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第一〇九四話、オルモック湾への突撃


 ムンドゥス帝国軍は動いた。

 残存する第四群と、第五群を除く空母とその戦闘群は、レイテ島の西側へ移動させた。

 無人戦闘兵器群を載せた上陸船団は、第四群の護衛のもと、オルモック湾へ侵入したのだ。


 道化師作戦を続行するか否か思案していたヴォルク・テシス大将を後押ししたのは、参謀長のジョグ・ネオン中将であった。


「このフィリピン攻撃の目的は、日本軍の注意を引き、その戦力を漸減(ぜんげん)することにあります。然るに、海軍の主力である連合艦隊が出てきていない以上、我々はもう少し、フィリピン方面で暴れ回る必要があります」

「それはそうだ」


 テシスはフィリピン攻撃艦隊から引き継いだ作戦の続行を決定したのであった。


「さて、そうと決めたからには散財するとしようか」


 テシス大将のこの発言について、参謀たちは意味をはかりかねた。しかし、作戦は進み出す。

 各群残存の空母群は、全方位に対して索敵機を発艦。鹵獲艦隊はミンダナオ海に確認されているが、日本軍小機動部隊の再発見と、連合艦隊主力がフィリピン近海に向かってきていないか確認が急がれた。

 だが、最初の接触は敵機動部隊ではなく、上陸船団と戦闘第四群であった。



   ・  ・  ・



 オルモック湾から上陸すべく、船団は進む。

 72隻もの護衛空母があって、多数の戦闘機が船団と艦隊を守る。攻撃機は、上陸地点周りの日本軍を捜索し、それらしいものがあれば爆撃を行った。


 日本軍は、先に上陸されたレイテ島東側に戦力を集中し、西側の防備はほとんどなかったようだった。

「コロラド」「ニューメキシコ」といった米旧式戦艦、『インディファティガブル』ほか英巡洋戦艦が地上に睨みを効かせる。


 悪夢が襲ってきた。

 何の予告もなく、戦艦『コロラド』が大爆発を起こした。敵の反応もなく、突然の爆発と弾薬庫誘爆と思われるキノコ雲が吹き上がる。砲弾の暴発、何らかの事故か。


 しかし、爆発は連続する。『ニューメキシコ』『アイダホ』が突き上げられるようにひしゃげ水柱と共に吹き飛び、『センチュリオン』『ミナス・ジェライス』『サン・パウロ』もその後に続いた。


 悲劇は戦艦だけに留まらない。護衛空母の『ウェーク・アイランド』『カサーン・ベイ』がやはり唐突に艦体を爆発させて傾いた。『ウィンダム・ベイ』などは弾薬庫に直撃した攻撃により爆沈してしまった。


「ふはは、大漁! 大漁だわい!」


 第一遊撃部隊第二部隊を率いる武本 権三郎中将は旗艦『武尊』にいて歓声を上げた。

 第二部隊の水中対応転移砲による攻撃で、破壊されていく米鹵獲護衛空母や護衛駆逐艦。

 戦艦『蝦夷』『駿河』『近江』『磐城』『常陸』が大型艦を狙い、軽巡洋艦『鹿島』『長良』『五十鈴』『名取』、駆逐艦『黒潮』『親潮』『早潮』『夏潮』『初風』『天津風』『時津風』が護衛空母や駆逐艦を攻撃する。


「獲物は腐るほどおるぞ! 徹底的にやれぃ!」


 防御などあってないような護衛空母は、軽巡の14センチ砲や駆逐艦の12.7センチ砲弾でも痛打され破壊されていく。上空の戦闘機隊は、眼下で起きていることに為す術がない。


「我々がレイテ湾にいると思っておったようだが、そんなものはお見通しだ」


 武本は吠える。


「こっちへ来るだろうと思っていた!」

「神明少将の読み通りでした」


 首席参謀の佐賀大佐が言えば、武本は片方の眉を吊り上げた。


「そうとも言う。……とにかく! 光に寄ってきた羽虫の如く、軽空母どもを一網打尽じゃ!」



   ・  ・  ・



 オルモック湾に向かわせた戦闘第四群と船団が、日本軍の待ち伏せを受ける。

 この報告は紫星艦隊司令部の参謀たちを震え上がらせた。特にネオン参謀長の受けた衝撃は大きかった。


「敵はレイテ湾に潜んでいたのでは……!」

「レイテ湾にも潜んでいる」


 テシス大将は事務的に告げた。


「スリガオ海峡を抜けた第五群残存部隊が、レイテ湾で全滅したからな。まだそこにいる。だが、そこにいたもう一隊か、あるいは別動隊がオルモック湾に先回りしていたということだ」


 レイテ湾の上陸地点が使えないなら、島の反対側、回り込まないと行けないオルモック湾に新たな橋頭堡を作る――そんなムンドゥス帝国軍の動きを日本軍は予見していた。

 輸送船団は転移退避させたが、護衛の戦闘第四群は痛打され、なお損害が拡大している。


「やはり、我らの宿敵は読んでいた」

「やはり、と申されましたか?」


 ネオンが咎めるように尋ねると、テシスは言った。


「言ったろう? 『日本軍は他にも部隊を展開させている』と」

「……」

「そして散財するとも言った。第四群の犠牲で、敵の海中からの攻撃方法の推測がしやすくなるだろう。夜が明けて、だいぶ状況が確認しやすくなっているはずだ」


 敵の新兵器の手掛かりは多いほうがいい。地球世界の鹵獲再生艦や無人兵器を主力として投じているのも、これらを全滅させても構わないという考えのもと立案された作戦である。


「日本軍を消耗させ、手のうちがわかるなら、それだけでも道化師作戦は成功と言える。まあ、第四群の犠牲については、少々蛇足だったかもしれないが」


 作戦を中止させるか否か、その判断の根本の部分がこれである。その犠牲を払うことで得られる見返りは充分かどうか、という程度の。


「しかし、これでは連合艦隊を引きずり出せないだろう」


 現状の部隊だけでフィリピン攻撃艦隊を半壊させ、上陸作戦の継続が困難であるのが確定してしまった。あとは空母機動部隊で、東南アジアを荒らし回るくらいのことしかできないだろう。


「とはいえ、このままというのもいただけない。我が軍の鹵獲艦を使った敵艦隊と小機動部隊くらいは潰しておきたい。……そうだな?」

「鹵獲艦隊は現在、ミンダナオ海を北上して、オルモック湾方面へ移動しつつあります」


 フィネーフィカ・スイィ首席参謀が発言した。

 第一遊撃部隊第五部隊――帝国第七艦隊の識別信号を発する鹵獲艦隊は、オルモック湾のフィリピン攻撃艦隊の各群空母機動部隊に近づいてきていた。


「このまま進めば、交戦は避けられないかと思われます。転移退避させますか?」


 戦艦や巡洋艦など水上打撃部隊の多くを失った現状、駆逐艦は残っているが、空母を砲撃戦の距離に踏み込ませるわけにはいかない。


「いや、このままだ」


 テシスは地図上の配置を眺めた。


「せめて一個艦隊は刺し違えてでも沈めておこう」

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