第一二五七話、精強艦隊の壊滅
帝国第1艦隊の旗艦『アフセンディア』の爆沈は、残存する艦艇に衝撃を与えた。
視界を覆っていた海氷が、転移によって除去され、では今どうなっているか確認しようとした矢先であった。
まず減った僚艦に驚き、さらに次の瞬間には、旗艦同様に下から突き上げられるように膨張し、大爆発を起こす。
それでようやく敵襲だと気づく帝国兵が相次ぐが、その視野は闇夜の空へと向くのである。
上空で爆発音が連続した。
艦橋の観測所から見上げた見張り員たちは、直掩の夜間戦闘機が炎の花となって吹き飛ぶのを目撃した。
『上空に敵機!』
『対空戦闘!』
海氷に覆われている間に、地球軍の航空隊が迫っていたのか。旗艦を失い、次席指揮官は艦隊を掌握すべく動くが――上手くいかなかった。
「次の指揮官は誰だ?」
ある戦隊司令官は、残存艦の確認作業を始めた。旗艦『アフセンディア』の次の指揮官が座乗する空母は……すでにない。
ではその次は――誰が指揮を継承するのか、各指揮官たちはリストを引っ張り出して確認し始める。つまり上位の階級者の艦が軒並みやられていたのだ。
「おい、ウィーラード少将の旗艦は?」
『確認できません! すでにやられてしまったものかと――」
「ハーランダ少将を呼び出せ! 次のつ――」
爆発、轟沈。海中からは、日本海軍第五艦隊が転移砲砲撃を続けており、指揮官が自分だと認識した瞬間、転移砲弾が炸裂し、またその艦を撃沈してしまう。
上位の指揮官であれば、自分より一つ上が誰か簡単だ。その指揮官の艦に何かあれば自分の番だとすぐにわかる。
が、下位に及んでくると、途端にややこしくなってくる。日本海軍と違い、能力で評価され昇進が変わるムンドゥス帝国軍において、士官学校や大学成績で席次が決まることはない。
一応、リストは配られてはいるが、毎日見直すものでもなく、指揮官によっては古い記憶や勘違いもあって、全体の指揮継承は上手くいかなかった。
せいぜい自分の指揮する戦隊に対する命令は滞りなく発せられたが、艦隊指揮に至っては、誰が引き継いだのか、引き継ぐべきなのかで混乱は続いた。
そんな帝国第1艦隊側の都合など、第五艦隊の知るところではない。とはいえ、第五艦隊を率いる神明 龍造少将は、彼にしては珍しく大型艦を集中して狙うようにと指示を出していて、半ばこの状況は確信犯であった。
さらに彼が狡猾だったのは、第五艦隊の攻撃を水中からのものというのを極力悟らせないように部隊を動かしたことであった。
海氷飛行場という傘をはね除けた帝国艦隊。まずその総旗艦である大型戦艦を排除した直後、待機していた第五艦隊航空隊が、上空の敵夜間戦闘機に対空誘導弾を叩き込み、撃墜。
この無数の爆発が、先の見張り員たちが目撃したものである。対レーダー塗装による映らない日本軍機の攻撃。
帝国艦の指揮官たちは、攻撃は空からと意識がそちらへと持っていかれたのだった。
空母『翔竜』『鳳翔』『龍驤』を飛び立った陣風改、暴風改、紫電改三が、夜間ヴォンヴィクス、エントマ戦闘機を撃墜したところへ、暁星艦攻、水上機仕様の暁星改が、帝国第一艦隊へ攻撃を行う。
対艦誘導弾を投下。さらに転移爆撃装置により、次の誘導弾を転移で移送、敵に撃ち込んで少数機ながら、それを思わせない破壊力を叩きつけた。
レーダーが使えず、直掩をやられ、日本軍機がどれほどいるのか、正確な把握ができた者はいない。対空砲が夜空を睨む中、海中からの転移砲弾の攻撃で艦が吹き飛ぶ。
防御シールドをすり抜ける対艦誘導弾によって、戦艦は艦橋やマストが破壊され、空母は待機していた航空機ごと飛行甲板をやられ、格納庫が炎に包まれた。
巡洋艦には一発の被弾で大破、航行不能が続き、盛んに対空砲火を打ち上げはじめた駆逐艦にも日本軍機の攻撃の手が及ぶ。夜の闇に紛れた航空機からの光弾砲、光弾機銃が、駆逐艦の艦橋、上部構造物を破壊し、戦闘能力を奪う。
空、そして海からの攻撃は、ムンドゥス帝国第1艦隊を追い込み、その犠牲を増加させた。
艦隊を率いる指揮官継承が上手くいかなかったばかりに、第1艦隊は、各個の応戦以外に行動が取れず、撤退の命令も出ることなく、ただいたずらに戦力を消耗した。
加速度的に、指揮できる人材が失われていく。彼らがただの帝国兵、帝国将校であったなら、もしかしたら撤退も敗走もあったかもしれない。
しかし彼らは、帝国第1艦隊。すなわち、正規軍における皇帝の片腕である第1艦隊の精鋭。
指揮官だったコラッハ大将の闘将気質は、部下の多くが共有しており、敵に突撃をすることはあっても逃げるなどあり得なかった。
その精鋭の自覚とプライドが、彼らに安易な撤退の判断を取らせなかった。それは視野を狭くし、多くの犠牲を生むことになった。
逃げるな。戦って死ね――帝国第1艦隊のモットーは、奇しくも彼らを全滅へと駆り立てるのであった。
低空に舞い降りた紫電改三、暴風改の機銃掃射は駆逐艦の戦闘力を奪い、ロケット弾や誘導爆弾がトドメを刺す。
当初は健在だった戦隊指揮官たちも、海中からの砲撃によって次々に狩られ、もはやその統率は末端まで届かなくなる。
敵への対処も目の前の『見える』敵ばかりにフォーカスしてしまい、見えない位置にいる敵への注意がまったくされなくなった。
つまりそれは、第五艦隊が一方的かつ徹底的な攻撃を継続できたことを意味する。
飛び回る日本機。帝国第1艦隊の上空に戦闘機はなく、海氷飛行場が傘となって発艦を逸しているうちに海中砲撃にさらされ、海氷が消えた途端、日本の艦攻の先制爆撃を受けたことで、空母群は壊滅。
指揮権のゴタゴタで目先の敵との交戦を強いられた結果、艦隊の戦力はすり潰され、もうどうにもならないと判断した時点でようやく後退が行われた。
しかし、逃げ延びたのは巡洋艦3、駆逐艦9隻であり、精強を自負していた帝国第1艦隊の戦艦、空母は1隻も残らなかった。




