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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第十二話、戦艦の正体


「ようこそ、『土佐』へ、山本長官。土佐艦長兼、第九艦隊を預かっている神明龍造大佐です」


 内火艇で、戦艦『大和』から、第九艦隊旗艦となっている戦艦にやってきた山本五十六連合艦隊司令長官と宇垣参謀長。あと黒島亀人先任参謀も同行している。


「これは『土佐』なのか……」


 ワシントン海軍軍縮条約によって廃艦が決まり、実験標的艦となった後、自沈処分となった、幻の戦艦。


 神明大佐と、出迎えの兵たちの敬礼に答礼で応え、山本は改めて戦艦『土佐』の艦橋を見上げる。


 後ろにいた宇垣と黒島は、神明大佐より、その後ろに控えていた一人の士官が気になった。


 ――女子、だよな……?


 海軍の士官軍服を身につけているが、その髪の長さに胸の膨らみなど、明らかに女性だった。日本軍に軍属ならともかく――軍属でも話を聞かないが――女性の兵はいないはずだった。


 ――何なのだ、この艦隊は。本当に日本海軍なのか……?


 表情こそ出さずに、しかし疑念を抱く宇垣。黒島はじっと神明を見つめている。


「艦隊には、大破艦艇の護衛を命じております」


 神明は、山本にそう説明した。


「ムンドゥス帝国の艦艇は撤退しました。しかし対空、対潜警戒は厳としております」

「ご苦労、大佐。つかぬことを聞くが、神明君。君は兵学校は――?」

「45期です」


 聞かれたことだけ答えた。同期に誰がいるとか言わず、雑談はあまりしないタイプだと、山本は神明を判断した。


「色々聞きたいこともあるが……いいかね、神明君」

「はい、長官。こちらへ」


 神明は、艦内に入るよう誘導し、腰を据えて会談となった。


 山本ら3人は、机を挟んで神明と向かい合う。さて、どうしたものかと、山本が思ったところ、意外にも最初に口を開いたのは黒島だった。


「神明……、貴様、魔技研の神明だな?」


 マギケン――その単語に、山本も宇垣も引っ掛かるものがあった。そういえば、海軍には、そんな名前の部署があったのを思い出したのだ。


「はい、魔技研――魔法技術研究部の神明です」


 神明は頷いた。特に驚くでもなく、表情を変えず。


 ――魔技研。噂の胡散臭い部署か。


 山本は、わずかに眉をひそめた。オカルトだの、魔法を研究しているだの、とかく怪しい噂話を小耳に挟んだことがある。


 正直、実績も聞かず、何故存在するのか、そもそもそんな部署が本当に存在しているのか、初見でも確かめる気にもなれなかった魔技研なる組織。正直、冗談の類いだと思っていた。


 変わり者と評判のある黒島だが、少なくとも山本や宇垣よりも魔技研を知っている風である。神明は淡々と言った。


「私が魔技研の者というのがわかったところで、そろそろ説明を始めてもよろしいでしょうか?」

「始めてくれ」


 山本は鷹揚に頷いた。魔技研などという眉唾ものの名前が出てくるのは正直驚きではあるが、ここに来るまで見た第九艦隊の戦いぶり、そもそも存在しないはずの戦艦『土佐』にいることを含めて、山本の好奇心はすでに限界に達していた。


 彼はこう見えて、面白そうなものに目がない男なのだ。


「まず最初に、第九艦隊の艦艇は、すべて一度海に沈んでおります」


 神明の第一声に、宇垣と黒島は目を見開いた。一方で山本は目尻が緩んだ。――ほら、面白いことを言う男だ。


「どういうことかね?」

「皆さんは、『土佐』という戦艦がどういう(ふね)かはご存じでしょう?」

「この『土佐』は知らないが、軍縮条約の影響で沈んだ『土佐』なら知っている」


 宇垣は言った。神明は小さく首肯した。


「まさに。その『土佐』は、いまあなた方がいる『土佐』なのです」

「魔法か」


 黒島は唇を歪めた。


「自沈した『土佐』を浮上させて修理したとでもいうのか?」

「まさしくその通りです」

「馬鹿な。連合艦隊はもちろん、軍令部だって、そんな計画はなかったはずだ」


 海軍が、沈没した艦を浮上させる。港で沈んだ船ならまだしも、海のど真ん中に沈めた戦艦を再度浮上させるなど、軍内で話題にならないはずがない。まして海軍軍縮条約で沈めた戦艦を再利用しようとするなど。


 山本は静かに口を開いた。


「この『土佐』が浮上したのはいつだね?」

「自沈して半年以内に」


 宇垣が息を飲んだ。馬鹿な、あり得ない――


「軍縮条約のことをおっしゃっているならば、ご心配なく。ワシントン海軍軍縮条約の次のロンドン海軍軍縮条約の失効後に、戦艦としての再生が開始されました。それまではただのスクラップとして存在していましたので、条約違反はありません」

「あ、いやそうではなくだな……」


 宇垣は言葉に詰まっている。山本はさらに口元が緩んだ。


「神明君。この第九艦隊の艦はすべて、一度沈んだと言っておったが……この『土佐』以外もそうなんだね?」

「ひとつだけ訂正を。戦艦『天城』だけは、正確に言うと解体が決まった後、魔技研で回収しました」

「いやいやいや、嘘を言うな!」


 黒島は立ち上がった。


「関東地震で廃棄が決まった『天城』は解体されて、その一部は浮き桟橋になっているではないか!」

「あの桟橋も天城ですよ。うちで作った複製です。……よく出来ていたでしょ?」


 無表情に近かった神明が、そこで初めて小さく笑みを浮かべた。まるで悪戯のばれた子供のような無邪気さを感じさせる。普段が真顔なので、その落差は大きい。黒島は閉口し、山本はわずかに肩をすくめた。


「説明に戻ります。現在、こちらに来ている第九艦隊の戦艦は『土佐』『天城』、『薩摩』と『安芸』の合成艦――便宜上『薩摩』と呼称しています」

「『薩摩』と言えば、前弩級戦艦の薩摩型か?」

「はい。標的艦として大正13年9月に沈んだ旧式の」


 その2隻が合成?して1隻の超弩級戦艦になったというのか? あり得ない。


「『薩摩』の次が、米戦艦『ワシントン』――」

「はあ!?」


 黒島が素っ頓狂な声を上げるが、神明は静かに答えた。


「コロラド級の三番艦、軍縮条約で廃艦が決定した戦艦です。軍縮条約がなければ、16インチ砲搭載戦艦として、コロラド級は4隻が建造されました」


 だが締結された軍縮条約によって、アメリカはコロラド級を3隻保有できたが、建造中だった1隻は廃棄となった。……神明は、その廃艦となった戦艦『ワシントン』を拾ってきたという。


「残る2隻は、ドイツ帝国海軍のバイエルン級戦艦『バイエルン』と『バーデン』です」


 第一次世界大戦後に、スカパフローで自沈した、ドイツの超弩級戦艦『バイエルン』。

 同型艦である『バーデン』は、スカパフローでの自沈を阻止されたものの、1921年8月、イギリス海軍の標的艦として沈められた。


 宇垣も黒島も、もはや絶句するしかなかった。

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