第一〇五八話、対円盤兵器群
ムンドゥス帝国第四艦隊より、一群が補給のため後退するという知らせがきた時、第五航空艦隊司令官ファイ・チャッハ中将は、帝国第四艦隊に意見具申した。
マリアナ諸島の敵飛行場に円盤兵器群を叩きつける。
敵飛行場には防御シールドがあるが、アステールの光線砲を集中すれば、一つや二つの飛行場を破壊するくらいにはなるだろう。
一度に全て破壊できずとも、連日少しずつ削っていけば、トラック諸島攻略部隊も日を追うごとに楽になるはずだった。
この申し出を、帝国第四艦隊司令長官、ガルフノー・マズニ大将は了承した。トラックの日本軍を攻撃中に、マリアナの航空隊に加え、連合艦隊が現れるかもしれない状況に、いざという時の戦力不足の不安があったからである。
『よろしい。やりたまえ』
「了解致しました!」
司令官通信の後、チャッハ中将は、ただちにアステール、コメテスを発進させて、マリアナ諸島の日本軍飛行場攻撃を差し向けた。
――イリクリニスの小娘の要請を断った手前、私に直接責はないにしろ寝覚めが悪いからな。
マリアナ諸島の攻略を進めていた二千艦隊は、日本海軍に敗れた。その司令長官であるソフィーア・イリクリニス元帥から、パイロット収容要請を受けたチャッハだったが、海氷空母の生存性に期待がもてない故に断った。
それが彼女と交わした最後の通信となった。皇帝陛下の一族であるソフィーアが階級が上であることに思うところがあったチャッハであったが、どのような理由であれ断ったことが一定の後ろめたさを感じさせた。
不敵な言動とは裏腹に、チャッハは意外と小心であった。要請を断った判断に間違いはないし、あの場面で引き受けていれば円盤兵器の母艦である海氷空母も失われていただろう。
だがそれが正しくとも、すっきりしないことはあるのだ。
「せめて、仇討ちはしてやるよ」
自分の後ろめたさの解消のために、チャッハは円盤兵器群を出撃させたのであった。
・ ・ ・
敵円盤兵器群、接近!
まず、マリアナを目指す円盤兵器群に気づいたのは、戦闘機隊の母艦となっていた海氷島と大海型海氷空母群であった。
マリアナ航空要塞から飛び立った陸上攻撃機や爆撃機につける護衛戦闘機隊の消費燃料節約のための前衛部隊である。
「迎撃機、発進せよ!」
マ式エンジン搭載の震電局地戦闘機が空対空誘導弾を搭載して飛び立つ。
円盤兵器に備えて、日本海軍は常に準備をしていた。少数機であれば、撃墜できる能力はある。だが多数の機が飛来した場合、防ぎきれないことが多々あり、海軍航空隊の課題でもあった。
が、数には数で対抗するしかない――と力技での解決以外の手は現状なかった。
『敵の円盤群、発見!』
『大型16、小型およそ30機!』
「こちら案山子一番。敵円盤に対して攻撃を開始する! 突撃!」
まず仕掛けたのは36機の震電。これらは敵の針路斜め上からの誘導弾攻撃で先手をとった。
飛んできた誘導弾は、自慢のシールドで弾かれるように見えたが、防御を転移ですり抜け、直接、アステールの円盤内で爆発した。
シールドと装甲に自慢の円盤兵器群だが、さすがに防御を抜けてきて機体内で爆発されては無傷とはいかない。対円盤兵器用に転移位置を調整している専用弾である。
攻撃を仕掛けてくる震電に対して、異世界帝国側も反撃に移る。アステールは対空用の光弾砲を発砲。小型のコメテスはより機敏にドッグファイトを挑む。
コメテスは、サイズ的には双発戦闘機並みの大型機だが、アステールに比べれば遥かに小さい。さらにエーワンゲリウム機関によるスライド飛行など、通常の航空機とはまったく異なる動きをする。
空対空誘導弾が当たれば、一発でも飛行に深刻なダメージを受けたり撃墜することはできた。だが問題は、誘導弾を避けることだ。
誘導弾の誘導性能には限界がある。特に現在の誘導弾は、目標物をある程度範囲内に収めないといけない。その範囲外に出られてしまうと、誘導舵の利きから目標を追尾しきれないのである。
アステールのような大型ならば多少はずれても的の大きさで当たることもある。だがコメテスほどになると、引きつけてからのスライド飛行や急旋回で回避もできてしまうのだ。
もっとも、これはヴォンヴィクスやエントマ戦闘機の頃からあった話で、基本誘導弾は、正面からのヘッドオンや敵機の後方から奇襲する時などに使用するのが、もっとも当たるとされている。
巴戦や旋回切り返しを繰り返して逃げる敵機に当てるのは難しいのが、日本海軍が使用する誘導弾である。
また、当てられるアステールに対しても、その大きさ故、当たり所が悪ければ中々落ちないタフさがある。
光が駆け抜け、被弾した震電が粉微塵に四散する。敵の光弾砲の威力は直撃すれば航空機にとっては脅威そのものである。
集中打を浴びたアステールが多数の煙を引きながら、海面に滑るように墜落すれば、誘導弾の直撃を受けたコメテスがスピンしながら海に落ちた。
震電隊は奮戦するが、円盤兵器の速度は早い。観測していた彩雲改二偵察機が、報告を飛ばす。
『梟二番より一航艦司令部へ。敵円盤兵器は、なお進撃中。その数大型11、小型約20』
・ ・ ・
「いいぞ、数は減らせている」
第一航空艦隊司令部、司令長官である大西 瀧治郎中将はほくそ笑む。
「この数ならば、三つの航空艦隊の局戦で凌げる!」
『白電、および震電二個中隊、迎撃位置につきます!』
「追加にもう一個中隊を出せ。出し惜しみはなしだ」
大西は追加の指示を出す。サイパン、テニアン、グアムの各飛行場から第一、第五、第十一航空艦隊の局地戦闘機隊が次々に飛び立ち、円盤兵器群を待ち構える。
一回で駄目なら数度の波状攻撃。敵のスピードも早いからあまり余裕はないが、通用している。
「数さえ減らせれば、対応できるんだ」
大西は力説する。
「ここらで、円盤兵器の集団にも打ち勝てる記録を残さねばなるまい」