第一〇八九話、真打ち、第二部隊の攻撃
第一遊撃部隊と異世界帝国軍第二群が砲戦を開始して間もなく、日が沈んで夜となった。
異世界帝国軍のアメリカ鹵獲戦艦は、積極的な砲撃を繰り返すも回避を重視する第一遊撃部隊第一部隊に、中々直撃を与えることができなかった。
速度27ノット。日本艦隊に合わせて、延々と砲撃を繰り返す。巡洋艦や駆逐艦は、戦艦部隊の周囲を固めている。夜陰に紛れて突撃する可能性のある日本の水雷戦隊を阻止する構えだ。
戦艦戦力で劣勢な日本軍が活路を見いだすなら、巡洋艦、駆逐艦の突撃も活用するしか方法はない。
だが第二群には、アラスカ級大型巡洋艦6隻、重巡洋艦16隻、軽巡洋艦13隻があり、駆逐艦は84隻。空母の護衛に24隻が離れてもなお60隻がこの海域にある。
日本艦隊が魚雷に頼ろうと向かってきても、20.3センチ砲、15.2センチ砲、12.7センチ砲が弾幕となって蜂の巣にするであろう。
「――と、敵さんは目の前の第一部隊に注意がいっているわけだ」
第一遊撃部隊第二部隊旗艦、巡洋戦艦『武尊』の艦橋にいる武本 権三郎中将はほくそ笑んだ。
現在、第二部隊は海中にあって、第一部隊と異世界帝国軍第二群との砲撃戦の先にいた。
「敵は高速で航行中。水中聴音も上手く働いていないでしょう」
佐賀首席参謀が言えば、武本は頷いた。
「ようし、では夜陰に乗じて、敵さんの腹に砲弾を叩き込むぞ」
第二部隊の各艦が、通りかかる敵艦隊に向けて主砲の仰角を上げる。
「神明の奴は、敵が何にやられたかわからんように仕留めることをお望みだ」
「敵に手の内を知られないようにするため、ですね」
「敵さんも、こちらの新兵器にはそれに対応した防御策を打ってくる。まあ、そういうことだ」
そのために、わざわざ第一部隊は敵の目につくように移動、そして戦闘をやっている。あたかも転移砲なんてありませんよ、とばかりに。
やがて、『武尊』『九頭竜』『奥入瀬』を除く、戦艦、巡洋艦、駆逐艦から攻撃準備よしの報告が入った。
「撃ち方始め!」
武本は声を張り上げた。
戦艦『蝦夷』が51センチ水中対応転移砲、『駿河』『近江』『磐城』『常陸』が41センチ砲を使用。軽巡洋艦『鹿島』『長良』『五十鈴』『名取』が14センチ転移砲、黒潮以下駆逐艦7隻が12.7センチ転移砲を打ち上げた。
第一部隊に夢中になっている敵艦隊に、その砲弾は転移し艦底部に命中。発射時の勢いで底部を貫通すると、艦内で爆発した。
その一撃は激烈であった。
45.7センチ三連装砲を振りかざしていた『カリフォルニアⅡ』『ペンシルベニアⅡ』が、艦内の爆発で穴という穴から煙を引きながら、ガクンと行き脚が止まった。
特に『蝦夷』の51センチ砲の直撃を受けた『カリフォルニアⅡ』は弾薬庫を吹き飛ばされ、火山の大噴火の如く噴煙をまき散らした。艦体は分断され、瞬く間に波間に飲み込まれていく。
ヴァイタルパートは上と横は厚いが、底からの攻撃には薄い。一部、弾薬庫の下にも装甲を張る例もなくはないが、それらは戦艦主砲の直撃に耐えられるようなものではない。
重装甲をもってなるモンタナ級戦艦もまた、格下にあたる45口径41センチ砲の直撃を艦底部から受ければ、ひとたまりもない。長砲身16インチ砲弾の砲撃にも耐えられるその装甲も、弱い場所から抜けてくれば防ぎようがない。
本来なら、十数発の41センチ砲弾を受けても戦闘力を維持できるほどの堅艦であるモンタナ級も、ただの一斉射で艦内をズタズタに引き裂かれ、機関がやられ、最悪、弾薬庫が砲塔ごと吹き飛んだ。
第一遊撃部隊第一部隊の大和型戦艦、金剛型戦艦と撃ち合っている第二群は、まさか海中から砲撃されているとも知らず、次々とやられていった。
改ボルチモア級であるオレゴン・シティ級重巡洋艦、多数の15.2センチ砲で敵巡洋艦を火力で圧倒するクリーブランド級軽巡洋艦もまた、格下の14センチ砲の――砲弾に耐えるようにできていない艦底部に、防御安全距離無視のゼロ距離射撃に等しい威力を持った一撃を叩き込まれた。
まともな砲撃戦であれば、日本海軍の5500トン級の旧式軽巡洋艦など容易く撃破できるアメリカ製新鋭巡洋艦が逆に圧倒されていく。さながら性能の下克上であった。
陽炎型改潜水型駆逐艦の12.7センチ転移砲も、日米がぶつかる世界線であったならライバルであっただろうフレッチャー級駆逐艦を手早く、順序よく沈めていく。装甲のないに等しい駆逐艦にはただ当てるだけでよかった。転移で撃ち込まれたのが一式障壁弾――対空、対潜防御砲弾が開く光の膜が駆逐艦の船体を両断し、一撃で海へと引きずり込んだのだ。
・ ・ ・
『敵艦隊、半壊。いえ、壊滅状態……』
第一遊撃部隊第一部隊旗艦、大型巡洋艦『妙義』。魔核で艦を制御している瀬戸 麻美中尉の声は、わずかに震えていた。
無理もない。アリゾナ級、モンタナ級を含む合衆国の戦艦群に多数の砲撃型巡洋艦、そして駆逐艦を数では劣勢な第二部隊が撃破したのだ。
『敵残存艦、レイテ湾方面に逃走中です』
「よし。第一部隊は、これを追撃する」
第一部隊司令官、神明 龍造少将は頷いた。
「レイテ湾に殴り込みをかける」
「司令、後ろはいいんですか?」
藤島 正先任参謀が尋ねた。アイオワ級戦艦に守られた有力な空母機動艦隊が存在している。
「第二群がやられたとなれば、奴らもこちらに向かってくるんじゃないですか?」
「来るだろうな」
神明は認めた。
「だがこちらがレイテ湾の敵艦隊に殴り込みをかけたら、転移ゲートを使ってすっ飛んでくるだろう」
だから、こちらから後ろに向かって部隊を派遣したりしたら、その隊はすれ違いとなって肝心なところで出遅れることになる。
「後ろではなく正面だ。だからこのまま突き進む」
上陸部隊とその護衛、軽空母72隻、戦艦9隻ほかの艦隊と合流し、こちらがレイテ湾に侵入したところを正面から待ち伏せて。
敵の鉄砲隊の前に騎馬突撃をするような気分だ。有力な戦艦部隊を有する敵第二群を叩き潰したが、待ち伏せ地点に向かうというのはあまり気分のいいものではない。
「側面かく乱が上手く行くといいんだが……」
別途、レイテ湾を目指している第五部隊の動きに、敵が惑わされてくれれば少しはマシになるのだが。