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第一一一〇話、その男、佐々山 久雄


「佐々山 久雄だと!?」


 その名前に武本 権三郎中将が大きな声を発するのも無理はなかった。突然のことにびっくりする新堂 儀一中将だが、伊藤 整一中将が助け船を出した。


「実は、我々はつい先ほどまで異世界帝国の紫の艦隊と戦っていたのですが、それを率いていた指揮官が佐々山 久雄と名乗ったのです」

「それは……」


 さすがに新堂は絶句する。義勇軍支援部隊参謀長の樋端 久利雄大佐は無表情のまま口を開いた。


「直接顔を合わせたわけではないですが、異世界帝国艦隊の佐々山 久雄は本物ではないでしょう。もしあちらが本物というのであれば、こちらの艦隊を率いている佐々山さんは何者か、という話になります」

「いるのか!? 佐々山が」


 武本が目を見開く。樋端は淡々と言った。


「会われますか?」

「もちろんだ! いいな、神明?」


 武本が確認してきたので、神明 龍造少将も頷いた。佐々山 久雄は魔技研の先輩であり、新技術の開発と軍備の整備に関して、直接の上司であった。

 彼が転移実験で乗艦ごと行方不明になったことで、神明が彼の後を引き継いだのである。


 樋端は、支援部隊の旗艦である重巡洋艦『栗駒』に戻ると言った。あちらの転移室には、佐々山艦隊の旗艦と転移室で移動できるよう設定されている。『栗駒』を経由すれば、連合艦隊旗艦『出雲』に佐々山を連れてくることができるのだ。

 待つことしばし、やがて純白の第二種軍装をまとう海軍将校が、浮遊する椅子に乗って現れた。


「着席したまま失礼します。……この通り足がありませんので」


 そう言ったのは、佐々山 久雄海軍少佐であった。頬に傷を持つ痩せたこの男は、本人の言うとおり両足を失っていた。

 以前の彼は、がっちりした体躯の持ち主で柔道の達人。岩のように逞しかったが、すっかり痩せて、むしろ細かった。

 あまりの変わりように、神明は絶句する。


「武本さん、神明、久しぶりだな。まだ生きていたんだな」

「……」

「馬鹿モン。それはこっちのセリフじゃ」


 武本は歩み寄ると、佐々山の肩を叩いた。


「よく……戻ってきたな。佐々山」

「ご心配をおかけしました!」


 佐々山は敬礼をしようとして、武本が差し出した手を握った。


「こっちでは貴様は死んだことになっておったんだがな。言いたいことも山ほどあるだろう。聞いててやるから全部話せ!」


 武本は、異世界生還者である元部下に涙ながら促した。



   ・  ・  ・



 太平洋上で、転移実験を行った試験船『太平丸』は、異世界に転移した。

 原因は不明。転移装置も故障、というより派手に爆発したことで乗組員八人が死亡。生存した佐々山らだったが、すぐにムンドゥス帝国軍によって捕まってしまった。

 あろうことか、そこはムンドゥス帝国本国のある世界だったのだ。


 捕虜生活の間、人体実験で足を失った彼だが、皇帝の反体制派によって助けられた。その後、地下に潜伏しながら、どうにか元の世界に戻る方法を模索しつつ、ムンドゥス帝国に対抗できる軍備の研究、整備を行うようになる。


 似たような経緯で、ルベル世界で抵抗勢力にウィリアム・ハルゼーは救出されたが、その抵抗勢力に装備や物資を提供したのが、佐々山ら魔技研出身の転移組だった。


 ムンドゥス帝国が地球世界に侵略を始めたことは聞いていた。ゲートを一時的にでも奪取し、そこで地球へ帰還することはできた。


 が、ただ地球に帰っても、帝国に征服されてしまっては意味がない。そのため打倒、ムンドゥス帝国のための戦力の増強に突き進んだ。

 その過程で、佐々山の抵抗勢力は緑軍との接触を受けた。聞けばムンドゥス帝国は、彼らの世界にも侵略していたという。帝国が二度と別世界に手を出せないようにするという緑軍の話を聞き、帝国本国の情報を提供。その代わり、自分たちの地球世界、さらにルベル世界に収容されている地球人を元の世界に返すための協力を仰いだ。緑軍は快くそれに応じ、作戦は開始された。


 それが緑軍空中艦隊による世界間移動の装置の破壊。異世界ゲートを使用不可能に追いやった事件。

 その後、佐々山とそのグループは、用意していた軍備と共に緑軍と共にルベル世界に移動。抵抗勢力にいる他の世界出身の者たちが、緑軍によって元の世界に返される中、ルベル世界で地球人を救出、孤立していたハルゼー提督ら義勇軍艦隊と合流。事情説明の後、義勇軍艦隊、義勇軍支援部隊、そしてルベル世界に連れ去られ生存していた地球世界住人は、地球に帰還を果たしたのであった。


「――とまあ、かなりざっくりと話しましたがー」


 佐々山が言えば、武本が顔をしかめた。


「ざっくりし過ぎだ、馬鹿者! 貴様はちっとも変わっておらんな!」

「いやぁ、長話したところで皆さんの集中力がもたんでしょう」


 あっけらかんとした調子で笑う佐々山である。


「細かなところは、資料でまとめてあるので、そこのところはそっちで確認してください。俺もそんな長時間喋るのは喉にきついのでね」

「大まかなところはわかった」


 連合艦隊司令長官である小沢 治三郎中将は頷いた。


「まず一言、ご苦労だった。よくこの世界から連れ去られた人々を連れ帰ってくれた」

「はっ、恐縮です。恥ずかしながら、生にしがみつき、みっともなく生きて参りました」

「いや、貴様はその体になっても戦い続けたのだ。打倒、異世界帝国。その一念でよくぞ艦隊を整備し戻ってくれた。貴様が持ち帰った戦力は、日本とこの世界のために必ずや役立ってくれるだろう」


 小沢が改めて頷くと、草鹿 龍之介連合艦隊参謀長が発言した。


「こういう時に言うべきではないかもしれないが、異世界帝国の内情や軍備について記録はあるだろうか?」

「もちろんです。いつか地球に戻った際、役立てるよう資料をまとめてあります。ご活用ください!」


 佐々山はきっぱり告げた。小沢は口を開いた。


「これまでのこと、異世界帝国のこと、これからも色々聞くかもしれんが、それは追々ということで、今は目先の事柄から潰していこう」


 佐々山が持ち帰った艦隊の装備、その預かりがどうなるのか? 乗員がどういう構成なのか――地球帰還者たちの国籍のこともあれば、そのまま海軍に編入というのも難しいかもしれない。

 ついでにいえば、多国籍な構成である義勇軍艦隊も、装備に関して一言ある可能性がある。


「そのハルゼー提督とも、まず話をしておく必要がありますな」


 草鹿は言った。


「彼らも現在の地球世界の状況を知りたいでしょうし。今後の協力の問題もあります」

「うむ、内地にも話をせねばならんし……。頭が痛い問題だ」


 軍令部、海軍省、政府も色々言ってくるだろう。ついでに他の国からも――

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