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第一〇九二話、レイテ湾夜戦


 異世界帝国軍第二群――アリゾナⅡ級やモンタナ級という強力な米鹵獲戦艦群を主力とする艦隊を破った第一遊撃部隊第一、第二部隊は東からレイテ湾に突入しつつあった。

 第一部隊旗艦、大型巡洋艦『妙義』。先任参謀の藤島 正中佐は言う。


「軽空母とはいえ70隻もいるというのはゾッとしますな。昼間であったなら、さぞ壮観な眺めだったでしょうな」

「夜のうちに踏み込むがな」


 第一遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は闇の中、目を凝らす。


「夜間に飛行する戦力をどれだけ持っているかは、出たとこ勝負だ。その場合は乱戦に持ち込む」


 敵が昼間でも艦載機による空襲を仕掛けてこなかったため、航空戦力についてわからない部分が大きい。

 レイテ湾の敵艦隊は上陸支援部隊であり、その艦載機は地上攻撃支援と制空権確保をやっていた。だが何せ72隻も空母があるから、対艦航空隊や夜間攻撃に耐える部隊がいてもおかしくなかった。


「輸送船団はいますかね?」

「いないだろう」


 神明はきっぱり告げた。


「敵は転移で前線と後方を繋いでいる。我々が警戒艦隊の一つを潰し、レイテ湾に突入が確定した時点で、船団は転移で退避させているはずだ」

「そうなると、戦艦、巡洋戦艦9隻と100隻近い駆逐艦が、空母の前で我々を待ち受けているわけですね」

「それと北方を警戒しているアイオワ級戦艦を含む機動部隊と、西方警戒の英国鹵獲艦隊が救援に駆けつけてくる可能性がある」


 第一部隊は、金剛型戦艦4隻を先頭に『大和』『武蔵』、旗艦『妙義』が続く。その左右を重巡洋艦2、軽巡洋艦3、駆逐艦4隻ずつがつき、単縦陣三つで進んでいる。

 そしてその海面下では、第一遊撃部隊第二部隊が随伴し、海中からの砲撃ができるように配置についていた。


『電探に反応なし』


 魔核制御担当の瀬戸 麻美中尉のアナウンスが流れる。藤島は首をかしげる。


「敵さんはレイテ湾の奥ですかね」


 もっと積極的に迎撃してくると思ったが、ここまで静かな夜の海が続いている。


「こちらを奥まで引き込むつもりかもしれない」


 意味があるかはわからないが、と神明は呟いた。


「まさか、このままレイテ湾は空っぽってことはないでしょうね」

「さあな」


 ややぶっきらぼうに神明が答えた時、見張り員が叫ぶ。


「転移魔法陣の光をレイテ湾北に観測」

「南にも魔法陣の光!」


 続いて対水上電探が反応が示す。


『敵艦隊とおぼしき反応。レイテ湾北と南にそれぞれ出現!』

「来たか」


 神明は表情を引き締めれば、藤島が口を開いた。


「転移魔法陣ということは、北方の艦隊と英国鹵獲艦隊ですな。司令の予想通りに」

「上陸支援船団はまだしも、その護衛艦隊がいないのは意外だったがな」


 しかし南北からの挟撃には違いない。そしてその艦隊構成も明らかになっていく。

 北はアイオワ級戦艦5隻を主力に、重巡洋艦4、軽巡6、駆逐艦20。

 南はライオン級を含む9隻の戦艦、重巡洋艦8、軽巡洋艦12、駆逐艦34。


「南の英国鹵獲艦隊の方が、数で勝りますな」

「第一部隊各艦、潜航開始。水中砲撃戦を行う」


 神明は決断した。


「第二部隊は英国鹵獲艦隊。第一部隊は、北の米国鹵獲艦隊を叩く」

「いいんですか?」


 藤島が確認する。


「陽動を引っ込めてしまうと、敵に海中からの攻撃戦術がバレることになりますが」

「沈めた艦を即回収して、何にやられたか証拠を残さないようにしないとな」


 神明は薄く笑った。砲撃にやられたと推測はできても、魚雷や機雷、他の武器にやられたと誤認させられるかもしれない。


「今は、目の前の敵を沈めることに注力しよう」


 第一部隊の艦艇は次々と潜航を行う。闇夜に紛れて、黒く染まった海にその身を没していく。

 異世界帝国艦隊は、索敵の目から消えている日本艦隊に困惑し、そして南北から互いをレーダーで捉える位置まで移動した。


 第一遊撃部隊の狩りが始まった。



   ・  ・  ・



 戦いは一方的なものだった。

 海中からの戦艦『大和』『武蔵』の砲撃は、『アイオワ』『ウィスコンシン』を即時爆沈させ、次の一分後には、『ミズーリ』『イリノイ』を吹き飛ばした。


 第二部隊の戦艦『蝦夷』『駿河』『近江』『磐城』『常陸』は、英戦艦『ライオン』『テメレーア』『サンダラー』『コンカラー』『モナーク』を大破、沈没に追いやった。


 それぞれの巡洋艦、駆逐艦も、米英鹵獲巡洋艦や駆逐艦を狙い、砲弾を転移で叩き込む。夜間、真下から突き上げる一撃に、鹵獲艦は日本軍の攻撃は潜水艦によるものと判断、対潜行動に移った。


 この手の判断が意外に早かったのは、大半の再生艦が無人艦であったこと、損傷カ所から、潜水艦によるものと自動コアが決めつけたことが影響する。

 しかし、それがわかったところで、敵艦を捕捉することが困難であった。日本艦艇は機関出力を落とし、ほぼ海中で停止している状態。転移砲の発砲音はなく、ようやく怪しい音源を捕捉して接近しようとしても対潜ロケットの射程に入る前に、転移砲を撃ち込まれて迎撃されてしまったからである。


 いまだ、ムンドゥス帝国側は水中砲撃戦に対する明快な対処方法を確率していない。そもそも、転移砲と水中砲撃がまだ結びついていないのだ。

 戦いは一時間ほどで、戦闘第一群(米鹵獲艦隊)、戦闘第三群(英国鹵獲艦隊)の全滅で終了した。


 そしてスリガオ海峡を通ってレイテ湾に遅れて到着した第五群の残存部隊は、第一群、第三群の壊滅を知り、愕然とするのであった。

 当然、この壊滅の報告は、紫星艦隊の司令部――ヴォルク・テシス大将のもとにも届いた。

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