第一二八五話、誘う者、誘われる者
戦艦『大和』『武蔵』が、ムンドゥス帝国の特別転移砲艦『ワガブンドゥス』に撃ち込んだ砲弾は、全長の半分を占める巨大な転移砲に直撃した。
ムンドゥス帝国の試製転移砲に必要なエネルギーを生み出す動力炉がたちまち吹き飛び、その莫大なエネルギーは艦内を巡る。機器を破壊し、乗員を焼き、巨艦は炎の柱を上げて、その艦体を真っ二つに引き裂いた。
衝撃は、周りにあったキュクロス級ゲート巡洋艦や工作艦を揺さぶる。はねとんだ艦体の一部が直撃した艦もあった。
「目標破壊!」
「残存する敵艦を殲滅せよ!」
第五艦隊司令長官、神明 龍造少将は命じる。周りにはゲート艦が複数あった。これらを生かしておけば、退避、もしくは増援を呼び込む。面倒にならないうちに掃討しておくに限る。
戦艦『近江』『常陸』が41センチ連装砲で、直掩と思われる軽空母を砲撃している間に重巡洋艦『古鷹』『加古』、軽巡洋艦『神流』『静間』が砲を振り向け、ゲート艦を守ろうとする護衛艦に突撃をかけていく。
20.3センチ光弾砲を転移砲で飛ばす古鷹型に加え、ラ・ガルソニエール級軽巡洋艦改装の二代目『神流』『静間』が15.2センチ三連装砲を叩き込む。
ムンドゥス帝国軍のメテオーラ級軽巡洋艦、カリュクス級駆逐艦が、日本巡洋艦の進撃を阻もうと砲門を指向させる。
だが転移砲の正確無比の砲撃は、そうした反撃の芽を摘み、先制を許さない。しかし数に勝るムンドゥス帝国護衛部隊は、味方艦の屍を横目に発砲を開始する。
海面を叩く水柱。比較的距離が近いこともあり、初弾命中の幸運弾もあった。だが防御障壁がその幸運を無下にした。
日本艦がわざわざ転移砲で交戦しているのも、この防御を活かすためでもある。
多少の反撃を物ともせず、『古鷹』『加古』、『静流』『靜間』の砲撃は続く。さらに海上に敵の注意が引かれている間に、大型巡洋艦『妙義』のコントロールを受けた黒潮以下、潜水型駆逐艦が海中からの転移砲砲撃で海上の敵を撃つ。
海中と海上の攻撃。この連携は、ムンドゥス帝国艦を確実にその数を減らしていく。
『敵ゲート艦、全滅!』
「対遮蔽装置を発動させろ。遮蔽で隠れただけかもしれない」
神明は指示を出す。キュクロス級ゲート巡洋艦は、遮蔽装置を持っている。敵も遮蔽対策を行っているだろうが、ゲート艦を生き残らせるために対遮蔽装置を切って、遮蔽に隠そうとするかもしれない。
装置を作動させれば、こちらも遮蔽が使えなくなるが、現在それに頼っている味方はこの場にいないので問題はない。
『対遮蔽装置を作動させました! 現在、探索中!』
魔核制御室からの答え。その間にも砲術を担う正木 初子は、『大和』の46センチ砲を操り、敵巡洋艦を一撃で破砕した。転移する砲弾の前には、防御シールドがあろうとも関係なく、巡洋艦の装甲では戦艦の砲弾の直撃にバラバラに砕かれるしかなかった。
神 重徳参謀長が口を開く。
「数は多いですが、この分なら楽に蹴散らせそうですな」
「敵の攻撃は防御障壁が防いでいる」
神明は頷いた。シールドの出力を大きく減らす戦艦などの大型艦が敵にいないのは幸いである。
「海中部隊からの攻撃もよくやっている」
「敵は見えているこちらに攻撃を集中していますから」
ムンドゥス帝国護衛艦隊は、海の中の日本艦にまだ気づいていないかもしれない。それがわざわざ水上にて『大和』以下、戦艦6隻と巡洋艦6隻が砲撃戦を仕掛けている理由でもある。
つまり、敵に対潜攻撃をさせない。例の誘導対潜魚雷を使わせないようにするのである。誘導機雷などの防御手段はあれど弾数に制限があるので、温存している。
「さて、こちらで暴れまわっていれば、敵さんも黙ってはいないだろう」
何故かゲート巡洋艦が多かったのは、艦隊の転移離脱ポイントだったのかもしれない。そこを日本軍に攻撃されたと見れば、貴重な退避点とゲート艦の喪失となるから、救援が押っ取り刀で駆けつけてくると予想するが――
「左舷10時方向に、魔法陣型転移ゲートの発光らしきもの! 距離3万!」
見張り員が、ゲートの光を観測した。
「来たな」
もっと近くに現れて、殴り込んでくると思っていたが、意外と距離がある。要するにその近くに転移ゲート艦が存在していないとも取れる。
「どれほどの戦力を送り込んできたか、見てやろう」
神明は双眼鏡を覗き込んだ。
・ ・ ・
特別転移砲艦『ワガブンドゥス』の喪失は、以後の艦隊展開において大いに制限が課せられる。
ムンドゥス帝国総参謀長、カサルティリオの考える転移機動戦術が以後、活用困難になる。
実際、その機動戦術でマリアナ諸島に送った戦力のうち、本営艦隊第5戦闘群、第6戦闘群が、転移ゲート艦艇の喪失で孤立してしまった。
これを救出するためにも、『ワガブンドゥス』の転移装置によるゲートポッドの転移が不可欠であった。
「何が何でも、敵を叩け!」
カサルティリオが普段の冷静さを欠いて、声を荒らげるのもある意味仕方のないことかもしれない。
紅蓮艦隊司令長官のプレボス・メラン中将は、戦闘に突入して以来、総参謀長が『冷静』という言葉をどこかに忘れてきたように不安定な状態であることに、強い不安を抱いていた。
――『ウルブス・ムンドゥス』を攻撃されてから、か。
メランはじっとカサルティリオを観察する。
『ワガブンドゥス』救援のために、今日はまだ戦闘をしておらず即応できる第2戦闘群を送った。マリアナ諸島攻撃から戻ったばかりの紅蓮艦隊と第8戦闘群も急いで再編を行う。
――皇帝陛下の御身は無事だというが、何だか怪しいな……。
そもそも総参謀長が自分の補佐も連れずに、前線の艦隊に来たことも、違和感といえば違和感であった。
「閣下」
ミィ・ルナサ紅蓮艦隊参謀長が、静かな口調で報告した。
「戦闘機隊の収容ですが、待機していた空母部隊をE22の海域に派遣いたします」
マリアナ諸島攻撃に連れていかなかった紅蓮艦隊所属の空母を護衛艦と共に送る。なお空母の戦闘機隊は、現在、直掩として主力部隊の上にあり、空母部隊の戦闘機が出払っているスペースに、航空戦艦戦闘機隊を回収する手筈であった。
「ゲート艦は使えるのか?」
「前哨警戒隊は無事ですから、問題は今のところありません」
トラック諸島への進軍ルート上には、地球艦隊は現れなかったために前哨部隊は被害が皆無であった。




