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第一〇七四話、炎上する環礁


 エニウェトク環礁は、マーシャル諸島における最前線であり、ムンドゥス帝国軍は同諸島に展開する第七艦隊の三分の一の戦力を展開させて防衛網を形成していた。

 前線であるということもそうだが、日本海軍とムンドゥス帝国の大艦隊が激突した中部太平洋決戦での沈没艦艇の回収拠点としても、重要な場所である。


 以前、派遣されていた超巨大回収母艦『フォルティトゥードー』は、日本海軍の奇襲で撃沈された。

 それが環礁の外、北にあるエンゲビ島の近く。あまりに巨艦すぎて、撃沈された『フォルティトゥードー』を回収することができず、こちらはそのまま放置されている。


 一方、環礁の内側は、潜水艦隊用の補給、整備浮きドック、桟橋となっていたが、これも日本海軍の航空部隊による襲撃で破壊された。

 では今、どうなっているかと言うと、決戦で海底に沈んだ沈没艦の集積場として活用されている。


 現地を任されている回収部隊司令官のマナハ少将は、回収指揮艦『エピスコポス』にいて、回収された沈没艦艇が環礁内に固められている光景を監督している。

 割とがっちりした体格の中年女性であり、時々若い兵から『お母さん』『おばさん』などと間違えて呼ばれることがある将官である。


「司令官」

「なにか、大尉?」

「回収軍司令部からです。回収物の処理がようやく決まったようで」


 副官が皮肉げに報告すれば、マナハもまた唇の端を吊り上げた。


「ようやくかい。まったく、後方のお役所というのはいつも鈍くさいねぇ」

「我々も後方部隊ではありますが」

「ここは最前線だよ、大尉。後方部隊のはずなんだがねぇ」


 司令官席に腰を下ろし、副官が持ってきた通信文に目を通す。


「大西洋に再生工場艦だって? フォルティトゥードーⅡでも作ろうっていうのかね」

「あれは回収母艦で、再生能力は限定的だったはずですが」

「再生能力を主軸にした超大型再生工場艦だってさ……。よくもまあこんな巨大なものを作ろうという気になったものだ」

「本国との連絡が途絶えて、資源も自前で何とかしないといけなくなったからではないでしょうか?」


 副官は考えを述べた。これからは補給も装備も、この地球世界で調達、もしくは製造しなくてはならない。そのために本格的な生産工場が必要になってくるということだ。


「まあ、何でもいいさ。『フォルティトゥードー』がなくなって、集めるだけ集めて山となっている回収物の引き取り先が決まったんだから」


 マナハの視線は、指揮艦の外――沈没艦が束ねるように係留されている鋼鉄の山へ向けられる。


「環礁がゴミ箱になる前にあれが綺麗さっぱりなくなるのはいいことだよ」

「少し不謹慎ではありませんか?」


 たしなめる副官。


「敵はともかく、同胞も大勢死んでいるんですが」


 沈没艦艇にも多くのムンドゥス帝国人がいた。本国人もいれば、他の世界を征服し、二等、三等民としてムンドゥスの人間になった者もいる。

 マナハは皮肉っぽい顔になった。


「お祈りなら、とっくに済ませたよ。あたしの中じゃああれはもうただの金属の塊さね。英霊たちは死者の国へ逝った」


 指揮官の言葉に、副官は何も言えなかった。日は間もなく西に傾き、直に本日の作業が終わる。

 何もなければ明日も回収部隊が海に潜り、日本海軍と小競り合いをして、沈没艦を持ち帰る。その繰り返しだ。



  ・  ・  ・



 エニウェトク環礁を警戒している帝国第七艦隊は、北、西、南の三方に艦隊を展開していた。

 トラック方面からの日本海軍の攻撃に備え、西に配置された艦隊が三つの中で一番戦力が大きい。


 その日の夜、前衛警戒艦が不審な反応を捉える。


『所属不明艦隊、レーダーに捕捉。大型艦艇4、小型艦艇10――』


 西部隊の旗艦『グローリア』に警報が響き、部隊司令官が司令塔に到着する。


「日本軍か?」

「それが敵味方識別信号に反応しまして……」


 当直士官が報告すれば、司令官であるベックス少将は眉をひそめた。


「味方とでも言うのか? 我々より西に友軍はいないはずだぞ? ――通信! ただちに不明艦隊に呼びかけろ。同時に全艦に戦闘配置!」

「敵ですか?」

「こんな怪しい状況で棒立ちで死にたくはないだろう。他部隊への通報も忘れるな」


 ベックス少将は、接近しつつある不明艦隊に神経を尖らせる。

 ここは最前線。敵は何の警告もなく現れる。こちらの索敵網を避けて、よくぞここまで近づけたものだ。

 日本軍であるなら、エニウェトクに展開する艦隊に夜戦を仕掛け、回収部隊への妨害を企んでいるのかもしれない。敵も沈没艦の回収をやっていると聞いている。


「空母艦載機は飛べないのだな?」

「夜間偵察機と戦闘機が少し出せます」

「出しておけ。何が起こるかわからん」


 明るいうちであれば、航空隊を差し向けたものを――ベックスは心の中で吐き捨てた。



  ・  ・  ・



 警戒艦隊が所属不明艦隊の動きを注視していた頃、エニウェトク環礁の反対側、つまり東側に転移するものがあった。


 工作空母『コンステレーション』である。レキシントン級巡洋戦艦改装空母の飛行甲板に駐機された五式艦上攻撃機が四機、ふわりと飛び立つ。

 それらはエニウェトク環礁にまっしぐらに低空飛行。母艦である『コンステレーション』は再び転移で消えた。


 そして飛行する五式艦攻はそれぞれの目標に向かって散開。だが環礁に到達前に、警戒の異世界帝国駆逐艦が、侵入した日本機を発見した。


『低空で接近する大型機あり。機数は少数。エニウェトクに展開する各隊は警戒せよ』


 その知らせを受けたエニウェトク環礁にある二つの飛行場――北のエンゲビ島、南のエニウェトク島の飛行場から、戦闘機が緊急発進した。

 だが迎撃機が上がろうとも、五式艦上攻撃機を止める手にはならない。エニウェトク飛行場に飛び込んだ五式艦攻は、夜間にも紫に発光している対遮蔽装置をまず攻撃し、これを破壊した。


 そして飛行場に対して光弾砲を撃ち込むが、これは防御シールドによって阻まれる。マロエラップの場合と異なり、きちん基地の守りが働いていたのだ。

 シールドを確認した五式艦攻は速度を落とし、エ1式機関での超低空浮遊で着陸するように滑り込む。こつん、とシールドに機体はぶつかるが衝撃も軽く、五式艦攻は歩くような低速でシールドに再アプローチをかけると、低速の物体は素通りできる特性を活かして敷地内へと侵入を果たす。


 飛行場外周の機関砲がうなりを上げて撃ってきたが、アステールと同等の重装甲は機関砲の弾を跳ね返す。やや速度を上げて、滑走路に侵入した五式艦攻は滑るように移動しながら光弾砲を乱射。駐機されている異世界帝国軍航空機や飛行場施設を順次破壊して回った。

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