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第一〇八八話、第一遊撃部隊の砲戦


 第一遊撃部隊第一部隊は、異世界帝国軍第二群との距離を詰めていた。

 夕刻の西日が差し込む中、水平線に敵艦影を認める。


「結局、敵は航空攻撃を仕掛けてきませんでしたな」


 藤島 正先任参謀は、敵艦隊を双眼鏡で覗き込む。

 異世界帝国軍は、日本軍の転移空振り戦法を警戒しているようだった。しかし電探によれば、敵艦隊の上空には多数の航空機が滞空しているという。


「ただの上空直掩か、弾着観測の護衛か……。砲撃戦の最中に割り込まれたら面倒ですな」

「ここまで自重したんだ。こちらが転移を選ぶ可能性になる行動は慎むだろう」


 第一遊撃部隊・第一部隊司令官の神明 龍造少将は命令を発する。


「正面の敵艦隊に対して砲撃戦を開始する。第二、第七戦隊に遠距離砲戦……まあ、適当に戦っているフリをしろ」


 表の陽動部隊である。異世界帝国軍もその気になっているのだから、それに応えるフリだけでもするのが礼儀というものだろう。

 大型巡洋艦『妙義』を魔核制御する瀬戸 麻美中尉が口を開いた。


『敵艦隊、接近。距離3万8000』


 アメリカ海軍の艦艇を再生した敵艦隊が、白波を切り裂き向かってくる。その陣形は、異世界帝国軍の典型である複数の横陣を形成したものである。

 藤島は口元を歪める。


「異世界人のフネじゃないんだ。その陣形じゃ、最大火力は発揮できないだろうに」


 使える砲は艦首のもののみ。突撃陣形といえば聞こえはいいが、そのままでは艦尾の砲を指向できない。


「異世界人の鹵獲艦を久しぶりに見た気がしますが、何とも悪趣味極まりないですな」


 超望遠機能付きの双眼鏡で見ている藤島は言った。破壊痕を埋めた部分が、無事だった部分と色合いが異なり、継ぎ接ぎしたように見える。微妙に補修部分が生ものっぽく見えるのもゾンビ艦のようで、悪趣味と言わせる一因と言える。


「あれが新型のアリゾナ級ですか……」


 初めて見るアメリカの新鋭戦艦――45.7センチ三連装砲を搭載したそれが3隻、他のアメリカ戦艦に比べて大きく見える。

 神明は口を開いた。


「全長はモンタナ級とさほど変わらない。だが艦幅が一回り大きいからな。よりどっしりしているように見える」


 40.6センチ三連装砲四基十二門を搭載したモンタナ級戦艦。重装甲、重火力はアメリカ海軍戦艦の伝統とも言える形だ。

 この時点でパナマ運河を通過できることを諦めて、全幅36.9メートルあるが、アリゾナ級は全幅40.5メートル。大和型戦艦の38.9メートルをも上回っている。


 取り舵をとり、敵艦隊に全砲門を向ける第一部隊の戦艦六隻。『大和』『武蔵』は46センチ砲、『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』は35.6センチ砲を指向する。

 砲身の転移機構をオフ。遠距離砲戦に対応すべく通常射撃。主砲、最大仰角。


『第二戦隊より通信。砲撃準備、完了』

「第二戦隊に指令。撃ち方始め」


 旗艦『妙義』から発砲命令に、『大和』『武蔵』が46センチ砲弾をぶっ放した。砲口から一瞬の炎と毒々しい黒煙が噴き上がり、雷鳴のような発砲音が辺りに木霊した。

 藤島がニヤリとする。


「ほっ、さすが46センチ砲。最近はもっぱら転移砲撃が多かったですから、生で聞くと迫力が違いますな」

「初弾から全門斉射。さすがだ」


 戦艦『大和』『武蔵』の砲撃を操る能力者の技量は抜群である。飛翔した砲弾は、敵艦の未来位置へ飛び、少しずつズレていく弾道を修正しつつ一点へと集中していく。


『間もなく弾着』


 目標とした敵戦艦――アリゾナ級『テネシーⅡ』の頭上に爆発が起きた。


「防御障壁です!」


 藤島が叫んだ。あのアメリカ戦艦は『大和』の初弾9発を、シールドで弾いたのだ。米艦に防御障壁は装備されていなかったと記憶しているが、どうやら鹵獲、再生した際に異世界帝国は新たに取り付けたようだった。


 ――そうなると魔防障壁もついているか。


 神明は、こちらの転移ゲートを使った『シベリア送り攻撃』を異世界帝国軍が対策しているのを確信した。

 敵が日本軍の消耗を企んでいるのであれば、シベリア送りなどの消耗を抑えた攻撃を許すはずがないのだ。


『大和』の砲弾を防いだ『テネシーⅡ』だが、間髪を入れずに飛び込んだ『武蔵』の砲弾がシールドを破砕し、その艦体に突き刺さった。艦橋付近に着弾した砲弾によって上部構造物がめちゃくちゃになる。


『アリゾナ級1、速度低下』


 指揮系統がやられたか。最大戦力とおぼしき敵戦艦が一隻脱落する。だが喜んでいる余裕はない。18隻の戦艦のうちの1隻だ。


『敵戦艦、一斉に回頭。本艦隊と同航戦を挑む模様』

「乗ってきたな」


 神明は頷く。こちらと針路を合わせることで、艦首から艦尾までの全砲門をこちらに向ける。数の差がある以上、もっとも効果のある戦い方だ。

 アリゾナ級2隻の45.7センチ砲、残る戦艦15隻の40.6センチ砲が、第一部隊に降り注ぐことになるだろう。


 距離は3万6000。射程ではあるが、アメリカ戦艦としては距離が遠いか。アメリカ海軍ならば、スーパーヘビーシェル――超重量弾という射程を犠牲に威力を優先した砲弾を使っている。


 沈没艦を再生させた異世界帝国軍は、果たして砲弾を入れ替えたのか。普通に考えれば自軍の砲弾に変えるとは思うが、貧乏性で物資が足りない日本軍ならともかく、再生艦の手間を惜しむ異世界人は案外手抜きをすることも考えられた。


『敵艦隊、発砲!』


 異世界帝国軍第二群の戦艦群の主砲が黒煙を吐いた。それで敵が発砲したのが遠くからでもわかる。


「艦隊、回避運動優先。囮はするが、やられるなよ」


 神明は命じる。このまま夜戦に持ち込んで、一方的に狩ってやるのだ。


『間もなく、敵弾、弾着――』


 第一部隊各艦――特に戦艦戦隊周りに水柱が連続して突き上がった。17隻の戦艦が撃ったにしては少ないそれは、セオリー通り、弾着を確認する試射段階であることを物語る。


 能力者が当たり前のようにバンバン当てていると感覚が狂うが、遠距離砲戦はそんな簡単に命中弾は出ないのだ。

 レーダー射撃だ何だと言ったところで、大気の状況や風速その他諸々をねじ曲げるほどのものはない。元々、米戦艦の砲弾集束率は、遠距離になるほどよろしくない。


「回避優先だ」


 神明は重ねて命じた。数十秒先の未来地点に輪投げするようなもの、それが戦艦の砲撃というものだ。その上でガンガン回避させれば、紛れ当たりに期待するしかなくなる。


 もちろん、諸元が狂うから回避ばかりしていればこちらも命中率は下がるのだが、神明にとってはそれは許容範囲であった。

 何故ならば、敵艦隊を葬るのは、第一部隊ではないからだ。

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