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第二二三話、警戒する乙部隊


 第二戦隊と第七水雷戦隊の二個駆逐隊により、東洋艦隊低速部隊は全滅した。


 第一機動艦隊・甲部隊の司令長官、小沢中将は次の行動を思案する。

 敵東洋艦隊配備と思われる戦艦4隻、巡洋戦艦2隻、空母4隻を撃沈した。残る戦艦は3隻、空母1隻。巡洋艦、駆逐艦は発見されたものはあらかた撃破したが、もう一部隊存在する可能性が高かった。


 この期に及んで、戦艦『ビスマルク』『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』という、通商破壊戦を得意とするドイツ艦を、敵が使わないなど到底思えないからだ。

 山田参謀長が進言する。


「偵察機も、敵部隊を発見できません。敵の都合で、ベンガル湾ではなく、別方面へ移動している可能性がありますが、こちらの索敵線をすり抜け、カルカッタ上陸船団のほうへ突進しているかもしれません。敵が掴めない以上、船団の援護に回ったほうがよいかもしれません」

「……いや、参謀長。索敵はこのまま続けるが、我々は予定通り、セイロン島攻略へ向かう」


 小沢はそう判断した。


「敵は、我が機動艦隊の位置と存在を通報している。その結果、セイロン島に向かっていると考えたはずだ。未発見の敵部隊も、すでに引き返して、我々の方へ向かっているだろう」


 第一機動艦隊の任務は、カルカッタ上陸船団を敵から守ること、その脅威となる東洋艦隊を撃滅することにある。

 小沢は、敵艦隊を叩くことが船団を守ることに繋がるとして、セイロン島攻略を囮としてでも、東洋艦隊撃滅を優先した。


 万が一、未発見の敵部隊が上陸船団を襲撃したら――山田は少し不安になるものの、敢闘精神が高く、一度決めたらほぼ行動を変えない小沢の性格から、それ以上の発言は控えた。


 念のため神明作戦参謀を見たが、彼は小さく頷くのみで、反対意見はないようだった。


 第一機動艦隊・甲部隊は、セイロン島を目指して西進し続ける。途中、武本中将の第二戦隊と合流したが、甲部隊は水上部隊以上に警戒すべき敵を相次いで発見した。


 敵の潜水艦である。

 第一機動艦隊はそれらの掃討を行う。対潜爆弾を積んだ零式水上偵察機や瑞雲などが、哨戒と攻撃に頻繁に出撃。

 他、偵察機の目をかいくぐって接近してきた敵潜水艦は、マ式水中探信儀ほか対潜索敵装置をフル活用して、必殺の対潜魚雷で仕留めていった。



  ・  ・  ・



 第一機動艦隊・甲部隊が索敵をしつつセイロン島方面へ進撃している頃、乙部隊は、アンダマン諸島の北を抜け、ベンガル湾を北上しつつあった。


 低速の輸送船団を抱えているため、船足は遅い。乙部隊は東洋艦隊などの敵水上部隊に備えて船団を警護。敵潜水艦に対しては、第三護衛隊が前衛を務めて、対潜警戒に当たっている。


 この第三護衛隊は、軽巡洋艦『五十鈴』を旗艦に、異世界帝国が回収した元英米の駆逐艦を再回収して、海防艦としたものが配備されている。

 その命名も日本海軍が海防艦に使用予定だったものが割り振られた結果、艦隊表を一見しただけでは、それが純粋な日本製なのか、鹵獲艦なのかわからなかった。


○第三護衛隊 :旗艦、軽巡洋艦『五十鈴』

 第107戦隊:『天草』『満珠』『干珠』『笠戸』

 第108戦隊:『御蔵』『三宅』『淡路』『能美』

 第109戦隊:『倉橋』『屋代』『千振』『草垣』


 編成されて日が浅く、艦もまだ揃っていないものの、鹵獲再生された海防艦は順次、竣工しており、人員の訓練が済めば前線配備も進められる。これらは現在までに日本で作られた占守型や択捉型と違い、元駆逐艦ということもあって35ノット前後の速度を発揮可能。さらに魔技研製索敵装置、対潜装備があって、非常に強力な対潜艦だった。

