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第一〇八五話、これは罠だ


 異世界帝国軍、フィリピンに侵攻す。

 海軍軍令部は、連合艦隊にレイテ島に上陸した敵ならびに遊弋する敵艦隊を撃滅すべしと命令を発した。

 これを受けて、連合艦隊司令部は艦隊の出撃準備を進めた。


「現在のところ、フィリピン近海に存在する敵艦隊は5つ」


 小沢 治三郎連合艦隊司令官は、不機嫌さを感じさせる顔つきでそう告げた。

 東南アジアに展開する航空隊の残存偵察機の索敵の結果、判明したのが以下の通り。


・異世界帝国艦隊

 第1群:戦艦5、空母7、重巡4、軽巡13、駆逐52

 第2群:戦艦18、空母9、大巡6、重巡16、軽巡16、駆逐艦84

 第3群:戦艦9、空母20 重巡11 軽巡17、駆逐77

 第4群:戦艦9、軽空母72、軽巡18 駆逐136

 第5群:戦艦15、空母15、重巡20、軽巡20、駆逐60


 合計:戦艦56、空母49、軽空母72

    大型巡洋艦6、重巡51、軽巡84、駆逐艦409



「異世界帝国艦艇のほか、アメリカ、イギリスの撃沈艦艇もこれに加わっておる。……南米作戦、ブリテン島奪回で沈められた(フネ)を回収できなかった結果がこれだ」


 小沢の機嫌が悪いのは、それが原因か。出席している第二艦隊司令長官の伊藤 整一中将、第一・第四遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は思った。


 中部太平洋における大海戦で、敵二千艦隊と千を超える日本艦艇が沈んだ。現在マーシャル諸島で、それら沈没艦の争奪戦が繰り広げられているが、それがもし敵に総取りされれば、今フィリピンを襲っている再生艦隊のような悪夢が具現化するのである。


「規模としては、マリアナ、トラックに侵攻してきた艦隊に匹敵する。……まったく嫌になるな。米英主力艦隊を合わせたのが、異世界人の一個艦隊と同レベルの規模しかないというのは」

「相手をするこちらとしては、そこまでひどい差でないことを喜ぶべきでしょうか」


 伊藤が珍しく皮肉げに言った。小沢は何とも言えない微妙な顔になる。


「数の上ではこちらが劣勢であることに変わりない。戦力が回復しきっていないが、マリアナ、トラックでの海戦以上の戦力ではある」


 だが――と小沢は眉間にしわを寄せる。


「異世界帝国の艦艇もいるとはいえ、フィリピン近海の敵が全てではないのが問題だ」


 連合艦隊司令長官が頷くと、新たな資料が張り出される。


「パラオを空襲した連中と思われる敵艦隊がウルシー環礁にて確認された」


 トラック、マリアナ、パラオの間、ややパラオ寄りに位置する環礁である。中部太平洋を見る中で、その位置から拠点にするには打ってつけではあった。

 だが地形的に守りにくく、小規模な守備隊を置いたところで、敵がくればすぐに消し飛んでしまうとして、日本軍は拠点を置いていなかった。ここしばらく近くで戦場になっていなかったことも、それに拍車をかけた。


「だが、敵はここに前線拠点を作ろうとしているようだ」


 そこに敵が有力な艦隊泊地を置き、艦隊を送り込んだら、トラック諸島の後方が脅かされることになる。


「マリアナの基地航空隊は、ウルシーの敵への攻撃を計画している。つまり、フィリピン近海の敵艦隊攻撃のための戦力移動が難しい」


 マリアナ諸島の基地航空艦隊は、ウルシー環礁の敵の動きを牽制する必要がある。フィリピンに移動して、艦隊撃滅に参加が困難であるということだ。


「上手く戦力を二分させられたわけですな」


 伊藤は渋い表情を浮かべた。艦隊と基地航空隊の連携を日本海軍は封じられたということだ。

 あるいは片方に集中することもできるが、その際は残るほうが敵に制圧されて、強固な防衛拠点が作られてしまうかもしれない。

 しかし戦力を二分して攻撃が中途半端となり、各個撃破される危険性もあった。


「だがそれでも、我々はやらねばならん」


 小沢は憮然とした調子で言った。


「フィリピンを押さえられれば、内地と東南アジアが切り離される。通商路は転移で何とかなるとはいえ、資源地帯を叩かれては目も当てられん」


 どうあっても出撃しなくてはならない。それが気にいらない。


「はっきり言って、これは罠だぞ」


 敵のフィリピン攻撃は日本軍の戦力を引き出して消耗させようという策だと、小沢は看破した。

 連合艦隊が再建途上のところを前線に引き出させ、再生艦を中心とした艦隊をぶつけることで、艦艇や砲弾、物資を消耗させる。

 日本軍は自動コアによる無人航空機があるが、もしそれがなかったなら、練成途上のパイロットを前線に出させる必要に迫られ、中途半端な力量のうちに犠牲を強いて、航空隊の戦闘力をリセットさせられていただろう。


 かといって、罠だからとフィリピンを放置すれば、敵はこれ幸いとばかりにフィリピンを拠点化する。異世界帝国軍にとっては、勝っても負けても日本軍を消耗させられればそれでよしと考えているに違いなかった。


「敵は米英再生艦隊をおれたちと戦わせた後、正規の艦隊を投じてくる可能性が高い。つまり、おれたちは消耗を最低限にしつつ、フィリピンの敵艦隊を戦わなければならないということだ」

「……」


 それは普通に戦うより厳しい。無駄撃ちをするな、艦艇を失うな、航空機を失うな、とある種要求が高い。そんな余裕ぶった戦いができるほど今の日本海軍に余力があるのか。


「どう思う神明?」

「第一機動艦隊を使わずに、遊撃部隊のみで、敵をフィリピンから撃退すればよろしいですか?」


 神明の言葉に伊藤は目を剥いた。連合艦隊の主力である第一機動艦隊――第二艦隊と第三艦隊を使わずに戦いに挑むというのだ。遊撃部隊は第二艦隊に匹敵する戦力を有しているとはいえ、数の差は圧倒的である。水中からの転移砲攻撃という切り札があるが、それで敵大艦隊を丸々相手にできるかは微妙なところであった。

 しかし小沢は不敵な笑みを浮かべた。


「できるか?」

「多少の無茶を許していだけるならば、やりようはあるかと」

「貴様の大言は、『できる』と判断するからな」


 小沢は挑むように言った。


「聞かせてくれ。貴様の作戦を」

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