第一〇九七話、電撃奇襲
ハワイを奇襲する。内地にいた連合艦隊が突然ハワイへ乗り込めるのは、もちろん転移装置の賜物であり、日々、ハワイ方面を偵察していた哨戒空母『龍飛』『大間』の活動があればこそである。
連合艦隊司令部は、ウルシー環礁の異世界帝国艦隊を攻撃する前に、ハワイに展開する敵――増援として横やりを入れてきそうな艦隊から攻撃するという決断をした。
そして哨戒空母戦隊からの最新の偵察情報を取り寄せるに辺り、この決定は正しかったと確信が持てた。
すでに敵艦隊が洋上で待機していることがわかったからだ。このまま何も知らずにウルシー環礁なりフィリピンへ向かっていれば、ハワイに展開している紫の艦隊が飛び込んできたかもしれない。
「先手を取ったぞ!」
小沢 治三郎連合艦隊司令長官は手を叩いたという。
敵艦隊がすでに海の上であるなら、ハワイの地形などをおぼえさせ、攻撃方向がどうとか航空隊に検討させる必要はない。航空機はすべて無人機にやらせようかと考えていた小沢だったが、洋上攻撃であれば日頃の訓練通りにやれば問題ない。そのまま空母に航空隊を収容し、連合艦隊――第三艦隊は出撃したのである。
●第三艦隊:司令官、小沢 治三郎中将
航空戦艦 :「出雲」
戦艦 :「伊勢」「日向」
空母 :「大鶴」「雲鶴」「赤城」「飛隼」「大鳳」「翔鶴」「瑞鶴」
:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」「隼鷹」「飛鷹」「龍鳳」
水上機母艦:「千歳」「千代田」
重巡洋艦 :「妙高」「足柄」「羽黒」「摩耶」「最上」「鈴谷」
軽巡洋艦 :「能代」
防空巡洋艦:「鶴見」「馬淵」「石狩」「十勝」「宇波」「真室」「瀬戸」
:「木戸」「岩見」「六角」「天龍」「龍田」「天神」
転移巡洋艦:「勇留」「豊予」「本渡」「大隅」
駆逐艦 :「秋月」「涼月」「初月」「若月」「霜月」「冬月」「夏月」「満月」
:「清月」「大月」「葉月」「山月」「春雲」「八重雲」「雪月」「風月」
:「青月」「天月」「浜月」「朧雲」「霧雲」「霞」
:「大風」「西風」「南風」「東風」「浜波」「沖波」「岸波」
中部太平洋決戦での損傷、修理艦が何隻か復帰を果たし、空母は『赤城』と巡洋戦艦フッド改装の『飛隼』が空母戦隊に加わっている。
13隻となった空母を率いる小沢は、艦隊を転移ブイによりハワイ近海にまで進出させると、ただちに攻撃隊を発艦させた。
その攻撃隊は404機。烈風艦上戦闘機、流星改二艦上攻撃機、彩雲改二艦上偵察機は一路、ハワイ、オアフ島近海へと針路を向けた。
時間にしておおよそ30分後、攻撃隊は異世界帝国艦隊を発見した。
「おーおー、いるねぇ。しかもあれ例の紫の艦隊じゃないかね」
攻撃隊指揮官、下村 太一郎中佐は流星改二から、眼下の艦隊を見やる。パイロットを務める田宮中尉は言った。
「色までわかるのですか、中佐! 私には豆粒にしか見えませんが」
「俺みたいに目を鍛えれば、針の先くらいの文字だって読めるようになるものだよ」
何とも気の抜ける調子で下村は返した。
実のところ、事前にもたらされた偵察情報で、ここら辺りにいる艦隊が紫の船体色をしているということを知っていただけであるが。
戦艦15、大型巡洋艦ないし重巡洋艦15、空母15ほかの艦隊が三セット。
「敵機は……まーだ気づいてないようだね」
「不思議な気分です」
田宮は首を小さく横に振った。
「対遮蔽装置のせいで、こっちの姿は見えるはずなのに、ここまで無反応というのは……」
「対電波塗料の効果ってやつだろうね、実際」
下村は適当な調子で言う。しかしその目は敵艦隊から離れない。
「敵さんが電探の目に頼り切っているということだ。……おっと制空隊が動き出した」
烈風戦闘機隊が速度を上げてきた。敵艦隊上空の援護機が、どうやらこちらに気づいたようだった。
「さあさあ、始まるよ! 攻撃隊全機、突撃せよ!」
流星改二攻撃機隊は高度を落としつつ、誘導弾の攻撃位置へ中隊ごとに散開した。
・ ・ ・
「なにっ、敵機だと!?」
皇帝親衛軍、紫光艦隊ウルブス隊を率いるウルブス中将は、自身の旗艦にいてその野太い声を荒げた。
『こちら左舷観測所。敵機大編隊。その数約400機。すでに攻撃位置につきつつあります』
「馬鹿な! 何故そこまで踏み込まれているのに察知されなかったのだ!」
ウルブスは司令塔の窓から空を見上げ、おおっ、と声を漏らす。
「対遮蔽は働いているはずだな!? おかしいじゃないか!」
『対空レーダーには依然、敵機の反応なし!』
「反応がない、だと? 実際に見えているではないか! レーダーが故障しているのではないか!?」
『レーダーに異常なし』
『僚艦からも報告。レーダーに異常なし』
オペレーターたちの報告に、ウルブスは唸る。
『ハワイ航空隊が迎撃に向かう』
「数が足りん! 我が艦隊の空母からも戦闘機を出せぃ!」
敵が転移で現れた時に備えて、即応直援機を用意させている。それをハワイの戦闘機隊と共同させれば……いやそれでも数が足りないか。
「提督、どういう理由かはわかりませんが、こちらのレーダーが機能しておりません」
参謀長が早口で言った。
「ここは、一時転移退避を行って、敵の空襲を避けるべきでは?」
「フン……。間に合うのか?」
ウルブスは鼻を鳴らした。飛来した日本海軍の艦攻――流星改二が対艦誘導弾を次々に発射した。
今、即時転移を行うと、艦隊はウルシー行きだ。せっかく待ち伏せをしている紫星艦隊の罠をぶち壊してしまう恐れがある。
そもそも転移設定を切り替えるよう旗艦から指示を出し、ゲート艦が転移位置の変更をしてい間に攻撃が届くだろう。
「手遅れだ」
ウルブスは呟いた。