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第一〇四七話、謎の潜水艦……?


 ムンドゥス帝国第四艦隊第二分遣隊は、空母も多ければ駆逐艦の数も多かった。

 第一遊撃部隊に一部隊を奇襲でやられた後、潜航する日本艦隊に対して、多数の駆逐艦が対潜戦闘を仕掛けるべく移動した。


 戦艦や巡洋艦が海に潜ったとて、武器になるのは弾数の限られた魚雷のみ。それに頼るくらいなら、普通に水上戦闘をするか転移で逃げるほうがマシだ。

 第二分遣隊の指揮官ヘーメラー中将は、日本艦隊が墓穴を掘ったように思った。


 が、現実は想定通りにはいかなかった。

 海中の敵をソナーで捜索し追い立てるはずの駆逐艦が次々と沈められた。そうこうしているうちに戦艦、巡洋艦も一撃のもとに葬られ、狩られているのは自分たちの方だと悟る。しかしパニックに陥ったヘーメラーは旗艦ごと吹き飛ばされ、逃走する空母もまた待ち受けていた伊号潜水艦の雷撃で撃沈された。


 文字通り、1隻残らず海の藻屑となったのであった。

 異世界帝国第二分遣隊を撃滅した第一遊撃部隊。旗艦『蝦夷』で神明 龍造少将は腕時計を確認する。


「そろそろ、敵乙群が攻撃隊の収容を始める頃合いではないか?」

「は、ええっと――」


 先任参謀である藤島 正中佐が海図台の配置とメモを見比べる。


「そうですな。第二艦隊へ向けて放った攻撃隊が空振りになっていますから、それらが母艦に戻っている頃かと。……次はこいつらですか?」

「乙群はどういう行動を取ると思う?」


 神明が言えば、藤島は首をかしげる。


「そりゃあ、迎撃しようとした第二艦隊が転移でマリアナ諸島の懐に飛び込んじまいましたからね。乙群はそれらを攻撃すべく諸島に近づきつつ、次の攻撃隊を放つんじゃないですか?」

「戦艦22、重巡55と水上打撃戦力も揃っている。片方が潰れているからゲート艦で急行はできないだろうが……。まあ、概ねそうなるだろう」


 第二艦隊には、敵がまとまった数の攻撃隊を繰り出してきたら、転移離脱し場所を変えるよう作戦で伝えてある。

 それまではサイパン、テニアンとグアムの間で、敵にとって目の上の瘤であり続ける。


「果敢な指揮官なら、第二次攻撃隊を第二艦隊に放ち、それから第一次攻撃隊の収容作業を進めるだろう。狙いはこの発艦、そして収容のタイミングだ」


 神明は言う。


「敵がゲート艦でよそへ転移できないうちに叩く」


 その猶予は、艦載機を収容し終わるまで。異世界帝国軍機は日本海軍機と違い、母艦へひとっ飛びの転移離脱装置を持っていない。空母が転移で逃げたら、艦載機は置いてけぼりで海ポチャ確定だ。


 近くにいる他の空母は丙群が全滅。マリアナ諸島やトラック諸島の飛行場はまだ日本軍のテリトリーゆえ使用できない。だから乙群の攻撃隊を空母群は簡単に見捨てられないのだ。それでも無視した場合、およそ800機の航空機を戦わずして失うことになる。

 丙群の42隻の空母が失われた今、これ以上の航空機喪失はマリアナ諸島攻略に響くことになるだろう。


「マリアナ諸島で、我が機動部隊は艦載機の収容中に奇襲を受けたという」


 第五航空艦隊指揮官の山口 多聞中将を中心にマリアナに後退、再編成をしていた機動部隊が、敵の転移奇襲を受けて大打撃を被った。


「これはぜひお礼参りをしないといけない」

「ぜひに」


 藤島もまた不敵な笑みを浮かべた。



  ・  ・  ・



「第二次攻撃隊、発艦! それが完了次第、第一次攻撃隊の収容作業に移れ!」


 ムンドゥス帝国第四艦隊第三分遣隊の指揮官、クバーレ中将は声を張り上げた。

 先手を打って放った第一次攻撃隊を、日本海軍はスルーした。空襲を空振りさせる戦法は、日本軍の得意技であるというのを資料で読んだが、それをまんまとやられた時の屈辱は、クバーレには耐え難いものがあった。


 転移で逃げた敵艦隊に報復の第二次攻撃隊を放ち、そこで改めて空振った第一次攻撃隊を母艦に受け入れる。これらの燃料と、一部投棄した武装の補給を早々に終わらせ、第三次攻撃隊として活用する腹づもりである。


「おい、参謀長。戦艦と重巡洋艦群をマリアナ諸島へ急行させろ。こちらは艦載機収容次第、追いかける」

「承知しました」

「一秒でも無駄にできん」


 鼻息も荒くクバーレは言いつつ、双眼鏡でリトス級、そしてアルクトス級の空母の攻撃隊発艦を見守る。

 戦艦22隻、重巡洋艦54が先行する中、軽巡と駆逐艦が空母群を取り囲む。と、その段階になって、各艦のソナーマンたちが違和感をいだき始めた。

 とても静かだが、潜水艦のような。そして独特の機械音を聞きつけ、敵潜の報告を行う。


『未確認の潜水艦らしきもの。五、七、十以上!』

「対潜戦闘! ロケット爆雷用意! 敵潜の位置を報告――」


 その瞬間、敵潜水艦に対応しようと動き始めた駆逐艦戦隊が下からの攻撃で爆発四散した。

 味方が攻撃を受けて、旗艦のクバーレは声を荒らげる。


「敵の潜水艦、だと……!」


 転移で逃げた敵艦隊から、第三分遣隊の位置を通報された敵潜が集まってきたのだろう。こちらが攻撃隊を収容していたタイミングで攻撃してくるとは。


「空母に防御シールドを張らせろ! 潜水艦の魚雷ならばそれで凌げる!」

「提督、しかしそれをしますと艦載機の収容作業が――!」


 シールドを展開したままでは艦載機が着艦できない。敵潜水艦を駆逐艦で制圧しない限り、第三分遣隊の作戦行動は遅延を強いられるのだ。


「さっさと駆逐艦に片付けさせろ。頭を押さえてやれば潜水艦は無力だ!」


 対潜攻撃から逃れるべく、潜水艦は潜ってやり過ごすものだ。攻撃できる機会は、実のところ多くない。一撃を撃ったら、もう後は潜って耐えるしかないのが潜水艦だ。


 カリュオン級駆逐艦群が潜水艦狩りを実施する。たかだか数隻の潜水艦にできることなど時間稼ぎ程度だ――クバーレはそう思っていたのだが、味方艦は次々に撃沈されていく。

 それがあまりに続いたために、さすがのクバーレも何かがおかしいことに気づく。


「ば、馬鹿な……! 潜水艦だろう!? 何故、こんなに魚雷があるのだ?」


 潜水艦が搭載できる魚雷の数は十数本。駆逐艦ならともかく、巡洋艦などを一撃で撃沈するのは難しい。その観点からすれば十数隻の潜水艦が敵だとしても、この被害は考えられなかった。

 攻撃は巡洋艦に及び、そしてついに空母にまで伸びた。艦底から突き上げられるような、艦体が爆発し破裂するような攻撃。


「あり得ない……! あり得ないぞーっ!」


 その瞬間、クバーレの足元から爆発が突き上げ、司令塔要員もろとも吹き飛ばした。自分たちが相手をしているのが潜水艦であるとしかわからないまま、帝国第四艦隊第三分遣隊の旗艦は爆沈した。

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