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第一一〇〇話、閉じられた顎門


『全制空隊へ、環礁上空にて反応多数! 注意せよ』


 その無線は、ウルシー環礁上空を飛んでいた烈風艦上戦闘機各機に届いた。

 第二艦隊の水上艦艇の対空電探は、多数の航空機の反応を捉えた。それも遠方から向かってくる、ではなく、環礁から突然湧いたように見えた。


『空母機動部隊からか!?』

『違う! 海氷から敵戦闘機だ!』


 環礁内の空母群は動いていない。航空機も別の場所から飛び出した。


『全機、迎え撃て!』


 第二艦隊の空母『瑞鷹』『海鷹』の戦闘機隊は、海上の巨大海氷から飛び立った敵機――無人戦闘機のルベル・ファイターであるイグニス戦闘機の大群を迎え撃った。


 球形胴体に四つのフィンのついた独特の無人戦闘機は小型軽量。烈風に比べると小回り以外で全ての面で劣っている機体だが、海氷に多数が仕込まれていた分、数で圧倒した。

 12.7ミリ機銃四丁を撃ちまくりながら突っ込んでくるイグニス戦闘機。日本機と衝突しようが構わないかのような乱暴な飛行は、日本軍搭乗員を別の意味で恐れさせた。


 烈風は得意の旋回性で敵を躱し、魔力翼を可変させることで抵抗を減らして猛ダッシュを見せて、敵機を引き離す。

 直進性に優れる20ミリ光弾機関砲が瞬けば、ズタズタになったイグニスが細切れになり四散する。


 個々の性能では烈風に軍配が上がる。だが数が違い過ぎた。『瑞鷹』『海鷹』の制空隊は52機。ウルシー環礁の周りの海氷から飛び上がったイグニス戦闘機は200機を超えていたのだ。


「残っている戦闘機を全て出せ!」


 第二艦隊の二隻の空母では、飛行甲板上に即応待機していた烈風艦上戦闘機が9機並んでいて、ただちに発艦。さらに格納庫に残っている戦闘機が飛行甲板へと上げられる。

 だがそれでも、とても数が足りなかった。


「対空戦闘用意!」


 第二艦隊各艦では対空戦の準備が下令される。旗艦である巡洋戦艦『竜王』で、伊藤 整一中将は戦況の流れが変わったのを感じ取った。先ほどから嫌な予感が止まらない。


「巨大海氷に敵は航空機を仕込んでいた――」


 森下 信衛参謀長が山本 祐二先任参謀と話しているのを耳に挟んだ時、過ぎゆく海氷に違和感をおぼえる。

 それは左舷見張り員も気づいた。


「左舷海氷にて影――!」


 それが言い終わる前に、海氷を突き抜けて紫色の戦艦が飛び出してきた。司令部参謀たちも空いた口が塞がらなかった。氷をぶち破り敵艦が出てくるなど!


「そうか――!」


 異世界氷だ。伊藤はそのカラクリに気づいた。I素材、クリュスタロス、異世界氷は特殊な生成ゆえ、外気温で簡単に溶けたりしないのだが、専用の解氷装置があればあっという間に溶かすことができる。

 敵は自分たちの周りを異世界氷で覆うことで潜伏し、その時がくれば氷を溶かして出現することで、奇襲を仕掛けてきたのだ。


「敵戦艦より、高熱源反応!」

「いかん!」


 伊藤は叫んだが遅かった。海氷から現れたエクエス級戦艦は、艦首光線砲を発射した。それが9隻。


 必殺の光線砲が、第二艦隊の戦艦列を襲った。

 巡洋戦艦『竜王』を先頭に、姉妹艦の『薬師』、天城型巡洋戦艦4隻と、紀伊型戦艦4隻、ネルソン級改の紀伊型2、『土佐』の単縦陣を形成していたが、9本の光線が中央を貫いた。


 環礁の南側の敵守備艦隊を砲撃していたことで、防御障壁を張っていなかった戦艦が、艦体を溶断し、そして弾薬庫を爆発四散させた。

 複数隻の戦艦が一斉に爆発した衝撃と音は凄まじかった。先頭を行く『竜王』と後続の『薬師』は難を逃れたが。列の中央は海底火山が一斉に噴火したような凄まじい量の煙があがっていた。


「長官、天城型3、紀伊型4隻が轟沈しました! 全て無人艦です!」


 報告を聞いた時、伊藤は何故かホッとした。どうしてそうなのかと考え、やられた戦艦、巡洋戦艦が無人だったからだと気づいた。

 これまでの戦いで多くの兵が死んだ。死にすぎたと言ってもよい。だから伊藤は、将兵の死に身構えてしまっていたのだ。


『竜王』『薬師』、有人型のオリジナル『天城』は無事だったが、その後ろにいた天城Ⅱ以下、ゲラーンコレクションの再生無人艦である天城型と紀伊型4隻は、とっさの攻撃に反応できず光線砲の直撃を受け、やられてしまった。


 なお、その後のネルソン級改の『紀伊』も光線砲を受けたが、こちらは有人型で防御障壁が間に合った。僚艦の『尾張』、最後尾の『土佐』も健在。

 しかし今の奇襲で、第二艦隊は戦艦、巡洋戦艦13隻のうち7隻を一撃で喪失したのであった。


「長官!」


 森下参謀長が叫んだ。


「敵は光線砲で艦のエネルギーを大幅に失っています! 今のうちに反撃を!」

「うむ、残存する戦艦、巡洋戦艦は、海氷から飛び出してきた敵戦艦を砲撃! 近距離砲戦である!」


 それまで3万4000メートル以上離れていた敵から、距離1000から2000もない海氷の敵へと目標が切り替わる。仰角を上げていた主砲の砲身がほぼ水平にまで倒される。


 異世界帝国戦艦は、最初の光線砲以来、攻撃をしてこなかった。戦艦搭載の光線砲は一撃の威力に優れるが、消費するエネルギーが激しく連発できない。それどころか、出力によっては防御シールドを張ることもおぼつかない場合もある。

 とにかく、撃った直後の敵は弱っている。6対9と戦艦の数で劣勢になった今、弱体化しているうちに敵を減らしたい。


「こちら右舷見張り! ゲートの発光を確認! 敵です!」

「何!?」


 第二艦隊が環礁の方に注意を向けている間に、その反対側にさらに敵の増援が現れた。

 現れたのは大型巡洋艦――テュポース級5隻、重巡洋艦5、駆逐艦10隻の巡洋艦戦隊であった。

 ご丁寧に紫の塗装の艦隊だ。


「小沢長官はハワイの敵を叩いたはずだが、その増援か……!?」


 伊藤は苦悶の表情を浮かべる。戦況は明らかに悪くなりつつある。予想とは違うが、結果的に恐れていた罠にはまった格好に近い。


「正面に敵水雷戦隊、出現!」


 軽巡洋艦5隻に率いられた駆逐艦15隻。それが二隊、第二艦隊の針路上に現れる。先ほど似たような水雷戦隊を撃退したが、その3倍以上の敵が今度は現れた。


 ――ここは速やかに撤退すべきか……?


 半ば包囲された格好だが、日本艦隊は転移で戦線離脱が可能だ。


「長官、第一遊撃部隊より入電です!」


 通信参謀が報告した。第一遊撃部隊と聞いて、伊藤は相好を崩した。


「来てくれたか、武本さん」

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