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第一一一二話、北米救援作戦


 連合艦隊はウルシー環礁を巡る戦いで、主力の一角である第二艦隊に大きな被害を受けた。


 第三艦隊は健在で、第二艦隊の穴も復活、再生した無人艦で埋まりつつあった。だが、佐々山ら異世界帰還者や義勇軍艦隊の帰還で、陸のほうが事態の収集にてんやわんやの大騒ぎであり、連合艦隊もまたそれに振り回される格好であった。


 つまり、政府や陸海軍上層部で今後の方針、佐々山 久雄らの扱い、その艦隊の問題も含めて中々話がまとまらず、連合艦隊も戦力回復に務める以外に宙ぶらりんの状態にあったのだった。


 そんな連合艦隊司令部を、神明 龍造少将が訪ねた。

 連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は、参謀長の草鹿 龍之介中将、首席参謀の神重徳大佐と共に神明を迎えた。


「北米救援作戦の実行?」

「はい。義勇軍艦隊のハルゼー提督がしびれを切らしています」


 現在、かの御仁が率いる義勇軍艦隊は、ウルシー環礁の仮泊地にいる。艦隊を率いるウィリアム・ハルゼー中将は、転移室を利用して佐々山艦隊に度々訪れていて、活発な情報収集を行っていた。

 そして異世界帝国による北米侵攻によって国が攻撃され、生まれ故郷のニュージャージー州が焼け野原になっていると聞いて、いてもいられない状態にあった。


 だが即時に義勇軍艦隊が行動に移さなかった理由は、ルベル世界からの帰還で、本格的な修理、オーバーホールが必要な艦艇が少なくなかったからだ。

 要するに。


「義勇軍艦隊独自に救援に行くのは、戦力的に心許ない。ハルゼー提督もそう考えているわけだ」


 小沢が言えば、神明は頷いた。


「本国と連絡がとれたようなのですが、日本側の作戦があるので、そちらを支援するようにと言われたとか」

「作戦?」


 そんなものがあったか、という顔をする小沢に、草鹿は言った。


「軍令部主導の、レキシントン戦隊のことでしょう」

「あー、あったな。回収したレキシントン級巡洋戦艦を改装した艦隊で、敵の海氷空母を叩こうというやつだったか」


 連合艦隊を預かる小沢は、軍令部の作戦は担当違いというふうな顔をした。一応、レキシントン級を再生させる際、連合艦隊にもお伺いが立てられていたから、かろうじて知っているというレベルである。


「準備はできているのか?」

「再生して、出撃準備はほぼ整っているようですが、フィリピンやウルシー環礁を巡る一戦のこともあって、作戦が中断されているようで」


 神明は答えた。小沢は眉をひそめた。


「内地のほうで方針が定まらないことには、連合艦隊も動けないからな。……ただレキシントン戦隊の北米救援作戦については軍令部の管轄であるし、それに義勇軍艦隊が参加するにしろ、こちらとしてはまあ頑張れとしか言いようがないな」


 連合艦隊は命令がなければ動かない。そう小沢は言った。


「ついでに言えば、神明、貴様の第一遊撃部隊も軍令部の預かりだ。おれにいちいちお伺いを立てなくてもいいんだぞ?」

「それはそうなのですが、できれば連合艦隊司令長官もいざという時に味方をしていただきたいと思いまして」

「ほう、つまりは根回しか」


 小沢は相好を崩した。


「で、今度は何を使おうというんだ?」

「佐々山先輩が持っていた艦隊の一部を、作戦に投入したく」

「……なるほど」


 表情を引き締める小沢である。日本政府と海軍は、佐々山 久雄らの艦隊を自国に組み込み、連合艦隊の戦力にしたいと考えている。

 そうなれば、戦力不足の連合艦隊にもその艦隊が加わるわけだが、その前に戦線投入されて消耗したら、連合艦隊側からするとあまり歓迎できる話ではなかった。


「それは確かに、貴様が筋を通しに来るわけだ」


 小沢は頷いた。


「ただまあ、北米救援に連合艦隊が動かないのは、同盟国としてはあまり体面のよい話ではない。こちらとしては協調の姿勢を見せるためにも黙認しろと」

「佐々山先輩の艦隊を使うことに難色を示す勢力から、長官はどう考えているのか、意見を求められるのではないかと思いまして」

「連合艦隊が渋れば、断る材料になるというやつか」

「長官」


 草鹿参謀長が口を開いた。


「佐々山 久雄という男は信用できるのでしょうか?」


 彼がかつて魔技研にいたというのは、神明や武本ら彼を知っている人間の証言は得られている。ただ草鹿が、いや上層部の中が、佐々山艦隊に対する扱いに苦慮している理由もあって。


「例の紫の艦隊の司令官も、佐々山 久雄の名前を使ったと聞きます。敵が何故、彼の名前を騙ったか、あるいは帝国と繋がっているのではないか、疑問があります」

「……神明。これについて佐々山は何か言っているか?」


 話を振られ、神明は頷いた。


「佐々山先輩の話では、捕虜になった際、血液などを採られたそうです。異世界帝国はそういった血からクローンと呼ばれる複製人間を作る技術を持っているとか」

「複製人間……!?」


 話を聞いていた神が目を丸くした。草鹿も渋い顔になる中、神明は続ける。


「たまたまでなければ、もしかしたらその敵の指揮官は複製人間の可能性もあるかもしれない……と佐々山先輩は言っていました」

「にわかには信じがたいが、複製された人間が複製前の人間の名前を使うのは、おかしいことではないのか……。いや、おれにはわからんな」


 小沢は腕を組んだ。


「神明、貴様はどう思う? 佐々山 久雄を信用できる?」

「魔技研の医療班は、洗脳などの兆候は確認できなかったと申しています」


 神明は淡々と告げた。


「彼の証言からは疑う要素はありませんが、実際に戦っているところを見れば、わかることもあるでしょう」

「……むしろ、艦隊に編入される前に使え、ということか」


 小沢はそれを察して苦笑する。神明も薄く口元を緩めた。


「国際共同作戦については、佐々山先輩も強く望んでいます。離反、造反を危惧するのであれば、大事にならないうちに見極める材料があったほうがよいと考えます」

「おれは、彼を疑ってはいないよ」


 小沢は他人事のように言った。


「貴様は話が上手いな。おれも難色を示されたら、それを真似させてもらう。まあ、好きにやってくれ」


 連合艦隊司令長官は、神明の行動にお墨付きを与えるのであった。

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