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第一一〇三話、海面下の戦い


 海中を進む一本の魚雷。

 異世界帝国の潜水艦隊から放たれたそれは、徐々に第一遊撃部隊第一部隊に迫っていた。

 司令官、神明 龍造少将は、先ほどから猛烈な違和感をいだいていた。


 敵は、海の中を進む第一部隊を発見し、先制してきた。だが、何故魚雷一本なのか? ソナーで把握した反応に向けてとりあえず撃ってみた? 音を消し、待ち伏せていた、あるいは警戒している者が、自らの位置を露見するような軽はずみな行動をするだろうか。

 すると、この魚雷に何か仕掛けがあるのだろうか?


 耳潰し――ソナーマン潰しの音響爆発魚雷か、あるいは――


 神明は魔力通信機の受話器をとった。その連絡先は戦艦『大和』。艦長の有賀 幸作大佐を呼び出す。


「――有賀か。神明だ。対潜誘導魚雷で、艦隊に接近中の魚雷を破壊しろ。大至急だ」


 神明の乗艦する旗艦『妙義』にも水中発射管はあるが、艦隊の位置が中央寄り。それより前に位置している『大和』に早期に魚雷の迎撃を命じる。

『妙義』を制御する魔核操作員の瀬戸 麻美中尉が口を開く。


『敵潜水艦隊、前進を開始!』

「司令!」


 藤島 正先任参謀がどういうことかという顔をする。通話を終え、隊内電話を置いた神明は答えた。


「接近中の魚雷は、中部太平洋海戦で第六艦隊がやられた新型の衝撃魚雷の可能性が高い」


 一定範囲に強烈な水中衝撃波を発生させ、ダメージを与えてくる広範囲兵器だ。防御障壁を破砕する効果があり、さらに追い打ちをかけられて第六艦隊は、かなりの潜水艦を失った。


 現在の潜水型艦艇には、対魚雷防御用の衝撃波発生装置が装備されていて、迫る魚雷をを迎撃することができる。だが敵の衝撃魚雷はそれより広い範囲に強烈な衝撃波をぶつけてくる。


「しかし司令。向かっている魚雷は一本なのでしょう? 障壁で一発耐えれば、その間に水中転移砲で返り討ちにできますよ?」

『大和、魚雷発射!』


 瀬戸のアナウンスが途中で割り込んだ。さすが『大和』、対応が早い。神明は藤島を見た。


「水中でぶつけられる衝撃波で、どんなダメージを受けるかわからない。艦体はもっても、内部の機械がやられるかもしれない。敵も追い打ちをかけてくる」


 だから、できるだけ遠い位置で爆発させて衝撃波を弱める。『大和』の誘導魚雷ならば、向かってくる魚雷の迎撃も可能だ。


「それと部隊全艦に、全方位からの魚雷に対する警戒を命令。追い打ちは何も正面の敵だけとは限らない」

「司令?」

「マダガスカル島の海底魚雷発射管を思い出した。奴ら、我々が来ることを想定して待ち伏せていたなら、当然トラップも用意したはずだ」


 機雷などの可能性もあったが、そちらは今のところその確認されていない。


『間もなく魚雷、衝突! 5、4、3、2、1――!』


 魚雷同士がぶつかった。『大和』の能力者――正木 初子大尉はきちんと敵弾を阻止したのだ。

 わずかながら衝撃波が、第一部隊に届き、僅かに艦を震わせた。効果範囲については神明も把握していないが、早期迎撃でこれでは、もっと近くで炸裂していたら、かなり危なかったかもしれない。


『! 下方より複数の魚雷らしき高速移動物体!』


 瀬戸が声を張り上げた。今頃、各艦艇の魔核操作員が同様の報告を艦長らに報告しているだろう。


「今のは目覚ましだったな。衝撃で起動する敷設魚雷かもしれない」


 神明は、無人艦制御席の管制官らを見下ろす。


「部隊の無人艦にロール指示。下方に誘導機雷を散布。散布後、能力者は機雷を誘導、魚雷を迎撃しろ」

『了解!』


 管制官らは無人艦の直接操作を開始する。ただの命令を発するだけでなく、細かな指示そして非常時の遠隔操作が可能なのが、無人艦制御装置を積んだ制御艦『妙義』である。この妙義には五人が担当しているが、かつて撃沈された『八咫烏』には数十人が専用の制御室に勤務していた。


「下からの攻撃とはな……」


 艦艇というのは基本、武器は水平方向から上に装備されている。誘導兵器はあれど、真下に対する攻撃手段を持つ艦艇はない。……円盤兵器やその派生の空中軍艦は真下への攻撃手段を持つが、それは空を飛ぶという機能故である。

 だから、潜水可能な艦艇の真下から水上艦を攻撃するのは、非常に強力である一方、反撃を受けにくい。


 ――きちんと真下から狙ってくるとは、敵もわかっているな。


 対策に、水中でも発射可能な爆雷のようなものを作るべきかと神明は考える。

 潜水可能な戦艦である改リヴェンジ級戦艦『駿河』『近江』『磐城』『常陸』には、その機能をもたせた時から誘導機雷が装備されている。

 無人艦に改装されたこれらは艦体をロールさせると、搭載機雷を発射。すみやかに第一部隊下方に機雷をばらまいた。

 さらにアブディール級敷設艦改装の『早月』『野洲』、プルトン級敷設巡洋艦改装の『雨竜』ら軽巡洋艦も、後方に誘導機雷を流して、戦艦の機雷敷設の穴を埋める。


「ここまでする必要があるんですかい?」


 藤島が首をかしげれば、神明は答える。


「敵魚雷が障壁貫通魚雷だったら、迎撃に失敗したらアウトだろう」


 いくら衝撃波発生機があって魚雷迎撃が可能とはいえ、上手く死角を突かれたら目も当てられない。


 ばらまかれた機雷は能力者が誘導し、各個に魚雷の針路を妨げる。そして衝突――


 一つの爆発が起きた。そしてそれはあっという間に全体に広がり、他の魚雷もろとも誘導機雷群を一掃し、凄まじい衝撃を四方に飛ばした。


 大型巡洋艦『妙義』が激震に見舞われた。下方からの突き上げは、第一部隊の陣形を乱し、軽巡『鹿島』、駆逐艦『天津風』『時津風』を跳ね飛ばした。

 衝撃の大きさに乗組員たちが悲鳴をあげる。神明は近くの取っ手を掴んで転倒を免れた。


「――全部、衝撃魚雷だったか……!」


 部隊全体が衝撃に煽られた。早めの迎撃でなければ、今の衝撃で何隻かが破壊されていたかもしれない。

 先ほど機雷を散布をした戦艦や敷設艦も大きく位置が変わっている。特に戦艦『磐城』が、部隊の先頭にまで押し出されていて、『近江』は戦艦『蝦夷』と衝突しそうになり、何とか回避した。


「被害報告!」


 艦長が確認を急ぐ中、隊列の乱れた日本艦隊に、異世界帝国潜水艦隊――紫星艦隊は攻撃を開始した。

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