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第一〇七八話、索敵空母戦隊


 マーシャル諸島の異世界帝国軍は、エニウェトク環礁を放棄。主戦力をクェゼリン環礁に集中し、守りを固めた。

 他に展開するのは、警戒拠点のウォッゼとメジュロだが、ここはレーダー基地、対遮蔽装置他、戦闘機、偵察機用の小規模飛行場のみが存在した。


 サンタクルーズ諸島に展開する日本海軍第四遊撃部隊は、マーシャル諸島の敵勢力の弱体化のため、頻繁な偵察活動を行い、次の襲撃計画を練っていた。


「……敵の回収部隊は、クェゼリンに向かっています」


 藤島 正先任参謀は、偵察機の報告を読み上げた。


「エニウェトクは、完全に放棄されたと見ていいでしょう。中部太平洋で引き揚げた沈没艦を輸送する距離が若干延びました、……おかげで、こちらも襲撃しやすくなったわけですが」

「敵が律儀に近くの拠点に集積するのをやめない限りは、時々道中を攻撃してやろう」


 第四遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は作戦地図を見下ろした。


「敵の動きは?」

「こちらの襲撃を警戒して、空母を中心とした護衛部隊と捜索部隊を繰り出しているようです」


 藤島は地図に、敵艦隊を表す駒を配置した。


「回収した沈没艦をクェゼリンへ運ぶルート上に、空母5隻の機動部隊があります。我々が戦艦で襲撃したなら、ただちに艦載機を出撃させようという魂胆でしょう」


 戦艦では間に合わないから空を飛べる飛行機で急行しよう、という話である。海上を行く船と航空機では、どちらが早いかなど考えるまでもない。


「それと、こちらがどこから襲撃しているのか図るために、偵察機を頻繁に出して警戒しています。基地の長距離偵察機が足りないのか、空母を進出させて、そこからさらに偵察機を出して索敵範囲をかさ増しているようです」


 何としても襲撃者を見つけてやろう、という敵将の思考が読めるようだった。一方的に襲撃されてばかりで、撃退もできなければ艦隊指揮官も上層部から無能の烙印を押すであろう。


「ざっと確認したところ、偵察に空母5隻を投入、それぞれ分散しています。先の警戒の機動部隊もまた5隻の空母を投じていますから、クェゼリンの主力より10隻が離れて作戦行動をしています」

「では、次の標的はこの空母だな」


 神明は狙いを定めた。


「わざわざ戦力を分散してくれたんだ。攻撃しない理由はないな」


 むしろ、クェゼリンで主力として固まっているほうが、色々考えないといけなくて面倒だったくらいである。

 かくて、第四遊撃部隊は戦艦『サラミス』、工作空母『コンステレーション』、護衛の鹵獲駆逐艦『ロク7』『ロク9』の2隻を引き連れて出撃した。



  ・  ・  ・



『音源確認――TR型潜水艦です。敵空母群の前方に位置しています』


 戦艦『サラミス』、魔核制御室の聴音手が報告した。海中に没し、敵前進部隊の針路上に待ち伏せている『サラミス』。神明はわずかに眉をひそめる。


「潜水艦か」

「敵さんもこちらの潜水艦を警戒していたわけですな」


 藤島先任参謀は口元を引きつらせた。


「飛雲の航空偵察では、この潜水艦は掴めていませんでした。……厄介ですな」


 この潜水艦を攻撃するのは容易い。だがそれにより後方の空母とその護衛部隊に、こちらの存在を知らせることになる。

 護衛が向かってくるなら返り討ちにすればいいが、肝心の空母が全力で逃走してしまう。それでは意味がない。


「仕方ないな。『コンステレーション』に通信。五式艦攻を出して敵空母を撃沈せよ。潜水艦とそれに吊られた敵護衛は、こちらで引き受けよう」


 神明の命令はただちに実行された。偵察機を出していた敵中型高速空母、その前方を警戒する敵TR型潜水艦に、『サラミス』は艦首の35.6センチ連装転移砲を発射。


 マ式ソナーによってその姿をくっきり映し出されたTR型は、転移した砲弾によって海の藻屑と化した。


「機関始動。敵空母群に接近する」


 海中に潜んでいた『サラミス』が動き出す。無音で潜航していた戦艦を、異世界帝国潜水艦は発見できなかったが、水中での爆発音は、後方の敵駆逐艦のソナーは捉えた。


『敵駆逐艦3隻、潜水艦撃沈地点へ接近中。速度28ノット!』


 制御室の報告に、藤島は口を開いた。


「3隻ですか。となると、空母の周りに駆逐艦が3隻ですな」


 半分を潜水艦狩りに出し、残りは空母の護衛を継続する。さすがに敵も、全駆逐艦を投入するというポカはやらない。


『敵空母、反転。海域を迂回する模様』

『コンステレーションより五式艦攻が1機飛来。敵空母へ接近中』


 想定通りの動き、展開である。神明は静かに笑みを浮かべた。


「では、こちらは駆逐艦を撃退しよう」



   ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国第七艦隊より派遣された第七二空母戦隊は、索敵空母戦隊から悲鳴のような緊急電を受け取った。


「敵機が空母艦上に乗り込み、攻撃だ……?」


 第七二空母戦隊司令官、モートゥス少将は眉間にしわを寄せた。


「意味がわからん。敵が空母に白兵戦を挑んできたというのか?」

「わかりません。護衛の駆逐艦の報告では、その後、空母は撃沈。護衛もまた敵機に攻撃され……通信が途絶えました」


 索敵空母戦隊第三群は全滅した。謎の航空機によって。


「噂の新型か……?」


 マーシャル諸島の飛行場を破壊した日本軍の新型攻撃機。その耐久力はアステール並みの可能性ありとかいう、わけのわからない話もある。


「如何いたしますか、司令官?」

「……少なくとも敵の航空機が出たということは、空母が航空機の航続距離内にいるということだ。我々の任務は、敵の捜索と撃滅である!」


 第七二空母戦隊は、索敵空母戦隊第三群の敵討ちに動いた。ただちに新たな索敵線に従い、ミガ攻撃機を偵察機として発進。さらに敵の発見に備え、攻撃隊の準備を始める。

 だが――


『対空レーダーに反応あり。敵機と思われる反応、二、三機。陸上攻撃機サイズです!』

「来たか! 噂のやつだ。直掩戦闘機隊、ただちに迎撃! 全艦、対空戦闘! 敵は硬いぞ! 撃ちまくれ!」


 モートゥス少将は命じた。空母上空のエントマⅢ戦闘機が接近中の敵機――五式艦上攻撃機に向かい、戦闘は始まった。

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