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第一〇六三話、メジュロ環礁、炎上


 メジュロ環礁に迫るは、エ1機関による飛行能力を獲得した戦艦『蝦夷』、装甲艦『大雷』『火雷』『黒雷』の四隻だった。

 旗艦である『蝦夷』の対空電探は、環礁の基地から飛来したエントマ戦闘機の接近を捉えていたが――


「無視していい」


 第一遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は告げる。


「あの戦闘機に、こちらを止める術はない」


 防御障壁を展開している限り、異世界帝国軍機に飛行する軍艦への攻撃手段はない。障壁対策の貫通魚雷は、海上であればこそ使えるが、空を飛ぶものに魚雷は使えない。


 光弾砲を撃ちまくれば、障壁のエネルギーを削ることはできる。が、戦闘機の搭載する出力では、それこそ数百機で押し寄せるレベルでなければ無理だ。

 飛来するエントマは、高速でダイブして機銃や光弾砲を撃ち込んできた。だが『蝦夷』はおろか、大雷型装甲艦の防御障壁に弾かれて終わる。


「環礁が見えてきました! 在泊艦艇、多数!」


 見張り員の報告が響いた。空母が十数隻、貨物船やタンカーがその倍以上、環礁内に停泊していた。

 阿久津 英正艦長が不敵な笑みを浮かべる。


「敵さん、逃げずに留まっていますな!」

「ゲートを使われる前に、あの真ん中に突っ込め」


 神明の静かだが強い意志を感じる言葉に、阿久津は頷く。


「了解です。『蝦夷』を環礁に着水させます!」


 全艦、攻撃準備!――敵の真ん中に飛び込むと同時に攻撃できるよう命令が飛ぶ。

 メジュロ環礁基地の防空砲台、対空砲が火を噴く。しかしそれらも防御障壁がシャットアウトする。


「司令、もしこちらがタッチダウンするより先に、敵が転移で逃げたらどうしますか?」

「その時は基地施設を砲撃して、環礁内に機雷をばらまくさ」


 神明は淀みなく答えた。環礁の中央にいるキュクロス級転移ゲート艦の姿が見えたからだ。

 しかしゲート艦が魔法陣を展開する前に、戦艦『蝦夷』と僚艦は環礁に水飛沫を上げて着水した。味方タンカーや輸送船への誤射を恐れてか、異世界帝国駆逐艦が盛んに打ち上げていた13センチ両用砲や光弾砲の射線がしばし少なくなる。


「艦長、手当たり次第に砲撃始め!」

「了解! 各主砲、砲塔別射撃! 目につく敵艦船を片っ端から砲撃せよ! ――これでひとまず転移されても逃げられることはなくなりましたな!」

「どうかな。敵は転移ガードというべき防御手段を持っている。ここで我々だけ転移で飛ばす可能性もある」


 そこまで頭が回る指揮官が、もしかしたらいるかもしれない。それくらいの気持ちでいた方が裏をかかれても多少は落ち着ける。不意打ちと予想済では対応の反射速度が違うのだ。


 第一遊撃部隊殴り込み戦隊により、想定の上では敵船団の転移退避が無効になった。ここで船団を転移離脱させれば、『蝦夷』以下装甲艦3隻も連れていってしまうことになるからだ。そこで暴れられては、結局タンカー、輸送船はやられてしまう。


 かといって、懐に潜り込まれて、異世界帝国船団は慌てふためく。接舷して並んでいる船は動くに動けず、環礁内に船が多くて、自由に航行できるスペースはさほどない。無理に勝手に動けば、同じく逃げ惑う船と衝突する可能性が高くなるのだ。


 だが日本海軍側には関係がない。

 防御障壁を展開しながら、『蝦夷』は51センチ連装転移砲を叩き込み、大雷型装甲艦は30.5センチ三連光弾三連装砲を撃ちまくる

 タンカー、輸送船、そして空母――小型の護衛空母群にとって、オーバーキルな高火力弾に瞬く間に轟沈、大破炎上が相次いだ。


 メジュロ環礁は異世界人にとって休息地から地獄に変貌する。獄卒に一方的に蹂躙される亡者の如く、いとも容易く船体を撃たれ爆散、燃料や物資の誘爆がそこかしこで起きて、黒煙が立ち込めた。



  ・  ・  ・



 マーシャル諸島内、クェゼリン環礁。ムンドゥス帝国の同方面艦隊が警備につくこの地では、メジュロ基地を襲撃した日本軍への対応に苦慮していた。


「偵察機によると、敵は戦艦1、重巡洋艦3。ただし飛行能力を有し、現在メジュロに停泊している船舶が攻撃を受けております」

「たかだが4隻。されど4隻か」


 マーシャル諸島防衛艦隊のドルパ中将は唸る。


「基地航空隊は支援に向かったんだな?」

「ガレオス中爆撃機と護衛が飛び立ちました」


 第一波として戦闘機15、双発爆撃機21がその陣容だ。果たして日本戦艦に通用するのか、ドルパはいまいち確信が持てない。


「増援、出しますか?」

「当然だ! 水上打撃部隊をメジュロに派遣する。近くのキュクロス級転移ゲート艦に指示、転移で時短を行う」


 環礁内に停泊しているオリクト級戦艦と、巡洋艦が碇を上げて動き出す。


「空母はどうしますか?」

「出せるのか?」


 停泊して他艦と接舷している場合もある。動けず、シールドも張れない艦艇は少なくない。


「航空機は、垂直離着陸機能で飛ばせますから、停泊中でも攻撃隊は出せます」

「……はたして、現地で航空機が使えるかわからんが……、いいだろう。攻撃隊を発進させるよう、各空母に命令を出せ」


 ドルパは命じた。メジュロに押し寄せた敵はわずか4隻。敵が少数でヒットエンドランを仕掛けてきたとすれば、まだ他にも小部隊が現れる可能性がある。そこを航空機で応戦できるなら、出撃させておくのは悪くない選択である。


 かくて、環礁の外へ戦艦、巡洋艦群が移動。空母からはヴォンヴィクス戦闘機とミガ攻撃機が、メジュロへの救援のため出動準備が進められる。

 クェゼリン環礁の警戒網は機能している。対遮蔽装置により、日本軍の奇襲攻撃隊が忍び寄っている気配もない。


「連中もここのところの連戦で戦力を失っているはずなのに、よくもやる」


 吐き捨てるようにドルパが言えば、参謀長も頷く。


「マリアナ、トラックで我が軍と交戦した直後ですからな。だからたった4隻しか仕掛けてこれなかったのでしょうが……」

「あるいは、我々が出撃すれば、敵は尻尾を巻いて逃げ出すかもしれんな」


 敵も連戦で、主な戦力はそちらに投じているに違いない。マーシャル諸島への攻撃は極少数によるゲリラ戦法であるとドルパは考察した。


『攻撃隊、発艦します!』

「おう!」


 クェゼリン環礁に待機する9隻の空母から、艦載機が出撃する。その数は総勢100機を超える。しかしドルパの表情は冴えない。


「現地はやられたタンカーなどの黒煙で視界不良なのではないか……。あまり航空機は当てにならんかもしれんな」

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