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第一〇七五話、潜り込む輸送船


 試製五式艦上攻撃機は、エーワンゲリウム機関を装備した航空機――攻撃機として設計、開発された。


 重武装、重装甲を誇る航空機――空中軍艦では大きすぎるということで、航空機サイズでのフライングフォートレス――空中要塞を作ろうとしたのである。


 とはいえ、当初は大型円盤兵器であるアステールが搭載しているものを小型化する方向で開発された。だが、そのままであったなら完成にまで時間がかかっていただろう。


 それが変わったのは、ここ最近になって実戦に投入された小型円盤兵器であるコメテスの存在である。海没した同機を回収、それを流用することで、開発の大幅な短縮化に成功したのだ。もともと設計されていた機体に鹵獲品をぶちこんで無理やり調整することで、でっち上げたのである。


 なので、当初の計画と見るなら、小型エ1式機関は自力で開発できておらず、この時点で打ち切るのであれば失敗と言われただろう。


 中部太平洋決戦での引き分けで、大きく戦力を失った日本海軍は尻に火がついたような状態で、開発中のものにも早期の実用化を求めた。

 この試製五式艦上攻撃機も、その例に漏れず、鹵獲品の心臓で間に合わせた機体である。


 神明 龍造少将が第四遊撃部隊を編成し、マーシャル諸島の異世界帝国軍に対して嫌がらせを実行するに辺り、魔技研の一部である武本重工業の航空機開発チームの試製五式艦攻を、実戦テストにかこつけて前線に引っ張り出した。


 暁星水上攻撃機の時もそうであったが、開発に携わる技師や研究者も、工作空母『コンステレーション』に乗り込み、五式艦攻の調整や実戦データの収集に取り組んだのだ。

 前置きが長くなったが、要するにここ最近の一連のマーシャル諸島攻撃にも、五式艦攻の開発チームが現場にいた。

 その一員である坂上 吾郎博士は、先日のマロエラップ空襲の際の五式艦上攻撃機の戦いぶりをパイロットたちから聞き取っていたが、そのパイロットはこんなことを言った。


『敵基地の防御障壁がなかったおかげで大暴れできました』


 この言葉に、博士は首を大きく傾け、どういうことかと尋ねた。


『五式艦攻には、障壁を貫通できる武器がないですから』


 もちろん転移誘導弾が使えるなら別ですが、とそのパイロットは答えた。これに対して坂上は告げた。


「君、この機体はシールドをすり抜けて内部に入り込むことが可能な頑丈さと低速でも墜落しないエ1式機関があるんだよ? 転移武器なんてなくても敵をやっつける攻撃機なんだ!」


 確かに攻撃の仕様書に書いてなかったが、防御障壁が低速で行けばすり抜けられることくらい軍人なら知っているだろう、と坂上は思った。

 わざわざ攻撃のやり方なんて書いたら、現場の軍人さんから馬鹿にするなと怒られそうだから書かなかったけれども。


 坂上は力説した。


「この五式艦攻は、海軍が誘導弾不足の時にでも戦えるように、光弾砲を6門も装備したんだよ。その上でアステールなどの円盤兵器の利点を追求、持たせた機体だ! ただの飛行機じゃないんだよ!」


 結果、五式艦攻の搭乗員たちは、シールドで守られた飛行場や基地施設の攻撃方法をレクチャーされ、これをエニウェトク飛行場、エンゲビ飛行場で実践した。


 大戦果であった。地上からわずかなところを浮遊しつつシールド内に入り込み、戦車よろしく地上にある施設や航空機を6門の光弾砲で破壊しまくる。

 異世界人の使う対戦車兵器や対空機関砲なども自慢の装甲が弾き、まったく無効。落ち着いて反撃すれば、一方的な破壊をもたらし異世界人は死ぬ。


 この装甲を戦車につければ無敵な戦車ができるのではないか――と素人ならば考えるだろうが、残念なことにあまりの重量物ゆえ戦車の装甲に採用すれば自走不能。さらにそれを補うエーワンゲリウム機関は、戦車のスペースに収められなかった。

 閑話休題。


 この戦車的な運用もできなくない五式艦上攻撃機は、新機軸の攻撃兵器と言えた。難点は、現時点で小型エ1式機関を自力開発できていなかったことで、鹵獲品の流用かコピーしたものを利用するしかないため、数が限られているとことだろう。


 ともあれ、四機の試製五式艦攻は、エニウェトク環礁にある異世界帝国軍施設、対遮蔽装置を破壊して周り、敵に混乱を強いた。

 帝国第七艦隊は西に現れた不審艦隊に注意を割かれ、基地は日本軍の新型攻撃機によって蹂躙され、大騒ぎであった。


 この隙に、一機の五式艦攻が投下した転移中継ブイが、環礁内にて作動。そこに高速戦艦『サラミス』と、鹵獲輸送船『ロカユ三号』が現れた。



   ・  ・  ・



「環礁内に敵艦の侵入を許しただって!?」


 回収部隊司令官のマナハ少将は司令官室での食事を中断させられ艦橋に戻った。回収指揮艦『エピスコポス』の艦橋は騒然としている。


「帝国第七艦隊によると、ここ最近マーシャル諸島で暴れ回っていた潜水戦艦のようで――」


 副官の報告に、マナハは唸る。


「そんな奴がどうして中に? 外には第七艦隊がいて、南水道には防潜網もあっただろうに!」


 敵が簡単に侵入できるはずがない。今の環礁内には、鯨型回収母艦やタグボート、輸送船、工作艦艇、そして沈没艦艇の残骸ばかりで、戦闘艦艇はほとんどいない。

 一応、自衛用に高角砲や機関砲が装備されているが、戦艦相手に通用する代物ではなかった。


「ほとんどの艦艇が停泊状態だろう? これではただの的だ! 転移ゲート艦にただちに環礁内の転移退避を命令だ!」


 マナハが叫んだ時、環礁の中央で巨大な爆発が起きた。艦艇の大爆発――おそらく侵入した敵戦艦が手近な艦に砲撃を行い、これを爆沈させたのだろう。

 一方的な虐殺の始まりである。すぐにこの環礁内から部隊を逃がさなくては――


「司令、ゲート艦『ディエース』が轟沈! 退避不能です!」

「なに……っ!?」


 マナハは唇を噛んだ。やりやがった! こちらがいざという時、転移で逃げることを予想していたか、敵は容赦なく転移ゲート艦から仕留めたのだ。


 ――これは昨日今日の思いつきじゃないね……!


 おそらく以前より偵察機を放って、こちらの配置や戦力を確認していたに違いない。手近な回収母艦や輸送船を攻撃せず、やや距離があるゲート艦を的確に狙う。


「これじゃ、どうにもならないじゃないか」


 対抗手段がない。こちとら非戦闘部隊である回収部隊だ。環礁の外側だけでなく、内側にも護衛艦艇がいたならまだ抵抗しようがあったかもしれないが。


「――輸送船が敵艦に近づいている? 何を考えているんだ!?」


 指揮艦『エピスコポス』の艦長が声を上げる。マナハは振り返る。


「輸送船?」


 夜間ということもあり、かろうじてシルエットが輸送船であるのはわかる。だがどこの船かとっさに思い出せない。

 わからないのも無理はない。この輸送船は、マロエラップへ救援に向かう船団に所属していた船の一隻であり、日本海軍によって改修された『ロカユ3号』だったのである。


 そしてその輸送船は、突然魔法陣型転移ゲートを発動させ、マナハや帝国兵たちは驚愕した。

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