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第一一〇二話、転移戦艦の転移砲攻撃


 第一遊撃部隊の介入で、第二艦隊は個々の敵に対応できる余裕ができた。

 巡洋戦艦『竜王』『薬師』の46センチ連装砲が、海氷から出てきたエクエス級戦艦に突き刺さる。


 エクエス級は基準排水量5万5000トン。50口径40.6センチ三連装砲3基9門を搭載、最高速度34から35ノットを出せる高速戦艦であった。

 装甲も標準以上の良艦だが、交戦距離2000メートル以下の近距離では、46センチ砲はおろか41センチ砲弾に耐えることはできなかった。


 最初の一撃でエネルギーを使い、防御シールドすら張れないところを、生き残った日本戦艦から狙い撃たれ、たちまち被弾、炎上する。

 一度は奇襲で戦艦、巡洋戦艦を7隻一挙に失った第二艦隊だが、その反撃は襲撃者を返り討ちにした。


「一時はどうなるかと思ったが……」


 第二艦隊司令長官、伊藤 整一中将は旗艦『竜王』の艦橋で一息ついた。参謀長の森下 信衛少将も口元を歪めた。


「まさか海氷の中に、戦艦を潜ませていたとは思いもしませんでした」

「わかってしまえばその手があったか、と感嘆させられるが。……まったく肝を冷やしたよ」

「確かに」


 首肯した森下は正面に向き直り、ふとはっきり見える位置に敵の戦艦が航行しているのに気づき、目を見開いた。


「何だあれは……!」


 直後、見張り員が叫んだ。


「右80度方向に敵戦艦! 反航! 距離およそ4000!」

「近いぞ! 艦長!」

「応戦します! 主砲、目標変更!」


 竜王艦長の津野田 一郎大佐がただちに命令を出す。直後、後ろで轟音が響いた。


「『薬師』被弾!」


 旗艦のすぐ後ろを航行していた僚艦の『薬師』がどす黒い煙を噴き上がらせてその姿が見えなくなった。


「『薬師』爆沈!」


 爆発の衝撃からして主砲塔と弾薬庫が吹き飛んだか。凄まじい爆発音はまたも聞こえた。


「『紀伊』に命中弾! あっ、傾斜増大中!」



   ・  ・  ・



 常備排水量4万7500トンの13号艦型巡洋戦艦の『薬師』が轟沈し、続いてネルソン級戦艦を魔改造した『紀伊』がやられ、その艦が前後に真っ二つになって転覆した。


 第一遊撃部隊第二部隊は、敵テュポース級大型巡洋艦と交戦していたが、第二艦隊の戦艦爆沈の衝撃は、旗艦『武尊』にも届いた。


「敵戦艦が入り込んでいるぞ!」


 武本 権三郎中将は叫んだ。第二艦隊が巨大海氷に方の敵戦艦を葬っている反対側に、オリクト級に似た、しかし砲身のない球形砲塔を持つ戦艦が二隻、突然そこにいた。


「何故あそこに入られるまで気づかなかった!?」

「もしや、転移を使ったのでは……?」


 佐賀首席参謀が発言した。転移、と武本が呟いた時、見張り員が絶叫した。


「後方! 敵戦艦!」


 振り返ったその時、戦艦列最後尾だった『霧島』が爆発した。


「一撃でやられた……!?」

「転移砲だ!」


 武本は駆け出すと、艦橋の窓に貼りついて後ろの方へ視線を向けた。


「敵の転移砲搭載戦艦だ!」


 砲弾を転移させ、防御障壁をすり抜けて砲弾をぶつけてくる超兵器。発砲時の加速をそのままでぶつけるため、貫通力が一番強い状態で命中し破壊力が半端ない。しかも撃たれた時には当たっているという恐るべき砲だ。


「潰せ! すぐ潰せ!」


 撃たれたら、その時には致命傷を受けている。その時、『霧島』を撃沈した敵戦艦が今度は突然の爆発轟沈した。


「『榛名』より入電。我、敵戦艦を撃沈!」


 おおっ、と艦橋に声が通り抜けた。『霧島』の前を行く僚艦の『榛名』の後部主砲がとっさに砲を振り向け、姉妹艦の仇を討ったのだ。35.6センチ連装転移砲を搭載する金剛型もまた、その打撃力は侮れない。


「しかし、双方が転移砲で撃ち合うのは、何とも味気ないものですな」


 佐賀は呟くように言った。ガンマンの早撃ちのように、先に銃を抜いた方が相手を倒している。しかも目にも止まらない早業で。


「まだだ!」


 武本は叫ぶ。


「敵は転移で戦艦を送り込んでいる! 全方位を監視! 発見の遅れは致命傷だぞ!」



   ・  ・  ・



 その頃、ウルシー環礁の南側、巨大海氷の裏に、特別転移砲艦『ワガブンドゥス』が存在していた。そして、転移待ちのリコフォス級戦艦が5隻と駆逐艦が15隻、整列して待機していた。


 環礁の北で、第二艦隊が奇襲を受けた頃に、こちらも海氷から姿を現した艦隊であったが、偵察の彩雲改二がたちまちそれを発見、通報した。

 第一遊撃部隊第一部隊の水中攻撃部隊は、南側の敵艦隊を叩くべく急行していた。だが――


『前方に敵潜水艦隊あり。数は9……いえ、後続がある模様』


 旗艦『妙義』。瀬戸 麻美中尉の報告に、神明 龍造少将は眉をひそめた。


「環礁近くに潜水艦隊。それだけ重要なものということか」


 マ式ソナーによって浮かび上がる敵潜水艦。潜水駆逐艦18、同巡洋艦9、戦艦級が1。


「異世界帝国の潜水戦艦……!」


 これまで確認されなかった型だった。大きさであれば戦艦級の潜水艦は存在していたが、戦艦シルエットの艦となると非常に珍しい。

 嫌なタイミングで新型とでくわしたものだと、神明は嫌な気分になる。中部太平洋決戦では、敵も転移砲を装備していた戦艦がいたという。


 それ即ち、以降の新型には転移砲が搭載されていてもおかしくないことを意味する。さらに潜水艦と合わせて活用してきた場合、その効果は日本軍が中部太平洋海底のサルベージ競争で大いに示しているから、敵もその有効性を認識していてもおかしくない。

 マ式の索敵範囲の広さを活用し、先制できれば――


『敵戦艦級より、高速航行物――これは、魚雷です!』


 瀬戸が叫んだ。まさか、敵に先制攻撃を許すことになるとは。

 敵もどうやら優れた索敵装置を装備しているようだ。しかし、この発射された魚雷は果たして。

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