第一〇五七話、トラック攻略部隊 対 マリアナ要塞航空隊
トラック諸島を攻撃する異世界帝国軍は、飛行場のある冬島と竹島を制圧。夏島と、同じく飛行場のある春島で日本軍守備隊と激しい戦いを繰り広げていた。
異世界帝国艦隊――帝国第四艦隊は、トラック諸島の各砲台や楓島飛行場を無力化しつつ、上陸部隊の支援を行っている。
だが、日本軍も黙ってやられているわけではなく、マリアナ諸島の航空要塞から陸上攻撃機が、その中間地点には応急修理を終えて飛行場能力を復活させた海氷島と大海型海氷空母が、護衛戦闘機隊を発進させて、トラック諸島の異世界帝国艦隊に攻撃を仕掛けていた。
「敵さんの対遮蔽装置は生きてやがるな!」
遮蔽の衣を剥がされた攻撃隊。対空レーダーを装備した索敵機より無線が入る。
『敵戦闘機群、攻撃隊に接近しつつあり!』
「頼むぞ、戦闘機隊!」
銀河双発爆撃機隊は、護衛の紫電改二戦闘機隊が追い抜かしていくのを見送る。間もなく、敵空母の直掩隊が日本軍攻撃隊を阻止に現れる。
最高時速540キロの高速双発爆撃機である銀河も、誉エンジンの回転を高らかにあげつつ、艦隊へと迫る。
『上方! 敵編隊!』
キャノピーごしにキラリと光るものが見えた。高空からお馴染みのヴォンヴィクス戦闘機が十数機、ダイブしてくる!
紫電改二戦闘機もまた横やりを入れるべくフルスロットルで突っ込む。曳光弾、あるいは光弾機銃がまたたき、不幸な機が破片を撒き散らして落ちていく。
もつれるように黒い粒同士が飛び交い、互いを落とそうと目まぐるしい。紫電改二の20ミリ光弾機銃で、バラバラになったヴォンヴィクスが海に落ちて水柱を上げれば、しつこく日本機を追い回す敵機からの12.7ミリ弾を喰らい、炎上――しかし自動消火装置により最悪を免れたりと、激闘は続く。
「目標の敵艦隊!」
「おおっ!」
銀河双発爆撃機隊は、眼下に異世界帝国艦隊の姿を捉える。
「空母4の輪形陣!」
ほか戦艦2、巡洋艦2、駆逐艦10の艦隊だ。
「ようし、こいつらを叩くぞ。攻撃隊――」
『敵機直上!』
敵戦闘機のおかわりがきた。こちらには戦闘機の護衛がついていない。
「くそっ!」
ヴォンヴィクスの機銃が瞬く。さらに光弾砲を撃ち込まれ、僚機が爆散する。
『三番機、被弾!』
「もう落ちてる!」
異世界帝国側の母艦をやられないように必死だ。敵はさらに別の一隊がダイブして銀河編隊に攻撃を仕掛けてきた。
『五番機、爆発! あ、六番機も!』
「照準装置オン!」
対艦誘導弾を撃ち込んでやる!――届けられなかった味方機の分もお返しせねばならない。
その間にも、僚機が吹き飛ぶ。遮蔽装置で身を隠せないとこうもあっさり掴まるものである。
「用意……てぇっ!」
対艦誘導弾を切り離す。敵艦隊から高角砲が火を噴き始めたが、銀河編隊は離脱行動に移る。
昨年までは誘導弾が敵艦に命中するまで照準装置で目標を捉え続けなくていけなかった。しかし今はは誘導弾自体に仕込まれた自動コアが、印をつけた敵艦に自動で飛んでいく。
「行けよ……! うおっ!」
機体に敵の機銃が命中した。投弾後の機も関係なく、異世界帝国戦闘機は攻撃してくる。
「機長!」
「転移離脱装置、作動!」
結果が見えないのは残念だが、それに固執して死んではならない。今の海軍搭乗員たちは、生きて帰ることが至上命令なのだ。もはや人間が操縦している機の方が遥かに少ないのだから。
・ ・ ・
「何ともうるさい連中だ。まったく」
ムンドゥス帝国第四艦隊司令長官、ガルフノー・マズニ大将は、旗艦の司令塔で唸った。
彼の艦隊は、トラック諸島攻略部隊の支援を行っているが、マリアナ諸島の日本軍航空要塞から数次に渡る航空攻撃を受けていた。
「ヘーメラーもクバーレも、敵基地の一つも潰せなかったとは。我が艦隊の恥曝しめ」
二千艦隊に貸した第四艦隊の分遣隊二つは、マリアナ防衛に出てきた日本艦隊に叩き潰された。
第四艦隊の半数以上の戦力を、自分の見ていないところで失い、マズニの機嫌がよいはずもない。
「参謀長」
「被害の集計終わりました」
参謀長のキズィア少将は、何とも皮肉げな顔を緩ませて言った。
「空母2隻中破、重巡1、駆逐艦3中破ないし大破。沈没は軽巡1、駆逐艦4。航空機は約250機喪失。300機ほどが損傷、修理ですぐには動けない状況です」
「三分の一か」
第四艦隊の航空機およそ1500機を保有していたが、じりじりと損耗している。
「砲弾や燃料のこともありますし、そろそろ補給が欲しいところです」
「一番消耗しているのは?」
「北方警戒の第四群ですな」
キズィアは即答した。マリアナ方面の敵攻撃隊が集中している隊である。
「第一群を南から迂回させろ。第四群は補給のため、東へ下げろ」
「了解です。――しかし、妙ですな」
「何がだ?」
「敵はマリアナばかりで南のラバウルからは攻撃隊が来ないことです」
キズィアは言った。
「トラック諸島とニューブリテンのラバウルの距離はおよそ700浬。最近の日本軍双発機だと余裕で飛んでこれます」
転移離脱装置あればこそ、であるが、異世界帝国側はそれを知らない。
「中部太平洋決戦で、敵は海氷空母に基地航空隊を投入したらしいからな。ラバウル方面の航空隊は消耗して攻撃隊を送り出せないんじゃないか?」
当たらずとも遠からずの推測をするマズニ。本来ラバウル方面の第十一航空艦隊は、現在マリアナ方面に展開しているので、そちらから仕掛けているのが真相である。
「日本艦隊、来ますかね?」
「どうかな。分遣隊の連中が消耗させたと信じたいがな」
分遣隊を率いたヘーメラー中将、クバーレ中将がそれぞれ日本艦隊に痛打したと思いたい。そうでなければ無駄死にである。