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第一〇四八話、空振り航空隊のその後


 第一機動艦隊第二艦隊は、サイパンならびにテニアンに上陸した異世界帝国陸軍第一波に対して艦砲射撃を行った。


 船団はすでに破壊され、残る上陸した敵陸上部隊が視界にある。飛行場を死守すべく奮戦する友軍を支援するため、敵部隊へ戦艦、重巡洋艦戦隊は砲弾を見舞う。

 しかし、それが可能な時間は限られていることを、第二艦隊司令長官の伊藤 整一中将は理解していた。

 旗艦『竜王』では、早速その知らせが届く。


「南方より乙群の第二次攻撃隊、およそ650。東からは甲群が接近中……しかし、こちらは艦載機はなし」


 伊藤が偵察機からの報告に目を通せば、森下 信衛参謀長は口を開いた。


「丙群ならびに乙群は、第一遊撃部隊が仕留めてくれましたから、こちらは予定通り転移すれば、乙群の攻撃隊は帰る場所を探して混乱することになりでしょう」

「うむ、何でも乙群は、第一次攻撃隊を収容する前に第二次攻撃隊を放ち、そこで攻撃を受けたようだから、第一次の800機もまた海に墜ちるしかないだろう」


 気の毒に、と伊藤は哀れむ。異世界人は、この世界の環境に生身で生存するのは適さず、母艦に帰り着けなければ待っているのは等しく死である。海を漂流したとて防護スーツなしでは数分と保たない。彼らには過酷な世界である。


 そんな世界にわざわざ来なくてもいいのに、と伊藤は思うのである。異世界人がこなければ、この世界もこうまで人命を失わずに済んだ。民間人を含め、世界中で多くの軍人が死に、いまなお戦いは続いている。

 異世界ゲートが突如使用できなくなり、彼らもまた自分たちの世界に帰れなくなったというのに、それでも攻撃を止めない異世界人である。


「対空電探に感あり。北方より数十機の敵とおぼしき編隊!」


 新たな報告に、伊藤は物思いから引き戻される。


「まて、北方と言ったか?」

「敵攻撃隊――乙群攻撃隊は南からのはずです」


 森下もまた眉をひそめた。


「これは、未発見の敵機動部隊……?」

「偵察機は、北に敵艦隊を発見していないのだね?」


 伊藤が尋ねると、航空参謀は答えた。


「はい。マリアナの基地航空隊も最初の襲撃から全方位に索敵機を放っておりましたが、そのような報告はありませんでした」

「転移でやってきた増援か、たまたま見逃していた敵か……」

「まあ、どの道、我々はそろそろここを離れることに変わりはありませんが」


 森下は薄く笑った。南から攻撃隊が迫っているので、北から未発見の敵がこようとも、迎撃することなく離脱するだけである。


「では、支援射撃を中断。各艦、所定の転移座標へ離脱を開始」


 サイパン、テニアン、あるいはグアムを砲撃していた第二艦隊、各隊は砲撃を中止。接近する敵航空隊に襲われるより前に、その場から撤収した。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国二千艦隊。旗艦『キーリア・ノウェム』。

 ソフィーア・イリクリニス元帥は、上陸船団が日本艦隊が転移で逃げた知らせを受け、荒々しく司令官席に腰を据えた。


「だろうな。警戒艦隊を無視して船団攻撃を実施した臆病な敵だ。航空攻撃が迫って逃げないわけがない」


 努めて冷静に振る舞おうとしているが、言葉の端々から感情が滲み出ている。日本艦隊が戦わずに転移する状況は想像していたが、その通りになって喜べるほど彼女は能天気ではない。


「全方位に偵察機を出せ。日本艦隊がまだこの近海にいるのか。それとも本土へ逃げ帰ったのか確認しないことには、追加の攻略部隊を送ることもできない」


 マリアナ諸島に上陸した陸軍第一波は大打撃を受けた。展開する日本陸軍守備隊を撃破し、諸島を攻略するためには増援が必要だが、転移で乗り込んできた敵に船団もろともやられては意味がない。

 まずは危険を排除し、それからでなければ陸軍の追加を呼び寄せることもできない。


「敵の艦隊については、索敵に任せるとして――」


 オルドー参謀長は、感情を殺して言った。


「問題は空振りになる攻撃隊です。第二群が全滅した今となっては彼らには戻る場所がありません」

「マリアナ諸島のいずれかの飛行場を落とせれば、そこに下ろすこともできたけれど……」


 イリクリニスは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「トラック諸島も、攻撃はしたが、まだ占領はされていない。……そうだな?」

「はっ、ほぼ同時進行ですが、あちらはまだ上陸すら実施されていないと思われます」

「陽動が裏目に出た、か」


 トラック攻撃で、日本軍の目をマリアナ諸島から逸らすはずだったが、その艦隊はこちらに現れた。


「何か手は?」

「第五航空艦隊の海氷空母を活用すれば、かなりの艦載機を収容もできるかと」


 トラック攻撃部隊の支援に、第五航空艦隊――円盤兵器アステール航空団の母艦である海氷空母が二隻配備されている。


「アステールは長時間の滞空が可能ですから、第二次攻撃隊を収容、補給している間、上空待機もできましょう」

「よし。攻撃隊のパイロットたちを犬死にさせるな。第五航空艦隊に攻撃隊収容要請を出せ」

「承知しました。通信参謀――」


 トラック諸島にいる二隻の海氷空母を、二千艦隊のゲート艦で呼び寄せれば、第二群の攻撃隊を収容できる。

 第五航空艦隊の司令官も、まさか皇帝陛下の二千艦隊、イリクリニスの要請を拒否することはないだろう。


「航空兵力が半減、いやそれ以上の被害を受けた。トラック諸島への攻撃艦隊も、いっそこちらに呼び寄せるべきか……」


 イリクリニスは思案する。トラック諸島とマリアナ諸島、今後の日本本土攻撃への道で考えれば、どちらを優先すべきかは自明である。


「何はともあれ、敵艦隊を叩かないことには、おちおち攻略もできないとは。……歯痒い」

「空中の攻撃隊を除けば、マリアナに展開するのは我が二千艦隊と、親衛軍の一個機動部隊」


 オルドーが言えば、イリクリニスは鼻をならす。


「せっかくの遮蔽航空隊だが、敵に通用していないようだが? 日本軍も対遮蔽装置を使い始めているのではないか?」


 マリアナ諸島の日本軍飛行場への奇襲。それは親衛軍艦隊のオクトー・ベル機動部隊、その遮蔽航空隊で行われたのだが、日本軍は攻撃される前に対処し、守りを固めた。結果、上陸作戦前の先制に失敗している。


「まったく、油断も隙もない……」

「閣下、第五航空艦隊より返信であります」


 通信参謀が青い顔をして戻ってきた。


「第五航空艦隊が、こちらの要請を拒否しました。海氷空母、こちらには来ません」

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