第一〇八二話、パラオ諸島
回収したレキシントン級巡洋戦艦は六隻あり、うち一隻の『コンステレーション』が工作空母に改装されて、第四遊撃部隊にて運用されていた。
残る五隻の扱いについて、無人艦整備と管理を担当している軍令部は、ただちに改装・再生処置を決定した。
イギリスから求められた北米救援策の一つとして、手頃な戦力で高い効果が見込めると判断されたからだ。
こうして『レキシントン』『サラトガ』『レンジャー』『コンスティチューション』『ユナイテッド・ステーツ』の五隻は、改設計の上、それぞれ再生、改造が施された。
魔技研の改修班は、二パターンを提示されて困惑する。
「高速戦艦と空母ですか?」
「二隻を戦艦、三隻を空母とする」
「全部一緒じゃないんですか?」
「この五隻だけで、一部隊を編成して、完結させるつもりのようだ」
「……?」
「使う方の話だ。決められたように魔核を調整して、再生させたまえ」
上官にそう説明されれば、頷くしかない。
かくて『レキシントン』『サラトガ』が戦艦型、『レンジャー』『コンスティチューション』『ユナイテッド・ステーツ』が空母型として改装された。
改修予定も立たず、放置されていたレキシントン級だったが、いざ改装されるとなれば、魔技研は最新の技術をふんだんに投入した。
戦艦型は、主砲を50口径40.6センチ連装砲四基八門。空母型は、元のレキシントン級空母でも採用されていた20.3センチ連装砲四基八門を装備するが、これらは水中対応砲の上、砲身も転移砲対応のものとされた。
潜水行動が可能。基本の防御は、防御障壁とヴァイタルパートの内側にも障壁を張る多重防御を採用。戦艦級としては脆い装甲も強化された。
もちろん、目的が異世界氷で作られた巨大海氷空母ないし飛行場を、解氷装置で溶かすことである。なので以前の海氷突撃艦という名の巨大海氷と同様に舷側に解氷放射装置をびっしり装備している。
さらに大型艦艇ということで、氷が溶かせられない場合に備えて転移照射装置を搭載。転移中継装置により僚艦ないし他の艦艇を呼び寄せることもできる。
ただこれらの装備により、特に空母型は艦載機用のスペースが縮小されている。工作空母である『コンステレーション』と同等であり、つまるところ通常の空母のように多数の航空機を搭載し、運用する艦ではないということであった。
空母型の艦載機は、試製五式艦上攻撃機なら10機。他、彩雲改二偵察機9機である。
かくて、仮称『レキシントン戦隊』は、日本海軍艦とレキシントン級のハイブリッドな外観へと改装された。
無人化により、旗艦なども少人数で任務につけるよう調整されて仕上げられ、燃料、艦載機などの搭載が行われたが、軍令部で実際の作戦について最終調整が進められる中、それは起きた。
異世界帝国が先手を打って、動いてきたのだ。
・ ・ ・
その日、西カロリン諸島、パラオが異世界帝国の大空襲にさらされた。
トラックなどがある東カロリン諸島の西方。その中間の北にマリアナ諸島があるという配置。第一次世界大戦後、ドイツ植民地だったこれら南洋諸島は日本の委任統治領となっており、今次大戦で異世界帝国に占領されたが、それを奪回。現在日本が管理し、トラック諸島、東南アジア、ニューギニアの中間補給地点として活用されていた。
だが最前線というわけではなく、その防衛力は高くない。一時トラック失陥後の前衛拠点になる可能性はあったものの、トラック諸島が速やかに奪回されたことで、元の配置に戻っていた。
が、そこに異世界帝国軍は大挙襲いかかってきたのである。
多数のヴォンヴィクス戦闘機とミガ攻撃機が、パラオ本島を襲い、さらにコロール島、アラカベサン島、マラカル島にまたがるパラオ港の在泊船舶も爆撃にさらされた。
敵大編隊の襲来。
アラカベサン島の水上機基地、ならびにペリリュー基地飛行場から防空戦闘機が出撃したが多勢に無勢であった。
二式水上戦闘機、零戦五三型と旧式の上に物量で圧倒されては太刀打ちできず、出撃機は全滅。基地施設や防空砲台は敵攻撃機によって徹底的に叩かれた。
一部防御障壁で抵抗した施設もあったが、ミガ攻撃機編隊がしつこく光弾砲による対地掃射を繰り返し、やがてエネルギーを消失させると無防備な施設に爆撃しトドメをさした。
千機を超える敵機の襲撃は、通信局が破壊される前に日本本土ならびに近隣の基地へと知らされ、日本の陸海軍を驚愕させた。
それは連合艦隊もまた同様だった。
「パラオ……! まさか、そんな――」
小沢 治三郎連合艦隊司令長官は絶句した。
マリアナ諸島やトラック諸島を迂回して、日本軍のテリトリーである西カロリン諸島に攻勢を仕掛けてきた。
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長が長官公室に入ってきた。
「長官、細部の確認はまだですが、敵は大規模な艦隊のようです。現在、ダバオやニューギニア、さらにマリアナ、トラックからも彩雲偵察機を飛ばして、敵の陣容の把握に勤めております」
「……ううむ、敵はマリアナやトラック攻撃に固執すると思っていたが」
内地への空襲が可能となるマリアナ諸島に対しては、占領できるまで何度も仕掛けてくる可能性は考えられていた。
それに備えて、基地航空隊と防衛力の増強が進められていたが、パラオが攻撃されるとはまったく想定外であった。
「奴らは、パラオに上陸してきたのか?」
「不明です」
草鹿は答えた。
「確認されたのは航空機による空襲のみで、おそらく飛ばしてきただろう多数の空母を含む敵艦隊の存在は報告されておりません」
上陸船団が現れるかもしれないし、もしかしたら占領の前段階として空襲だけ仕掛けて下がる可能性もある。
現状、敵がこれからどういう行動を取るのか、まったくわからない。だから偵察機を飛ばして敵艦隊の規模、編成を探ろうとしているのだ。
「こちらはまだ戦力が整っておらんというのに」
小沢は歯噛みする。損傷艦艇の修理、無人化改装、オーバーホール云々。
「出撃もあるかもしれん。参謀長、待機中の艦隊の他に、出撃可能な艦のリストの作成を頼む」
「承知しました」
先のマリアナ、トラックを巡る戦いから一カ月も経っていないというのに――小沢の恨み節はしかし言葉に出ることはなかった。




