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第一〇五一話、日本艦隊の反撃


 40.6センチ砲、43センチ砲、45センチ砲が降り注ぎ、波間に突き刺さると巨大な水柱を突き上げた。

 日本海軍第二艦隊は、それら当たらずとも遠からずの砲弾の嵐の中、煙幕を展開しながら一定の回避運動を繰り返していた。

 旗艦である巡洋戦艦『竜王』は、速度27ノットで航行しつつ、前衛の駆逐艦が巻いた煙幕を抜ける。


「さて、敵はこちらの意図を理解したかな?」


 伊藤 整一中将は独りごちた。無数の砲弾が海面を叩き割るが、幸いここまで第二艦隊の各艦艇に直撃はなかった。


「しかし、これだけ撃たれるといつアンラッキーな当たりがくるとも限りません」


 森下 信衛参謀長が強ばった笑みを浮かべる。

 正面およそ3万6000の位置にいる異世界帝国艦隊、二千艦隊の戦艦、航空戦艦50隻から砲弾が浴びせられている。戦艦級だけの砲撃とはいえ、数が数だ。


 一分間でおよそ400発の砲弾が飛んでくる。これがもう少し距離が縮まれば、一分間2発の射撃速度に従い、倍の砲弾が飛来することになる。


 が、第二艦隊はそこまで踏み込むつもりはない。だが戦艦はともかく、巡洋艦や駆逐艦にはかすめただけでも被害をもたらす攻撃である。いつまでも幸運に頼ってもいられない。


「艦隊後方に無数の艦影あり! 第一遊撃部隊、転移しました!」


 電探が第二艦隊の後ろに現れた艦隊を捕捉する。流れた煙幕で見張り員にはその姿が見えない。……味方が見えないのであれば、遠方の敵にはさらに見えないだろう。


「来ましたな」


 森下が言えば、伊藤は頷いた。


「では我々も煙に消えるとしよう。煙幕を展開しつつ、全艦一斉回頭! 取り舵一杯!」


 水柱を突き抜け、煙を噴射しながら第二艦隊は左へ一斉に転舵した。


「巡洋艦『笠置』に被弾!」

「駆逐艦『風雪』爆沈!」


 ラッキーは続かなかった。被弾、そして運悪く直撃した艦艇が吹っ飛んだ。


「全艦無事とはいかなかったか……!」


 直後、『竜王』の左右を45センチ砲弾が突っ込み、水柱が吹き上がり、艦体に鉄のぶつかる音と海水の叩きつけられる音が響いた。直撃ではないが、ダメージがあったかもしれない。


「ですが、仇は第一遊撃部隊がとってくれます!」


 森下が叫んだ。第二艦隊は転舵を終え、煙に紛れる。だが駆逐艦『早霜』が艦の半分を吹き飛ばされて、残る半分が海上に漂う。

 しかし被害はそこまでだった。


「そういえば、こちらから一発も撃たなかったですな」

「回避運動に集中していたからね」


 伊藤は転移を命じると、煙幕に姿を隠しながら戦線離脱した。

 異世界帝国艦隊からの砲撃は続き、しばし水柱と煙の区別がつかないような光景が続いた。

 さすがにレーダーから反応が消えて、訝しみ、砲撃が中断されるまで、さらに数分の時間を必要とした。



  ・  ・  ・



「第二艦隊、転移離脱しました!」


 第一遊撃部隊は、現在潜行状態にあった。旗艦の戦艦『蝦夷』。神明 龍造少将は確認する。


「敵艦隊は?」

「速度26ノットで前進中!」

「煙幕のせいで第二艦隊が離脱したことにまだ気づいておらんのでしょうな」


 藤島 正先任参謀は口元を歪めた。

 敵はこちらに近づき、さらに最大速度に近いスピードの影響で、ソナーの利きすこぶる悪いだろう。

 第一遊撃部隊が海面下、接近しつつあるとも知らずに。


 やがて異世界帝国艦隊も、第二艦隊がいなくなったことを察したか、砲撃を中断した。煙幕のせいで目視確認が遅れているようだ。

 その間に、海中の日本艦隊は、敵艦隊の下方へと移動した。

 黙してその時を待っていた神明は、口を開いた。


「海上攻撃戦用意! 目標、上方の異世界帝国艦隊!」


 海上砲撃戦、用意ー!――『蝦夷』艦長の阿久津 英正大佐が復唱する。

 水中対応砲塔に換装した『蝦夷』の51センチ連装主砲が、水中にも関わらず機敏に動く。

 同様のことが、新砲塔換装の『大和』『武蔵』でも行われる。


 軽巡洋艦『水無瀬』『長良』『五十鈴』『名取』、駆逐艦『島風』『氷雨』『霧雨』『桔梗』『百合』『菖蒲』『海棠』でも、その砲身が仰角を上げ、海上の敵艦艇に指向する。

 やがて、水中対応砲を搭載した全艦の射撃準備が整う。


「撃ち方始め!」

「撃ちー方、始め!」


 向けられた転移砲が、静かに高初速で撃ち出される前の砲弾を転移させた。その瞬間、海上を航行していた異世界帝国艦の、そのもっとも薄い艦底部を貫通し、爆発した。

 51センチ砲、46センチ砲の爆発は、プロートン級戦艦、オリクトⅢ級戦艦の艦内、ヴァイタルパート内で吹き荒れた。


 その結果は劇的である。5万トンや7万トンの大戦艦が瞬く間に大爆発を起こす。如何なる巨艦といえど、非装甲部分に戦艦の最大火力を撃ち込まれてはどうしようもない。二重底、三重底というのは魚雷に対する浸水対策に過ぎず、砲撃に対する防御ではないのだ。


 海中から戦艦が戦艦を砲撃し吹き飛ばす中、巡洋艦群もまた、二千艦隊の護衛艦艇を破壊していく。

 軽巡洋艦『水無瀬』『夕張』『矢矧』『阿賀野』は主砲を14センチ連装転移砲に換装。『長良』『五十鈴』『名取』の5500トン級は、『川内』『神通』同様の潜水巡洋艦として、光弾砲を装備する予定だったが、水中対応の14センチ単装転移砲に変更。これらを装備しての出撃となった。


 14センチ砲弾といえ転移砲弾。マーシャル諸島への攻撃で使用された砲撃型潜水艦の代わりに、潜水艦キラーを期待された長良型3隻は、水上艦の駆逐にもその力を発揮した。

 通常の潜水艦であれば、魚雷の本数の影響で撃沈できる艦艇も限られるが、砲撃ともなればその回数は比較しようがないほど大差がつく。


 旧式軽巡洋艦の『長良』『五十鈴』『名取』は、面白いように敵小型艦を蹴散らしていく。

 相手が巡洋艦でも、シールドをすり抜けて船体に直撃する転移弾ともなれば、防ぎようがない。また手薄な底部から突き抜けてくるとあれば、1万5000トン級の重巡洋艦でも大打撃を被った。


 本来なら軽巡洋艦の砲撃で致命傷を負う可能性の低い重巡洋艦であるが、海中からの攻撃では一方的に狩られる側となる。

 異世界帝国艦隊は、ろくに反撃できないまま、その数をみるみる減らしていく。


「目標、敵旗艦!」


 戦艦『蝦夷』の主砲が砲身をもたげる。


「撃ち方始め!」


 51センチ砲弾が転移し、旗艦『キーリア・ノウェム』の艦底を撃ち抜いた。

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