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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第一一二三話、皇帝の怒り


 ムンドゥス帝国地球遠征軍総司令部は、通夜のような雰囲気となっていた。北米侵攻作戦の遂行に大きな暗雲が立ち込めていたからだ。

 日米連合艦隊の反撃。米本土を空爆していたアステール航空隊の母艦である海氷空母群が13隻中10隻を喪失した。

 搭載するアステール、コメテスも八割を失い、残存機は東海岸の海氷空母に収容された。


「第12艦隊も壊滅した」


 カサルティリオ総参謀長は溜め息をついた。


「日米艦隊を撃滅できていれば……クノク・アイル群の喪失は痛いが、まだ作戦を継続することができた」

「……」

「だが、敵艦隊は半数以上が無傷、大半の艦が戦闘可能な状態で残っていると思われる。我々がもっとも恐れた展開だ」


 参謀団は、気まずげに視線を彷徨わせている。


「我々は決断を強いられている」


 カサルティリオは厳かに告げた。


「このまま作戦を継続するか、あるいは中止するか……」

「円盤要塞の戦力が大幅に低下したのは事実ではありますが――」


 作戦参謀が口を開いた。


「すでに米軍の重爆撃機基地は全て破壊しております。我々がもっとも警戒すべき核兵器の使用を封じていますから、上陸作戦を開始してもよいかと」


 もうアステールの空爆のフェーズは終わっていると作戦参謀は言った。沿岸部の都市はすでに焼き払っているため、上陸作戦における艦隊による事前支援も最低限で済むと思われた。


「問題は、日米艦隊の妨害ですな」


 艦隊参謀が発言した。


「敵に大した打撃を与えられなかった以上、日米艦隊は東海岸にも現れるでしょう」


 海氷空母を全滅させ、帝国陸軍が上陸したら船団や上陸部隊、そして艦隊に対しても攻撃を仕掛けてくるに違いない。


「核兵器を恐れる必要がなくなった今、我が艦隊の戦力を結集し、上陸作戦を敢行してもよいのでは?」


 圧倒的な物量で、地球艦隊を踏み潰す。アメリカの太平洋艦隊は、今年頭のアメリカ大西洋艦隊の規模を見れば、遥かに少なく、日本の連合艦隊もまた二千艦隊との決戦で、大きく戦力を失っている。


 戦力が回復しきっていない今ならば、たとえ日米艦隊が現れたとしても、ムンドゥス帝国主力艦隊を結集すれば、返り討ちにできるのではないか。


「気に入らない……」


 ぼそりとカサルティリオは言った。参謀たちはギョッとする。


「諸君らも、地球征服軍が実施した北米侵攻作戦の結果は知っているであろう? 3個戦闘軍団を投入した戦いは、戦力で圧倒的に勝る征服軍側が敗北した」

「……」

「皇帝陛下からも、失敗した作戦の焼き回しではないかと指摘されていた。物量で押して一度失敗しているにも関わらず、同じ戦法が通用すると思っているのか?」


 それは叱責であった。あの冷静なカサルティリオが苛立っている。参謀団も嫌な空気を感じている。

 皇帝の愛人である彼女だからこそ、皇帝からの指摘を受けた上で実施した作戦に失敗できないというプレッシャーがあった。


 その時、本部作戦室内に独特の音が流れた。皇帝陛下の到着を告げるその音は、カサルティリオや参謀たちの背筋を一斉に伸ばさせた。


「やっているな」


 ムンドゥス皇帝が現れた。予定外の来訪に場にいた将校らは固まる。カサルティリオは一礼した。


「陛下」

「海氷空母群の壊滅の件は聞いたよ」


 皇帝は自然に振る舞っているが、その声は周囲にひどく緊張を誘った。あまり機嫌がよくないのを皆、理解したからだ。


「どうかね、総参謀長? 北米侵攻作戦は」

「はっ、アステール円盤要塞による空爆策に支障は出ますが、すでに主要目標は破壊しております。上陸作戦は実行可能です」


 カサルティリオはいつもの冷静さで、皇帝に告げた。説明を聞いていた皇帝は、にこりともせず、やがて重々しく言った。


「余は、ここ最近の軍に不満を抱いている。いや落胆したというべきかもしれない」


 その言葉は、室内の一同に再び極度の緊張を強いた。ある者はごくりと唾を飲み込み、またある者は自然とくる震えを何とか抑えようとした。


「皇帝親衛軍についても、ここのところ損害が目立つ。余は憤りをおぼえている」


 皇帝は静かに、居並ぶ将校らを見回した。


「北米侵攻作戦は、中断とする」

「陛下!?」


 カサルティリオが驚いた。皇帝は『聞け』とばかりに手のひらを向ける。


「一時的なものだ。いずれは北米は手に入れる。他の戦線からの物資と戦力増強を待ってもよい。……余は命じる」


 参謀らは踵を鳴らして気をつけの姿勢をとった。


「軍は総力をあげて日本の軍備を破壊せよ。艦隊、航空機――今後一切、我が覇道の邪魔立てができぬように完膚なきまでに叩き潰せ。総司令部の作戦立案、指導も打倒日本のために全力を尽くせ。……それ以外のことは些事である」

「ははっ」


 司令部にいる将校全てが頭を下げた。大命は下った。ムンドゥス皇帝は、アメリカを後回しにし、日本を叩けと号令をかけたのだった。



   ・  ・  ・



 皇帝親衛軍は、帝国軍より先んじて、ムンドゥス皇帝から日本軍打倒を最優先とせよと命じられていた。

 親衛軍長官のササ大将は、紫星艦隊司令長官のヴォルク・テシス大将を呼び、こう言った。


『我々のウルシーでの一戦、ハワイの襲撃を受けたことを含め、皇帝陛下はご立腹だった』

「成果はありました」

『が、陛下は勝利を求めておいでだ。自ら出向いた世界で、自慢の軍が何度も煮え湯を飲まされる状況を不愉快に思われておられる』


 ササは仮面で隠した素顔を見せないまま言った。


『特に貴殿の紫星艦隊が決定的な勝利を得られていないことが、あの方を苛立たせているようだ。貴殿の積み上げた陛下の信頼も、ここらで見返してやらねば危ないぞ』

「肝に銘じます」


 テシスは頷いた。しかし、と紫星艦隊司令長官は皮肉る。


「これはあれですな。皇帝陛下は地球征服軍の作戦の焼き回しをご注意なされたそうですが、北米侵攻作戦にしくじり、日本を標的にするというのは、どうにも地球征服軍と同じ道を辿っているようで、何とも言えない気分になります」

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