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第一〇九〇話、困惑と襲撃


 ムンドゥス帝国軍フィリピン攻撃艦隊の中で、艦隊司令部があるのは第五群であった。

 帝国艦艇で構成された第五群は、レイテ湾の南、スリガオ海峡を超えた先のミンダナオ海に展開していた。


 攻略艦隊の中ではもっとも南に位置している艦隊で、レイテ島への上陸部隊を支援する第四群とは少々離れている。

 現在、レイテ湾の東の入り口近くを守る第二群が日本艦隊と交戦しているが、仮にここを突破された場合、第四群が攻撃される前に第五群がレイテ湾に駆けつけるのは難しい配置であった。


 だが、その第五群は、後方のレイテ湾より前方のミンダナオ海に注意が向いていた。艦隊司令長官、アーラン・ブラキウム中将は問うた。


「間違いないのか?」

「はっ、友軍の信号で、反応は帝国第七艦隊の所属です」

「……」


 ブラキウムは押し黙る。

 識別信号上、味方の艦隊がミンダナオ海を東進しつつある。このままの針路であれば、ブラキウムの第五群をかすめ、スリガオ海峡へ突入する。


「こんなもの、作戦にあったか?」


 ようやく絞り出した声に、ブラキウムの苦悩が見え隠れする。戦艦4、重巡洋艦2、駆逐艦8の艦隊――友軍の識別信号を出しているが。


「通信には出ないのか?」

「無線封鎖しているのか、応答なしです」

「これを全部、敵が使っているとは思いたくないが……」

「ナイトスカウトによれば、完全に我が軍の艦艇とのことです」


 通信参謀はメモへ視線を落とした。


「日本軍は鹵獲しても我が軍と見分けが使いやすいよう艦橋や艤装を変更しますが、改造は施されていません」

「しかしやってくる方向が明らかに、敵なんだよな……」


 ブラキウムは唸る。いるはずのない艦隊がいる。偵察機の夜間目視識別によれば、外観もムンドゥス帝国艦であるという。


「敵、だよな……?」


 いまいち自信が持てないブラキウムである。帝国第七艦隊は、遠くマーシャル諸島に展開している。間違いでも、東から来ることはあっても西から来ることはない。とはいえ、転移で移動できる状況を考えると、こちらに通達していないだけで援軍が現れたという可能性も捨てきれない。


「確認するしかないでしょう」


 ヒゲもじゃ(・・・・・)クラーワ参謀長が口を開いた。


「おそらく敵でしょうが、万が一が不安なら、この戦いをモニターされているテシス大将の判断を仰ぐべきかと」


 むしろそれが確実である、とクラーワは力説した。

 このフィリピン攻撃作戦は、皇帝親衛軍のあずかりである。作戦立案はあのヴォルク・テシス大将であり、待機戦力として親衛軍艦隊の紫星艦隊、紫光艦隊が控えている。


「そうだな。このまま迷っているのが一番よろしくない。通信参謀――」

「承知しました」


 通信参謀が離れ、ブラキウムが各群の状況を確認しようとしたまさにその時、司令塔に報告が飛び込んだ。


『北西方向より、高速で接近する航空機らしき反応! その数4!』

「日本軍か」


 夜間航空攻撃を仕掛けようとした敵機だろう。敵味方識別装置で味方と判定されなかった時点でそういうことだ。


「敵基地航空隊の生き残りでしょうか」

「フィリピン方面の敵飛行場はもっぱら爆撃したからな」

『敵機は大型機。推定、双発爆撃機クラス!』

「夜間戦闘機隊に迎撃命令。たかが数機の雑魚を艦隊に近づけるなよ!」


 ブラキウムは命令を出す。夜間航空隊を搭載するアルクトス級中型空母から、夜戦型ヴォンヴィクスが発艦する。


 しかしそれは、ただの航空機ではなかった。

 第一遊撃部隊第三部隊から飛来した試製五式艦上攻撃機だった。夜戦型ヴォンヴィクス戦闘機は果敢に光弾砲を撃ち込む。暗闇の中に鮮やかな閃光が放たれたが、五式艦攻の防御障壁がたやすく弾く。


 迎撃機がまるで役に立たない間に、日本機は対艦転移誘導弾を発射。対空弾幕を展開する護衛の駆逐艦を無視して、第五群のオリクト級戦艦に誘導弾が突き刺さった。


「くそっ! シールドが役に立たないか!」


 ブラキウムが声を荒らげる。


「全艦に全力で対空射撃を命令! シールドは役に立たん!」


 戦艦に巡洋艦、空母に至るまで、13センチ高角砲、8センチ光弾砲、果ては対空機関砲まで総動員する。曳光弾の輝きが闇に吸い込まれ、夜にもかかわらず派手な火花を撒き散らす。

 しかし五式艦攻は墜ちない。


 そうこうしているうちに、護衛のカリュクス級駆逐艦やメテオーラ級軽巡洋艦の大破、沈没報告が相次ぐ。


「待て待て待て――!」


 艦隊司令長官は被害の拡大の仕方に違和感をおぼえる。


「敵はたった四機のはずだろう!? どうしてこんなに早くやられているんだ?」


 クラーワもまた報告内容を見返し、困惑する。


「長官、損害報告に被雷が混じっております。雷撃を受けておりますぞ!」

「敵機ではないのか? どこからだ!?」

「海中に潜水艦がいるのかも……」


 言いかけた時、新たな報告が司令塔に響いた。


「正面、第七艦隊が発砲!」

「なにっ――」


 闇の向こう、何故ここにいるのかわからない友軍――帝国第七艦隊がその砲を撃ち始めたのだ。


「何を撃っている?」


 本当に味方なのか問い合わせ中であることを忘れ、友軍艦が攻撃している相手を見定めようとする。その相手とはすぐにわかった。放たれた砲弾が、第五群に降り注いだからだ。

 対空射撃に集中し、シールドを張っていなかった――張れなかった空母に、オリクト級の40.6センチ砲弾が撃ち込まれたのだ。


「くそったれーっ! 敵だったのかっ!」

「長官――!」


 クラーワのとっさの声。振り返ったブラキウムは、こちらに向かってくるそれを目視した。ふっと消えたそれは、次の瞬間、旗艦に命中して爆発、フィリピン攻撃艦隊司令部もろとも、ブラキウムらを炎に飲み込んだ。

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