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第一〇五三話、遮蔽機動部隊への鉄槌


「二千艦隊が、敗れた……か」


 ムンドゥス帝国親衛軍、紫光艦隊所属オクトー・ベル機動部隊の司令官、オクトー・ベル少将は愕然とした。

 戦況監視のため、友軍艦隊にも遮蔽偵察機を送っていた。マリアナ諸島攻略の帝国第四艦隊分遣隊二つがやられ、そして二千艦隊の残存戦力を再編した艦隊もまた、日本海軍の反撃の前に撃滅された。


「キーリア級をいとも簡単に葬ってしまうのだな」


 二千艦隊司令長官、ソフィーア・イリクリニス元帥もまた艦と運命を共にした。参謀長のエフヒ大佐は口を開いた。


「確認された日本艦隊は二つでした。戦艦主体の水上打撃部隊、それと空母機動部隊。しかしその規模では二千艦隊はおろか、分遣隊と戦うのがやっという戦力のはずでした」

「にわかには信じられないのだが」


 オクトー・ベルは首をかしげる。


「敵の大潜水艦がいて、これが我が友軍艦隊を叩いたという」

「偵察機の報告では、いずれの艦隊も一方的な攻撃を受けてやられておりました。前後の報告で、敵潜水艦と交戦中という無電が発せられたのを確認しましたから、おそらくは」

「うむ……」

「攻略主隊を失った以上、支援隊である我々がマリアナ近海にいる意味は失われたと言ってもよいでしょう」


 参謀長は言った。


「攻撃隊を収容し、マーシャル諸島まで退却いたしましょう」

「敵の未知の戦力が気にかかるが……」


 オクトー・ベルは自身の顎に手を当てた。


「空母機動部隊である我々には、海中の敵にはどうにもならんな。仕方ない。攻撃隊に帰還命令を出せ」


 ただちに日本艦隊――第二艦隊に放っていた攻撃隊に母艦に戻るよう指示を出す。偵察機によれば、敵艦隊は転移で位置を変えたため、どのみち攻撃隊は敵のもとに辿り着けなかった。

 そしてこの命令は、オクトー・ベル機動部隊の運命を決定づけた。


 遮蔽攻撃隊が帰還するより前、遮蔽で隠れていた機動部隊は、マリアナ諸島北方に姿を現した。

 ファラガ級新鋭空母1、アロペクス級高速中型遮蔽空母12、オリクトⅢ級戦艦5、重巡洋艦5、軽巡洋艦5、駆逐艦30。

 艦隊にはキュクロス級ゲート艦1がつくが、他に4隻が転移に備えて分散配置されていた。


 オクトー・ベル機動部隊は、中部太平洋決戦では、ササ長官の親衛軍の紫光艦隊の一角として、連合艦隊の空母部隊を襲撃した。

 ムンドゥス帝国における奇襲攻撃隊を有する機動部隊の一つであった。


「艦載機収容は、何とも緊張をしてしまいますな」


 エフヒは襟元に指をかけ緩める。オクトー・ベルは顔をしかめる。


「気にし出したらキリがないのではないか、参謀長」

「それはそうなのですが、敵はこちらと同じく遮蔽航空機を扱っている日本軍。今、この瞬間にも我々を見つけて、通報しているかもしれません」


 遮蔽装置を使っている部隊が、対遮蔽装置を使うわけにはいかない。母艦に近づく攻撃隊を早いうちに、対遮蔽装置で解除させてしまえば、それを敵にレーダーで捕捉されてしまうかもしれない。そこから後をつけられたり、攻撃隊を送り狼よろしく送り込まれては、艦隊も危険にさらす。


 一応、遮蔽で隠れている間は、対遮蔽装置は切ってあるが、艦載機を収容する時は装置を起動させ、敵の奇襲に備える。この時だけは、参謀長の言うように艦隊の防備が手薄となるのだ。


『対空レーダーに反応! 前方より、攻撃隊が帰投。遮蔽を解除しました』

「来たか」


 オクトー・ベルは双眼鏡を覗き込む。姿を現したクレックス戦闘機、シュピーラト偵察戦闘機、ディアヴァル攻撃機。それぞれの母艦へと近づいてくる。


『対遮蔽装置、起動します』


 旗艦であるファラガ級空母の艦橋に取り付けられた装置が動き、紫色の光を発光させる。

 すると――


『対空レーダーに無数の航空機反応! 艦隊上空!』

「なにッ!?」


 とっさに顔を上げたところで、天井で遮られる。

 だが艦隊の上空には、遮蔽の衣を剥がされた航空機群が露わになった。



   ・  ・  ・



 オクトー・ベル機動部隊が姿を現した時、マリアナ諸島に展開していた基地航空隊――山口 多聞中将率いる第五航空艦隊の彩雲改二偵察機が周辺海域を索敵していた。


 搭載した魔力レーダーが、突然出現した艦隊を捕捉。ただちに彩雲改二は現場へと急行し、魔力通信にて敵機動部隊の所在を報告。

 これを受けた第五航空艦隊の遮蔽攻撃隊がただちに発進した。紫電改二、銀河双発爆撃機、流星改二が姿を消して、偵察中の彩雲改二の転移爆撃装置の機能を活用して、目標海域へと移動した。


 そして配置についた頃、オクトー・ベル機動部隊は対遮蔽装置を動かし、隠れていた日本海軍航空隊の姿もまた露わになる。

 バレた! だが――


「全機、突撃! 攻撃せよ!」


 銀河、流星改二は対艦誘導弾を発射した。

 紫光艦隊艦艇の対空機銃が即座に火を噴く。普段は遮蔽で隠れている艦隊でも、対空要員はいざという時のために配置につき、また奇襲に備えていた。


 だがそれでも遅かった。

 対艦誘導弾は、次々に空母に吸い込まれ飛行甲板や格納庫を覆う壁を貫通し爆発した。

 銀河は上方、流星改二は喫水線下を狙う。命中の寸前、対艦誘導弾は水線下に当たるよう誘導され、命中と共に穴を開けて浸水を引き起こした。


 炎上する空母の中、片舷への集中被弾によって転覆する空母もあった。

 艦載機の収容タイミングだったことで、異世界帝国艦隊は転移ゲートを開いて離脱もできない。

 そのキュクロス級ゲート艦も、戦艦より優先して狙われ、こちらもたちまち装置を破壊され大炎上。


 母艦に下りられないクレックスやシュピーラト戦闘機は、日本機を撃墜すべく突っ込むが紫電改二戦闘機がそれを阻む。20ミリの実弾、あるいは光弾機銃が交差し、双方数機が火を噴いて墜ちていく。


 空中戦が始まる一方で、オクトー・ベル機動部隊の旗艦であるファラガ級空母にも対艦誘導弾が複数直撃。艦橋に直撃した一弾で、オクトー・ベル少将は爆死した。


 遮蔽機動部隊は、日本海軍機の猛攻によって壊滅。海域を離脱したオリクトⅢ級戦艦、ほか巡洋艦群は、連合艦隊第一機動艦隊ならびに第一、第二航空艦隊の反復攻撃を受けて、一隻残らず撃沈されてしまうのであった。


 マリアナ諸島に押し寄せた異世界帝国艦隊は、全滅したのである。

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