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第一〇六一話、帝国第四艦隊の壊滅


『敵艦隊、直上を通過』


 大型巡洋艦『妙義』、その制御艦橋に響いたのは同艦を魔核制御する瀬戸 麻美中尉の声。第一遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は、旗艦を『妙義』に定め、作戦を指揮していた。


「全無人艦へ。上方の敵艦隊に砲撃を開始」

「了解。全無人艦、照準動作開始」


 無人艦制御室から担当官の指示が飛ぶ。太平洋の海中に没する第一遊撃部隊の水中対応転移砲を装備した艦の艦砲が、一斉に海面を航行する異世界帝国艦隊へと向く。

 無人戦艦4、駆逐艦7、潜水艦3の砲が、敵艦の底部にピタリと合わされる。


「司令、全艦、照準完了です」

「撃ち方始め、一斉射」


 撃ち方始め――命令は復唱され、転移砲が唸った。


「水上、爆発音多数!」


 聴音士が報告する。加速され瞬間移動した砲弾は、異世界帝国艦の底をぶち破り、艦内でその圧倒的破壊力を解放する。

 撃たれた方は何が起きたか知覚する前に致命傷を負う。戦艦2、空母2が瞬く間に吹き飛び、異世界人らは困惑する……。


「次の標的へ照準。狙いが付き次第、発砲せよ」


 あとは混乱している時間を利用してできるだけ叩き、海中が怪しいと動き出す頃にはすでに手遅れの状況に持っていく。

 旧『駿河』『近江』『常陸』『磐城』の41センチ連装転移砲が大型艦、空母と重巡洋艦を下から突き飛ばす。水防区画を貫通し機関で砲弾が炸裂すれば、艦はその航行能力を大幅にダウン、もしくは喪失してしまう。


 突然の攻撃、その原因がわからず、異世界帝国側の混乱は収まらない。気づいたのはソナー担当の聴音士たちで、海中から奇妙な連打音を聞き取り、それを報告することで、下からの攻撃ではないかと艦長らは判断する。

 だがその間にも潜水艦や駆逐艦からの転移砲の速射により、潜水艦に対処するはずの駆逐艦が次々に刈られていく。


 まさに一方的だ。改陽炎型駆逐艦7隻の12.7センチ転移砲は、14隻のカリュクス級駆逐艦を蹴散らすのにさほど時間はかからなかった。

 伊707、伊708、伊709の3隻は、艦首と艦尾甲板に半没するように設置されている球形砲により、上方の敵に対する仰角も大きく、ほぼ真下に近い位置からの砲撃が可能だった。

 14センチ砲弾を転移にて撃ち出せば軽巡洋艦の艦底を撃ち抜き、その戦闘力、航行能力を奪っていく。


 操る能力者は訓練はできても実戦は初めてという少年少女たちだったが、敵から攻撃されることなく一方的に狙える状況は、よい初陣の機会を与えた。もっとも、そうこうしている間に無人戦艦が、大型艦艇をあらかた片付けてしまい、あっさりと戦闘は終わってしまったが。


『敵一群、全滅』


 旗艦『妙義』。瀬戸の報告を受けた神明は首肯する。


「よろしい。――制御官、各無人艦の状況を確認せよ」

「了解」


 無人艦をコントロールする管制官たちが、担当する艦の状態――損傷や残弾、何らかのエラーなどを確認する。

 藤島 正先任参謀が口元を緩ませた。


「この程度の数ですと、あっという間ですな」

「敵は三つのグループに分かれて行動していた」


 神明は天を仰ぐ。天井によって阻まれているが、海面の敵船を見るように目を鋭くさせる。


「分散することで、まとめてやられるリスクを避けていたわけだ」

「固まってくれれば楽だったんですがね」

「そうこちらの都合よくは動いてくれんということだ」

「まあ、各個撃破と思えば、そう悪いものじゃないですな」

「そういうことだ」


 残る敵グループは二つ。次の敵は……。



  ・  ・  ・



「なっ、全滅だとっ……!」


 ムンドゥス帝国第四艦隊の司令長官ガルフノー・マズニ大将は、顎が外れるのではないかと思うほど驚愕した。


「間違いないのか!?」

「偵察機が現場に飛んで確認しました。洋上で沈みかけている艦、転覆した艦など……明らかに我が艦隊のものです」


 航空参謀は躊躇いがちに付け加える。


「第二群に続き、第三群もやられました。残るは我が一群のみとなります」

「……敵機動部隊の位置も掴めておらん」


 マズニは不愉快この上ないという顔をする。


「空襲を受けたという報告はなかったはずだな? 一体何にやられたんだ?」

「わかりません」


 参謀もそう答えるしかなかった。マズニは怒鳴り出したいのをかろうじて押さえ込む。怒りをぶつけたところで何も解決しないのだから。


「マリアナに侵攻した部隊も返り討ちにあっている……。何かがおかしい」

「……」

「参謀長、小官は撤退が妥当と思うが、貴官はどう判断する」

「撤退は妥当と思います。あまりに戦力を失いました」


 ただ、と参謀長の表情が曇る。


「敵の正体がわからないというのは非常によろしくないと考えます。最悪、長官の身を危うくするかと」


 敵前逃亡は重罪である。それはどこの軍隊も同じだが、ムンドゥス帝国にとってはそれは非常に不名誉なこととされる。

 やられても一矢報いたならば情状酌量の余地はあるが、相手の正体も確かめずに撤退すれば、敵に恐れをなして逃げたと判断される恐れがあった。

 だがこのまま無為に艦隊を失うことは、司令長官として許されることでもない。


『前哨の駆逐艦より、水中を高速で移動する物体を捕捉との通信!』


 司令塔に新たな知らせが飛び込む。


「水中……? 敵潜か! 対潜戦闘!」


 マズニは、護衛の駆逐艦戦隊に敵潜狩りを命じる。いつ敵機動部隊の航空隊が現れるかわからない状況である。回避運動中に地雷を踏むが如く雷撃されてはたまらない。

 波間を疾走するカリュクス級駆逐艦。高速で航行する敵を追跡するが……それが突然、爆発した。まるで機雷原に踏み込み、誘爆したように駆逐艦数隻が立て続けに吹っ飛んだ。


「何ということだ……!」

『2時の方向に、浮上するものあり! 大型です!』


 なに――司令塔の窓からそちらへ視線が向く。海の中から現れたもの――それは大型戦艦であった。

 巡洋戦艦『武尊』。主砲塔が旋回し、すかさず46センチ連装三連光弾砲が瞬いた。


 その一撃は護衛のオリクトⅢ級戦艦のシールドを貫通し、そして爆発させた。敵の正体は潜航可能な大型戦艦――マズニがそう判断した時、『武尊』の46センチ砲が恐ろしい速さで旗艦を狙い、そして発砲した。

 司令塔を直撃した攻撃は、もっとも頑丈とされた装甲をも貫き、マズニ大将ら帝国第四艦隊司令部を消滅させた。

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