第一〇六四話、反復し、徹底的に叩くべし
『――クェゼリン環礁の敵艦隊、空母より第一次攻撃隊を出撃。メジュロへの救援の模様』
飛雲水上偵察機の報告は、日本海軍第三艦隊のもとに届いた。
連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将はこれを待っていた。
「ようし今だ。攻撃隊を発艦! 目標はクェゼリン環礁駐留の敵艦隊だ!」
小沢の命令を受けて、第三艦隊の空母11隻のうち9隻から攻撃隊が甲板を蹴って飛び立つ。
空母『大鶴』『雲鶴』、『大鳳』『翔鶴』『瑞鶴』、『翠鷹』『蒼鷹』、『隼鷹』『飛鷹』から、無人航空機である紫電改や暴風戦闘爆撃機、海山や流星改といった攻撃機が発進。ただちに編隊を組むと、転移中継艦のもとまで転移離脱装置を用いて移動。そこから目標のクェゼリン環礁へ突撃する。
これに慌てたのは異世界帝国軍だ。
対空レーダーに200を超える航空機が現れ、艦隊に接近してくる。
マーシャル諸島防衛艦隊司令部は騒然となる。
「まさかトラック方面から敵だと!? まだあちらは戦闘中であろう? 何故ここに現れる?」
司令官であるドルパ中将は焦燥にかられる。
「わかりません。しかしレーダーは敵大編隊を捉えております!」
「ここを目指しているというのか! 直掩機を上げろ。……第一波を送り出した後にこれか。緊急発進できる機なぞ残っておらんぞ!」
攻撃隊を放った直後である。格納庫で待機している機に、まさか番が回ってくるとは思わなかった。
「上空警戒に残っているのは?」
「24機です!」
航空参謀は答えたが、それでドルパの表情が晴れるわけがなかった。
「たったそれだけか。せっかく遮蔽対策をしても、これでは意味がないではないか」
クェゼリン飛行場からも戦闘機が発進したが、焼け石に水であった。
飛来した日本攻撃隊に挑みかかる戦闘機隊だが、紫電改や暴風が数で圧倒。攻撃機に近づけさせない。
そしてその流星改、海山攻撃機は高角砲の範囲ギリギリから、四式対艦誘導弾機を発射。
飛翔した誘導弾を迎え撃つ駆逐艦や巡洋艦。対空砲火が途中で敵弾を撃墜するが、それよりも通過していく数のほうが多い。
そして防御シールドを展開するも、それを転移ですり抜ける四式弾は、空母や戦艦に直撃。奇襲攻撃ではないが、防げないのでは結果は同じ。
小沢機動部隊からの空爆により、異世界帝国軍マーシャル諸島防衛艦隊は次々に撃沈破。クェゼリン近くで航行不能、あるいは沈没していく。
日本海軍はトラック防衛に戦力を集中している。その思い込みが、マーシャル諸島に展開する異世界帝国軍の油断を誘い、この襲撃を許した。
レーダーは敵を捕捉していた。しかし初動に遅れ、適切な対応がとれなかったばかりに強襲は奇襲と同等の一方的な被害を拡大させた。
メジュロ環礁は補給船団の屍を作り、戦艦『蝦夷』以下殴り込み戦隊の離脱を許した。そしてクェゼリンの守備艦隊も、小沢機動部隊によって大打撃を被り、その戦闘能力を大幅に失った。
メジュロ救援に出撃した攻撃隊は、目標が転移離脱したことで、環礁の大惨事と毒々しい煙を吐き出すタンカーや輸送船の断末魔を目撃することしかできなかった。
さらに彼らは帰るべき空母群がやられた結果、艦隊に戻ることもできず、クェゼリン島の飛行場とその周辺に着陸することとなる。
海上では艦隊の被害艦への救助作業が進み、航空隊が陸上飛行場に収容された頃には日が落ちたが、それで終わりとはならなかった。
日本海軍は夜戦を仕掛けてきたからだ。
第三艦隊と第一遊撃部隊は、クェゼリンに接近した転移巡洋艦『本渡』の転移中継装置に誘導され、突撃した。
●水上挺身隊
甲:司令官、小沢 治三郎中将
航空戦艦 :「出雲」
戦艦 :「伊勢」「日向」
重巡洋艦 :「妙高」「足柄」「最上」「鈴谷」
軽巡洋艦 :「能代」
転移巡洋艦:「大隅」
駆逐艦 :「谷風」「霞」「大風」「西風」「南風」「東風」「浜波」「沖波」「岸波」
乙:司令官、神明 龍造少将
戦艦 :「大和」「武蔵」「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」
装甲艦 :「鳴雷」
軽巡洋艦 :「九頭竜」「夕張」「阿賀野」「矢矧」「早月」「野洲」「雨竜」
駆逐艦 :「島風」「氷雨」「霧雨」「細雪」「氷雪」「早雪」
:「湿雪」「春雪」「雨雪」
潜水艦 :「伊121」「伊122」「伊123」「伊124」
「目標、敵飛行場ならびに地上施設!」
甲部隊を率いる小沢中将は、クェゼリン島めがけて艦砲射撃を命じた。
航空戦艦『出雲』の46センチ砲、戦艦『伊勢』『日向』の41センチ砲、そして重巡洋艦『妙高』『足柄』『最上』『鈴谷』の20.3センチ砲が、次々に地上へ撃ち込まれた。
三式弾のつるべ打ちは、地上施設を叩き、駐機されていた異世界帝国軍航空機をも破壊する。
そして乙部隊は、海上に残存する敵防衛艦隊に対して、転移砲による残敵掃討を行う。夜間、発砲の炎すら見せない転移砲弾は、異世界帝国艦艇に着弾。陸地と甲部隊の砲撃方向ばかりに気をとられていたために、一方的に乙部隊から撃ちまくられることになる。
『大和』『武蔵』の二大戦艦の46センチ砲弾、『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』の改装戦艦の35.6センチ砲弾が容赦なく突き刺さり、大破した戦艦、空母にトドメが刺される。
軽巡洋艦『夕張』『阿賀野』『矢矧』ほか巡洋艦、駆逐艦も敵護衛艦を叩き、異世界人の反撃を許さない。
日本軍は一撃を与えて去った――昼間の襲撃をそう判断していた異世界帝国軍は、まさか夜襲をかけられると思っていなかった。
連合艦隊は積極果敢。猛烈なる反復攻撃により、マーシャル諸島の異世界帝国軍勢力を完膚なきまでに攻撃。その拠点機能を完全に喪失させたのであった。
なお、この戦いの裏で、異世界帝国軍はマーシャル諸島に即応の増援部隊を送っていた。夜襲を仕掛けた日本艦隊への反撃を企てた異世界人たちだが……、彼らは伏兵の襲撃を受けることになる。