまり3人乗りである。最後尾の通信担当である天根和代は、九頭島魔法学校航空科の卒業生であり、実は実戦は初めてだったりする。
「正木先輩――いえ、少尉と共に飛ぶことができて光栄です!」
九頭島学校では、正木姉妹というとかなりの有名人だった。姉の初子共々、妙子もまた後輩たちからの人気が凄まじいという。
「肩の力を抜いてねー。今回、あなたは私のサポートだからね。しっかり頼むよ」
通信席ではあるが、この彩雲改(魔技研仕様)は例によって魔法装備搭載機なので、補助要員として働いてもらわなくてはならない。そのために魔法学校出身者が割り振られたわけだが。
『彩雲改、発艦準備よろしいか?』
無線から呼び出しがくる。誉エンジンは快調に回っている。須賀は周りの整備員たちに合図し、無線に返す。
「彩雲一番、確認終了。準備よし」
整備員たちが離れて、『海龍』の航空管制から発艦指示がきた。須賀はスロットルバーを握る。
やがて、飛行甲板がクリアとなり、試製彩雲改が滑走、飛び立った。
・彩雲艦上偵察機二一型:試製彩雲改
乗員:3名
全長:11.15メートル
全幅:12.50メートル
自重:2635キログラム
発動機:『誉』二一型 空冷1990馬力
速度 :694キロメートル
航続距離:5308キロ(増槽装備時)
武装:7.92ミリ機銃×1 20ミリ光弾砲×2 特マ式収納庫×1
その他:日本海軍が開発した偵察専門の航空機の改造型。遮蔽装置を搭載。偵察機が敵空母を発見直後、そのまま攻撃し、敵の発着艦能力にダメージを与えるという構想のもと魔技研で製作された機体。光弾砲を装備し、特マ式収納庫に爆弾ないし誘導弾を搭載、新型の艦上攻撃機並みの攻撃性能を持つ。




