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第一〇七七話、エニウェトクの戦果


 戦艦『サラミス』は、南太平洋サンタクルーズ諸島に帰還した。

 先に戻っていた輸送船ロカユ3号と共に転移した沈没艦艇の山、いや束は、現在、確認作業が進められている。


 海氷ドック周りに待機していた大型巡洋艦『早池峰』から、大発に乗った回収グループが乗艦。あるいは特殊水上機母艦である『瑞穂』の転移照射装置によってドック上に移動させらたりしていた。

 また内地から増援として送られた元戦艦レトヴィザン改装の工作艦『列島丸』も作業に加わっている。


 第四遊撃部隊司令官の神明 龍造少将は、魔技研の造船大尉から戦利品のリストを受け取った。


「戦艦17、空母18、重巡洋艦21、軽巡洋艦15、駆逐艦27、輸送船8……ルベル・クルーザー3」

「最後のは、我が軍の無人艦ですが」


 西郷造船大尉は微笑した。


「大収穫ですよ。これだけで一個艦隊が編成できます」

「集まってきたところを襲ったからな」


 神明は当然だという顔になる。マーシャル諸島には連日、『瑞穂』搭載の飛雲水上偵察機や、試製五式艦上攻撃機を送っていた。エニウェトク環礁の沈没艦艇の規模、配置など把握済みで、その情報があればこその襲撃作戦であった。


「司令」


 先任参謀の藤島 正中佐が現れた。第一遊撃部隊との兼任である彼は、今回は陽動無人艦隊のほうの指揮、監督を行っていた。……参謀には指揮権はないので、臨時指揮官という肩書きを添えて。


「全艦、無事帰投しました。被弾なし、無傷です!」

「ご苦労」


 神明は労う。

 エニウェトク環礁を警戒する艦隊を誘因し、環礁内に侵入する『サラミス』と『ロカユ3号』がやりやすいようにするのが、陽動無人艦隊の任務であった。

 重巡洋艦3、軽巡2、駆逐艦9の回収鹵獲艦は、指揮艦を除いて無人であり、敵警戒部隊の鼻先を掠めることで、彼らを誘い出すことに成功した。


「砲弾は?」

「三斉射分使いました。鹵獲した時の弾薬庫に残っていたヤツをそのまま。二、三隻が、それで弾薬庫が空になったみたいですが」


 中部太平洋決戦で戦い、そこで消費した分が補充されていないからだ。


「残っている艦艇から砲弾を集めて、使う艦に集中させよう」


 神明は、内地からの補給を最小に留められるよう指示を出す。陽動艦隊に戦果の確認はしなかった。真面目な砲撃戦はしなくてもいいと告げてある作戦で、敵を誘導できたならそれが戦果であったからだ。

 藤島は言った。


「これで敵さんも、マーシャル諸島から撤退してくれると助かるんですがね」


 回収隊が中部太平洋の沈没艦艇を集めるのが楽になる。敵が回収を諦めるなら、こちらも余裕を持ってサルベージできる。


「仮に敵が撤退したとしても、こちらの邪魔はするだろう」


 神明は指摘した。

 易々とこちらにとって都合のいい展開には、彼らもさせない。回収は諦めても、潜水艦を繰り出して、我が軍の回収隊の妨害をしてくるだろう。


 ――もっとも、敵が潜水艦を送り込んでも、こちらの砲撃潜水艦が返り討ちにできる限り、彼らも戦力を消耗させていくだけだろうが。


 潜水艦消耗。敵に出血を強いているのだから、それはそれで悪い話ではなかった。


「まだ中部太平洋には、先の決戦の沈没艦艇で溢れている。異世界帝国も、回収を諦めないだろう」


 だがそれは泥沼に足を突っ込むようなものである。神明の第四遊撃部隊が、マーシャル諸島の敵艦隊や施設に攻撃を加えて、その戦力を漸減する。

 引くに引けない敵は、沈没艦艇を日本海軍に奪われないよう躍起になって、健在な艦まで失っていくのである。負の連鎖と薄々感じているだろうが、敵は戦力の逐次投入を行い、消耗するのだった。


「とはいえ、敵もただやられるばかりではないはずだ」


 神明は視線を険しくさせた。敵が回収に固執するのなら、より強力な艦隊を増援に送ってくるかもしれない。……例の再建された紫の艦隊など精鋭が出てくれば、こちらの少ない戦力でやれることは限られる。

 藤島は首をかしげた。


「エニウェトクをやられた敵さんは、どう動きますかね?」

「最前線が潰されたわけだが、回収集積地点をエニウェトクからクェゼリンへ移すことは考えられるな」


 クェゼリンは、マーシャル諸島展開軍の要であり、同諸島にいる敵艦隊のおよそ半数が守りを固めている。


「守る場所を限定すれば、それだけ数も集められる。我々、少数奇襲部隊にとっては数の差が最大のネックだ」


 こちらが正面から殴りかからず、ヒットエンドランに徹しているのは、敵艦隊の指揮官にもわかっている。何故そうなのかと言えば、こちらが正面きって艦隊決戦ができる戦力がないからだ。

 そうであると判断するなら、敵指揮官が戦線縮小を図り、態勢を立て直すのも必然であった。



   ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国マーシャル諸島展開部隊である、帝国第七艦隊。その司令長官アゴラー中将は焦っていた。

 原因は言うまでもなく、エニウェトク環礁拠点の壊滅だ。


 日本艦隊に奇襲され、警戒部隊は何の役にも立たず、敵の妨害に負けず必死にかき集めた沈没艦艇の山を奪われてしまった。

 転移ゲートを使用すれば、あのスクラップヤードを根こそぎ掃除できる――確かにそうなのだろう。だがそれを実際にやられた時の衝撃は、アゴラーを打ちのめした。


 その手があったか!――と他人事でいられれば楽だったのだが、実際のところ進退に関わるほどの極めて危険な状況だった。昨今の帝国の状況を考えれば、今回の失態は、皇帝による粛正に値する。


「敵を捜索せよ!」


 アゴラーは怒鳴った。


「こちらを攻撃してくるにしろ、拠点があるはずだ。このまま連中に好き放題をさせるわけにもいかない!」

「お言葉ですが、長官」


 ポレックス参謀長は言った。


「敵は転移を用いています。その拠点は遥か彼方の敵の本土の可能性もあり、ただ闇雲に索敵したとしても見つけられる可能性は低いと思われます」

「手を尽くして捜索したと言えるのか?」


 アゴラーは睨む。


「案外敵は近くにいるものだ。適切なタイミングで攻撃を仕掛けてくるのは、敵も偵察機や潜水艦を放って、こちらの動きを見ているからだ。であるならば索敵機の母艦なども、我々の警戒範囲にいるはずだ。まず探せ! それ以外の心配は、手を尽くしてから言え!」


 艦隊司令長官はそう捲し立てた。命がかかっていると、人はどこまでも荒々しくなれるのである。

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