 そしてその能力は、インド洋にきて早速発揮されており、船団に迫る敵潜水艦を早期発見、掃討に活躍していた。


 さて、適度な緊張感を保ちつつ、ベンガル湾を進んでいた第一機動艦隊乙部隊と、輸送船団だが、その障害となり得る敵艦隊が接近しつつあった。

 乙部隊、第七戦隊旗艦『金剛』に、第一報が入った。


「『瑞鶴』偵察機より入電。船団針路上に、高速接近しつつある敵水上部隊を発見。戦艦3、空母1、巡洋艦4、駆逐艦13」


 読み上げた通信兵に、第七戦隊司令官、鈴木義尾中将は頷いた。


「小沢長官からの知らせにあった通りだな」


 甲部隊から、東洋艦隊の水上部隊を二つ撃滅したが、もう一部隊存在している可能性が高いので、警戒されたし、と報告を受けている。


「元イギリス戦艦は全て沈めたから、やってきたのは元ドイツ戦艦か」


 真正面から撃ち合うには、金剛型ではよくて五分五分と言ったところか。シャルンホルスト級戦艦の火力は問題ないが、ビスマルク級は格上であり手強い。


 鈴木は腕を組む。

 海兵40期。山口多聞や宇垣纏と同期である。つい最近まで、軍令部第二部長と大本営海軍参謀を兼任していた。故に、久しぶりの前線勤務である。


 乙部隊では最先任指揮官である。その判断が乙部隊はもちろん、上陸船団の命運を決めると言っても過言ではない。


「まず、狙いは敵空母だ」


 鈴木は言った。


「これの艦載機が、輸送船を攻撃すれば厄介だ。装甲のない船など、爆弾一発で吹き飛んでしまう」


 乙部隊に組み込まれた第五航空戦隊から、攻撃隊を出して、何が何でも敵空母を無力化してもらう。余力があれば、反復攻撃をかけて敵戦艦、護衛艦に打撃を与える。

 敵戦艦がそれでも前進して、船団に迫るならば、第七戦隊で牽制しつつ、第九戦隊の側面誘導弾攻撃、第七水雷戦隊の潜水肉薄からの、奇襲雷撃で仕留める。


 ――軍令部で、神明と潜水艦談義したのが、ここで役に立つ時が来るとは……。


 少々意外に思いつつ、鈴木は苦笑する。第二部長時代、軍令部を訪れた神明に、潜水艦戦術研究で話をしたことがあったが、おかげで潜水水雷戦隊や浮上奇襲戦術などを理解している司令官の一人となっていた。


「五航戦に指令。攻撃隊を編成。その戦力については、五航戦司令官に一任。最優先目標、敵空母!」


 鈴木中将の命令は、ただちに第五航空戦隊旗艦『翔鶴』に飛んだ。

 指揮官は城島高次少将。鈴木と同じ海兵40期だが、ハンモックナンバーは下位のほうのため、階級に差がある。艦長時代は、主に空母系を乗り継いでおり、『翔鶴』の艦長も経験していた。


 命令を受けて、空母『翔鶴』『瑞鶴』『祥鳳』の飛行甲板では、攻撃隊の発艦準備が進められる。

 その艦載機は、『翔鶴』が新型の零戦五三型、流星艦攻を受領、装備していたが、歴戦の『瑞鶴』のみ、機種更新が間に合っておらず零戦三二型、九九式艦爆、九七式艦攻編成だった。


 城島少将は、直掩空母である『祥鳳』の艦載機を残し、残る2隻の空母の航空機をフル活用を選んだ。

 飛行甲板の前から後ろまで設置されたマ式レールカタパルト上に艦載機をありったけ載せて、本来なら二度に分けねば全攻撃機を出せないところを、一度で全て出すのだ。


 航空戦は数だ。敵空母は1隻だが、こちらは実質2隻の艦載機しか出せない。それならば一度に全てを飛ばす。他に有力な水上部隊がいないとわかっているからこそできる決断である。


 そして、『翔鶴』『瑞鶴』の飛行甲板から、次々と艦載機が放たれた。

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