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第一〇五六話、親衛軍の動向


 ムンドゥス帝国親衛軍長官のササ大将は、集まった親衛軍の指揮官らを前に告げた。


『オクトー・ベル隊が全滅した』

「……!」


 指揮官たちは目を見開いた。表情が変わらなかったのは少なく、その変わらなかった数人の中には、紫星艦隊司令長官のヴォルク・テシス大将もいた。


『日本軍は、マリアナ諸島を攻略する任を与えられた二千艦隊、帝国第四艦隊を撃滅し、奇襲支援部隊であるオクトー・ベルの隊も葬った』


 ササは仮面で顔を隠しているため、実に淡々と話している印象を受ける。しかし指揮官たちは、残存戦力とはいえ、かの二千艦隊がやられたと聞いてさらに驚くのであった。


「イリクリニス元帥も……?」


 司令官の一人が首をかしげれば、ササは頷いた。


『戦死だ。彼女の旗艦であったキーリア級もまた、日本軍によって撃沈された』


 ざわめきが収まらない。また別の司令官が口を開いた。


「マリアナ諸島の攻略に失敗したということですか?」

『そうなるな』

「では、現在進行中のトラック諸島の攻略については……? 作戦は中止になるのでしょうか?」

『現状、続行している。皇帝陛下の作戦司令本部も中止を言っていない』

「続行……!」

「大丈夫なのでしょうか? 帝国第四艦隊は、マリアナ、トラック双方に戦力を二分していると聞いています。マリアナ攻略が失敗したということは、第四艦隊の戦力は半減したことになりますが」

『いいも悪いも、作戦司令本部が中止にしていないならば、作戦は続行される』


 ササは微塵も動じない。


『推測だが、日本海軍の戦力を計っているのだろう。中部太平洋決戦で、どの程度日本海軍を叩けたか』


 主力である二千艦隊が大打撃を受けた戦い。日本海軍も千を遥かに超える大艦隊をもって迎え撃ち、お互いに沢山の艦艇が沈んだ。

 回収部隊が山となっている沈没艦のサルベージを行ったが、日本軍に妨害され、こちらも大きな被害を受けた。

 敵に再起不能な損害を与えたと信じたかった帝国の一部の思惑とは裏腹に、これまでのところ、日本軍は積極果敢に攻撃を仕掛けてきていた。


『もちろん、敵も無傷ではない。こちらでも千隻以上の日本艦を沈めている。決して彼らにとっても損害は軽くない』


 だからマリアナ諸島の侵攻部隊をはねのけた日本軍が、どれくらいを置いてトラックに兵力を送り込んでくるのか――帝国の頭脳たる作戦司令本部も注視したいのだった。


『早く戦力を送り込めるならば、日本軍はまだまだ健在。だが逆に、マリアナ諸島は防衛した日本軍がトラックに現れなければ、連中の戦力もギリギリであったことがわかる』


 敵のリアクションを見る。その判断材料を得るために、戦力が半減した帝国第四艦隊には、引き続きトラック諸島を攻めさせているのだ。


「それで、長官。我々はトラック攻略の支援に動くのでありますか?」

『その命令は出ていない』


 マリアナ諸島攻略には一隊を出した親衛軍だが、トラック諸島には部隊を派遣していない。

 何故かと言われれば、皇帝陛下の指示が出ていないからだ。親衛軍は皇帝の命令に従う。故に何も言われていないのに勝手に部隊を派遣はできないのである。


『ただ、皇帝陛下は日本軍の動向に注意を払っておいでだ。いざとなれば、増援として我らが派遣される可能性はある』


 もっとも、その可能性は低いとササ本人は思っている。だが断言はできない。皇帝陛下は気まぐれなところもあるのだ。


『現状の報告を。……マイウス中将』

「はっ」


 頭髪の薄くなった恰幅のよい男が応えた。


「ハワイ諸島は制圧しました。……というより防衛設備もなく、ほぼ無血占領と言ってもよいかと」


 度重なる占領、奪回の末、アメリカ軍は本土から離れたハワイの防衛を諦めたようだった。

 実際、太平洋に進出している勢力は、今や日本だけである。かつては南太平洋やオーストラリアに連絡線はあったが、それらは途絶しており、フィリピン、グアムなどの戦前の領土も機能していないとあれば、無理にハワイに部隊を展開させて拠点とする必要もなかったのだ。


『アメリカには、本土周りを守るので精一杯。ハワイは遠い、か』


 ササは呟いた。45年1月の南米での海戦で、米海軍は整備した大艦隊を喪失した。その造船能力をもってすれば、小型艦や輸送船、その他補助艦艇の整備は早いだろう。だが空母や戦艦といった大型艦は、いかにアメリカといえど、数を揃えるのは簡単ではない。


『だが我々にとっては、ハワイは北米を目指す上で重要な拠点となるだろう』

「気掛かりなのは、日本軍の動きとなりますが」


 マイウスは続けた。


「マリアナを守りきり、トラックについては今後の動向を見ることになるでしょうが、仮に司令部の想定より戦力が大きかった場合、こちらの動きに対応して、ハワイの奪回に動く可能性も……」

「ハワイより、マーシャル諸島の奪回が先だろう」


 ウルブス中将が口を開いた。


「南太平洋の島々を我が軍が征服し、地固めをすることを奴らはよしとしないだろう。マーシャル諸島は、トラック、マリアナ、そしてウェークを脅かす地点にある。ハワイよりも目の上の瘤のはずだ」


 なにより――


「マーシャル諸島から南太平洋の島嶼の奪回をされたら、ハワイは補給線を絶たれて孤立する。以前、南海艦隊がそれで壊滅していると聞くが? ――いかがですか、テシス大将?」


 ここにいる将官の中で一番地球にいて、日本軍と戦ってきたヴォルク・テシスである。


「有力な戦力がなくとも、ハワイに対しては南米、マゼラン海峡ルートを脅かすべく通商破壊くらいは仕掛けられる。それを考えれば、彼らの優先順位は、ウルブス中将の言う通り、ハワイよりマーシャル諸島が先だろう」

『全ては――』


 ササは告げた。


『我らが皇帝陛下の御采配次第である。陛下の命じるところが、我ら親衛軍の戦場だ。各自、いつでも皇帝陛下の剣として戦えるよう準備せよ』

「はっ!」


 各司令官たちは首肯した。ササは席を立つ。


『とはいえ、皆が日本軍を警戒していることを、親衛軍長官として嬉しく思う。各自、研究を怠らず、彼らの動向を注目しようではないか』


 マリアナ諸島を守った日本軍が、トラックに対してどう出るか。果たして即時行動できるほど戦力が残っているのか。……それとも。

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