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第一〇五四話、即時行動の重要性


 異世界帝国のマリアナ諸島侵攻を連合艦隊は阻止した。

 中部太平洋決戦での生き残りである敵二千艦隊を壊滅させ、一時は上陸した敵部隊も、増強された陸軍と基地航空隊の反撃により撃滅に成功。連合艦隊は少ない被害で内地へと帰還を果たした。


 連合艦隊旗艦、航空戦艦『出雲』。その長官公室で連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は、第二艦隊司令長官、伊藤 整一中将、第一遊撃部隊司令官、神明 龍造少将を呼んだ。


「まずは、マリアナ諸島の防衛成功に関して礼を言いたい。皆が一丸となって作戦に当たり、奮励努力した結果である」


 伊藤、そして神明は頷きで応えた。小沢は続ける。


「幸いなことに、撃破した敵の数に対して連合艦隊の被害は最小限で済んだ。まだまだ戦力は多くないが、速やかに次の作戦に移ることも不可能ではないと考える」

「次、ですか……?」


 伊藤がわずかに首をかしげる。小沢は首肯した。


「トラック島の救援だ。敵はマリアナ諸島からこちらの注意を逸らす陽動としてトラック諸島に攻撃を仕掛けてきて、今なお現地守備隊は防戦中である。敵の有力な艦隊を一つ葬った直後だからこそ、トラックに残る敵艦隊を撃滅し、かの地を我が軍が確保する必要がある」


 トラックの占領を許せば、敵が再度戦力を中部太平洋に送り込んできた時、強力な前線支援拠点を与えてしまうことになる。

 こちらはマリアナ諸島があるとはいえ、艦隊、基地双方のぶつかり合いとなれば、現状の戦力差では厳しい。

 それゆえ、異世界帝国がトラックを支配し、防衛能力を強化させる間を与えず、敵を撃退する。


「異世界ゲートが使用できないことで、異世界帝国は今ある戦力で我々と戦うしかない」


 小沢は言った。


「マリアナ諸島を防衛したばかりだが、間髪を入れず連合艦隊が動き、トラックから敵を叩き出せれば、異世界人たちに日本海軍はまだ侮りがたい戦力を有していると思い知らせることができるだろう。そうなれば、無尽蔵の戦力ではなくなった奴らは、より慎重になるざるを得なくなる」


 そうであれば、こちらも戦力を回復させる時間を稼ぐことができる。


「嶋田軍令部総長も、当初はトラックを救援せよと命じられていた。反対はしないだろう」


 それはマリアナ諸島に敵が来ないと判断したからで、厳密なことを言えば違うのだが、それを指摘する者はいなかった。


「神明、貴様の第一遊撃部隊は、マリアナの敵艦隊撃滅に貢献した。水中対応の転移砲は使えるな?」

「はい。現状、劣勢な戦力差を覆して勝つための、有効な戦術の一つでしょう」


 その戦果は、マリアナ諸島に攻め込んだ敵艦隊三つを第一遊撃部隊が葬った事実をみても明らかだった。


「ただこちらは弾薬の消費が激しく、補給なしでは即時行動とはいきません」

「うむ、我が第三艦隊も、上陸船団と敵機動部隊相手に対艦誘導弾を消費したからな」


 小沢は頷いた。


「ただ母艦を含め、艦艇はほぼ無傷だ。航空隊を無人部隊と総入れ替えし、誘導弾を積み込めば、即時戦闘は可能だ。……伊藤君、第二艦隊は?」

「上陸船団攻撃、その後の陽動で数隻が脱落。至近弾による被害が少なくありません。もちろん、出撃とあらば出しますが、先の出撃より数は減るかと」

「無傷とはいかないのは覚悟の上だった。それでも思っていたより被害が少なかったのは事実だ」


 もっと損傷艦が出て沈没艦艇も予想していた。だが実際に沈んだのは第二艦隊の駆逐艦『風雪』と『早霜』のみ。大破、損傷した戦艦、巡洋艦もあったが、帰ってきた艦艇の多さは素直に喜ぶべきところであった。


「で現状、トラック諸島を攻撃している敵の情報であるが――」


 小沢が振り返ると、連合艦隊参謀長の草鹿 龍之介中将が用意した黒板に敵戦力を書き出した。

 戦艦12、空母18、重巡洋艦10、軽巡洋艦10、駆逐艦56。

 アステール、コメテスら円盤兵器群。その母艦たる海氷空母推定2。


「空母の数だけなら、互角ですか」


 伊藤は言った。第二、第三艦隊、第一遊撃部隊の全ての空母を併せれば19隻となる。


「数だけなら、な。だが小型空母も含んでのそれでは、艦載機数で負けておる。敵には海氷空母と円盤兵器もある」


 ただ、と小沢は口元を歪めた。


「それを言ったら、こちらもマリアナの基地航空艦隊もあるし、星辰戦隊が借りられればそれも加えることができるもしれん。しかし正面から航空戦を挑んでも、航空機の損耗は避けられない」


 中部太平洋決戦で、日本海軍は航空機資材の多くを失った。自動コアの無人機で補いがつくとはいえ、その無人機の数も無限ではないのだ。

 小沢は先ほど、第三艦隊の航空隊を総入れ替えすることで、即時出撃させられると言った。だがその入れ替えた無人航空隊をすり潰せば、当面予備戦力なしを強いられる可能性もあった。


「ある程度航空隊を温存しつつ、戦わねばならない。そうなると転移を活用した水上打撃部隊の突撃も大いに活用したいが……」


 第二艦隊は損傷艦が多く、第一遊撃部隊は切り札の水中対応砲の搭載艦が弾切れ補充待ちときている。


「時間をある程度いただけるなら問題ないのですが……急がれるんですよね?」


 神明が尋ねると、小沢は挑むような顔になった。


「早ければ早いほどよい。敵がトラックを占領する前、守備隊もある程度残っているうちに救ってやらねば意味がない」

「……」


 伊藤は腕を組む。話は理解できるし、小沢の言う通りに動けるならば戦略的にも戦術的にも有効であろう。だがそれを実行する部隊が理想に追いつけない。


「では――」


 神明は例によって淡々と告げた。


「軍令部から戦力を強奪するしかないですね」


 強奪という強い言葉に、伊藤は目を剥き、小沢はニヤリとした。


「そうなるな。今頃、軍令部は本土防衛用の無人艦隊の再建に躍起になっておる。そこからいくつか拝借できれば、即時戦闘行動も可能ではないか」


 なにせ無人艦隊だ。コントロールする艦とその乗員が確かであれば、無人艦は戦隊や艦隊運動の共同訓練をしていなくとも関係ない。命令通りに動き、故障せずに戦闘に耐えられれば問題ないのだ。


 後は軍令部が首を縦に振るかどうかだが……そう考えた伊藤だが、いらぬ心配だったとすぐに気づく。

 つい先日まで軍令部次長だった小沢である。彼は嶋田 繁太郎総長の代わりに率先して軍令部を動かしていた。今の軍令部員たちも、元上司であり強気な小沢の意向を突っぱねることなどできないだろう。


「では、連合艦隊はトラック諸島救援のための準備にかかる。――神明、これから軍令部に殴り込みをかけて戦力をぶんどってくるぞ。ついてこい」

「承知しました」

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