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第一一〇四話、潜水艦隊同士の激突


 潜水戦艦『ワレブスクルム』は、ムンドゥス帝国のニューミレニアム・シリーズに分類される新鋭艦である。

 全長290メートル、排水量5万8000トン。全体的にスリムなシルエットを持ち、艦橋構造物は帝国戦艦特有のものだが、海中での航行を考え、砲を含めた構造物は極力低く抑えられていた。


 帝国親衛軍、紫星艦隊の旗艦として、『ワレブスクルム』は、潜水型駆逐艦を引き連れ、ウルシー環礁の海で日本軍第一遊撃部隊と対峙した。


『敵隊列、衝撃によって乱れます!』


 海底敷設型魚雷発射管『オクトパス』。マダガスカル島防衛の際にも活用した仕掛けによって放たれた衝撃魚雷は、日本海中艦隊の下方からの一撃を浴びせた。荒れ狂う海の中の衝撃波は、日本艦を押し出した。


「いささか爆発が早かったな」


 紫星艦隊司令長官、ヴォルク・テシス大将はもたらされる報告に神経を集中していた。

 日本軍ではどうかは知らないが、ムンドゥス帝国における海中での索敵は従来の音頼りのほか、視覚的に見ることができるよう現在研究開発が進められている。


 新鋭艦『ワレブスクルム』の司令塔にも、海中モニターが採用されているが、正直、観光目的ならまだしも、敵を視認して戦闘をするには不充分であった。

 だから、テシス大将は報告から脳内で状況を浮かび上がらせ、艦隊を指揮していた。


「日本艦隊は、うまく下方からの魚雷を回避したようだ」

「回避しきれなかったようですが」


 参謀長のジョグ・ネオン中将は事務的に告げた。日本艦隊の陣形は乱れている。


「撃沈できていない時点で、よく回避したものだと考えるべきだよ」


 衝撃魚雷が敵艦隊内で炸裂したならば、半数以上の艦が戦闘不能ないし沈降、残りも内部機器の破損で以後の行動に差し支えていただろう。


「やはり、果断な指揮官だよ、あれは」


 最初に放った合図の衝撃魚雷に対しても、日本軍は早々と迎撃した。ただの貫通魚雷ではない可能性に気づいたのだろう。


「提督、この機を逃すべきではないと考えますが?」

「無論だ。全艦、突撃せよ!」


 テシス大将の号令がかかった。紫星艦隊潜水艦隊は、『ワレブスクルム』を中心に前進を開始した。

 水上と同様とはいかないが、水中速度17ノットで日本艦隊との距離を詰める。


「艦首、転移砲を発射。……当ててくれよ!」


 ムンドゥス帝国において海中での砲撃は、まだ改良の余地を多く残す新分野だ。特にその照準システムについては、まだまだ自信を持てるレベルではない。

 だからこそ、日本潜水艦隊には陣形を崩してもらってまともに応戦できない状況を作る必要があったのだ。


 ――とはいえ、彼らもすぐに立ち直る。


 テシスは決して楽観はしてない。衝撃魚雷の牽制を想定より早く迎撃し、ダメージを最小に抑えた日本艦隊である。


 ――どこまで叩ける……?


 推測が正しければ、この日本艦隊がここ最近の帝国艦隊を撃滅してきた。

 ムンドゥス帝国の海中索敵システムの都合上、艦種の特定に至っていないが、レイテで大暴れしていたヤマト艦隊の可能性すらある。これをやらねば、今後も我が軍の被害は拡大するのだ。


 潜水戦艦『ワレブスクルム』の甲板にある球形砲塔が、前方の日本艦隊に指向。40.6センチ転移砲が瞬き、その瞬間、狙われた日本戦艦『磐城』に命中した。



   ・  ・  ・



 異世界帝国海中艦隊は進撃を開始した。

 マ式ソナーによって浮かび上がってきた敵は、衝撃魚雷によって乱れた第一遊撃部隊第一部隊を攻撃した。


『ワレブスクルム』の転移砲弾は、陣形の前へと押し出され、向きを修正中だった戦艦『磐城』に吸い込まれた。弾薬庫への直撃だった。

 海の中、イギリス、リヴェンジ級改装戦艦は大量の泡と衝撃波を撒き散らして爆散した。


『「磐城」、轟沈!』


 敵の攻撃を受けた。第一遊撃部隊第一部隊司令官の神明 龍造少将はその攻撃方法を思案する。

 戦艦が一隻失われた。魚雷などの接近は感知していない。突然、爆発四散したように見えた。


 ――まさか、敵も海の中で使える転移砲を……。


 初遭遇の戦艦。それも異世界帝国では珍しい潜水戦艦だ。使用する武器が転移砲であるなら、早々に撃沈しなくては第一部隊にとっても、ウルシー奪回のために動く各部隊にとっても非常に危険な存在である。


『巡洋艦「野洲」大破! 沈降中!』


 次の被害が出た。藤島 正先任参謀が唸る。


「また……! 何にやられたんだ……?」


 転移砲の恐ろしいところは、いつ撃たれたかが非常にわかりにくいことだ。撃った次の瞬間には当たっているのだから、弾道は見えず、かろうじて敵の砲門がどこを向いているか、そしてそこに攻撃された艦がいるかで判断するしかない。


 だが戦闘中に、いちいちそこまで確認できるのは稀だ。たとえ砲を向けられているとしても、本当にそのフネが撃ってきたのかわからないのだから。


「反撃だ!」


 神明は声を張り上げた。

 敵が転移砲を使っているという可能性だけでも、速攻する理由には充分だ。逃げや回避行動など、下がろうとするだけ敵にとっては都合がよい。

 有無を言わせず、こちらも転移砲で反撃。それが転移砲を持つ者同士の戦い。ひたすら攻めて、敵に攻撃させる前に沈めてしまうことが味方を助けることに繋がる。


「陣形は気にするな! 全艦突撃!」

「突撃ですか!?」


 藤島が言ったが、神明は彼を見なかった。


「前進だ! 陣形を保つ必要はない。戻っている暇があるなら敵を叩け!」


 第一部隊各艦が、各個に反撃を開始する。戦艦『大和』『蝦夷』が照準をつけるのにもっとも近かった敵駆逐艦に水中対応型主砲を向けて攻撃。次の瞬間、異世界帝国の潜水型駆逐艦が粉微塵に吹き飛んだ。駆逐艦相手にオーバーキルである。


『潜水艦『伊122』轟沈! 駆逐艦「夏潮」大破!』


 敵艦を撃沈しているが、味方艦艇も被害が続出する。恐るべきは転移砲同士の撃ち合い。先に殴ったほうが勝ちである。

 戦艦『サラミス』が転移砲を撃ちながら突進する。その先には敵旗艦――『ワレブスクルム』がいる。

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