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第一〇四一話、新長官の着任


「まさか、おれが連合艦隊司令長官になるとはなぁ」


 小沢 治三郎中将は、連合艦隊旗艦、航空戦艦『出雲』にいた。

 前任の古賀 峯一大将が、中部太平洋決戦での負傷によりその職務遂行が不可能となり、次の連合艦隊司令長官が選ばれた。


 候補としては海兵33期の豊田 副武大将がその筆頭だったものの、後輩である古賀が山本 五十六元帥の後に連合艦隊司令長官に選ばれたことでわだかまりがあった。


 さらにタイミングも悪かった。決戦による日本海軍戦力がガタ落ちしたところで任されるかもしれないということで、今更できることもなく、やる気も起きないと拒否。おまけに『東条 英機が首相をやっている間に海軍三大要職のいずれにも就くつもりはない』と言ってのけた。


 元々豊田は大の陸軍嫌いであり、陸海軍が共同してマリアナ諸島防衛やその他でより協力していかねばならない状況である今、波風を立てるのはよろしくない。

 結果として、前線を知り、先の決戦の結果を受けてなお積極的に動いていた小沢に白羽の矢が立ったのである。


 この状況で連合艦隊司令長官を引き受けたがる者もいない上に、状況が状況だけに長官職を受けた小沢であったが、新補された際、大将への親任については固辞した。

 その理由をあげれば。


「海軍はただでさえ指揮官不足だ。おれが大将になることで、そいつらが予備役編入されても困る」


 海軍にはハンモックナンバーという海兵卒業時の成績が、先任順位となるルールが存在する。つまり同期の中でも自分の順列より上の者には命令できない。

 今回の場合、小沢が大将になることで、先任者が待命、予備役編入になる事態が発生してしまう。それも海兵37期といえば、艦隊や基地司令長官級の人材が、ということである。


 ともあれ、軍令部次長であった時期は短かったが、いきなり連合艦隊司令長官に任命されて慌ただしい中、艦隊再編と異世界帝国軍への反撃計画を練らねばならなかった。

 そして異世界人は、小沢にも日本海軍にも時間を与えなかったのである。


『異世界帝国軍がトラックに侵攻。連合艦隊はただちに出撃し、敵艦隊を撃滅せよ』


 軍令部からの命令である。つい先日、そこの次長だった小沢としては、もう少し慎重になるべきとも思う。

 だが中部太平洋決戦での引き分けは、海軍のみならず陸軍も不安にさせ、さらには国民にまで伝播しそうな流れであった。


 故に、連合艦隊は健在であるというアピールが必要であるという空気が、出撃を強いることになるのである。


「政治……政治というやつだ。まったく」


 海軍軍人たるもの政治に深く首を突っ込むものではない。サイレント・ネイビー。――それで出撃して負けたらどう責任をとるんだ、畜生め。


「というわけで、よろしく頼む、伊藤君」

「はい、長官」


 第二艦隊司令長官、伊藤 整一中将は、連合艦隊旗艦『出雲』に来て、打ち合わせを行う。小沢も伊藤も軍令部次長経験者であり、後輩ではあるが伊藤の方が軍令部次長は先であり、期間も長かったりする。


「しかし、長官も出撃なさるのですか?」


 前任の古賀大将の負傷のこともあり、連合艦隊司令長官は内地で全体の指揮をとったほうがよいのでは、という意見が強くなっていた。

 もちろん小沢も言われたのだが。


「仕方ない。空母部隊を率いる適当な奴がいないんだ」


 伊藤は海兵39期。空母部隊を率いるのであれば、前衛である第二艦隊の伊藤より先任の者が望ましい。空母部隊を率いるなら、山口 多聞のようなベテランかつ適任者がいるのだが、彼は海兵40期、つまり伊藤の後輩であった。

 そうなると、伊藤が空母部隊である第三艦隊も指揮しなければいけなくなるが、彼は空母部隊を率いた経験は……。


「一応、あります」


 小規模であり、かつ軍令部次長ながら第九艦隊司令長官を兼任させられる無茶に振り回されてのものであったが。

 そしてその原因を作った男といえば。


「神明か」

「彼が司令部にいてくれるなら、機動艦隊も動かせましょうが」

「駄目だ。あいつは切り札で、遊撃部隊を率いてもらう。そうなると、機動艦隊の指揮は、おれがとるのが一番だろう」


 ハンモックナンバーめ、と小沢は心の中で呟いた。

 聞けばアメリカ海軍などは、先任順縛りがなく、適任と見れば海兵卒業の年次や順番を気にしないのだという。

 ある意味感心もするが、日本には合わないだろうと小沢は思う。伝統といえばそれまでだが、後輩に命令されることを面白く思う者はほとんどいない。海軍はリベラルであり、柔軟という人もいるが、伝統にうるさく封建的な面も多々あるのである。


「それで、艦隊だが――」


 小沢は出撃可能な艦隊編成表を見やる。同じものを伊藤も目を通すが。


「先の決戦時の戦力を見ている身からすると、どうしても頼りなくなります」

「うむ。かなりの数を占めていた無人艦隊が、ことごとく沈んだからな」


 半ば使い捨て、死なばもろともの突撃を敢行させた結果、敵を沈めたらがこちらも沈んだという具合に、出撃した無人艦の大半が消えていた。

 有人艦艇もさらに減り、新たに就役した無人艦を加えた編成であるが、修理が必要で離脱している艦艇を除くと、寂しいくらい少なくなったのである。


 逆に言えば、もう少し時間があったなら戦線に復帰した艦艇もかなり増えたであろう。


「だが、敵は待ってくれんのだ」


 前衛を務める第二艦隊は、戦艦、巡洋戦艦合せて8隻。大型巡洋艦2、重巡洋艦8、軽巡洋艦10、転移巡洋艦3、空母2、水上機母艦2、駆逐艦26。

 後衛の機動部隊、第三艦隊は、戦艦2、空母11、重巡洋艦4、軽巡1、防空巡洋艦10、転移巡洋艦4、水上機母艦1、駆逐艦31。


 これが連合艦隊の主力である。合せて戦艦級10、空母13、水母3、大巡2、重巡12、軽巡・防空巡21、転移巡7、駆逐艦57。

 これに連合艦隊旗艦を1隻加えて、合計126隻となる。

 千五百だの二千だの言っていた規模からすれば、何とも頼りない数字である。


「他には基地航空隊の支援と星辰戦隊。あとは何がある?」

「第六艦隊は使えないのですか?」


 潜水艦艦隊である第六艦隊。中部太平洋決戦で被害は出たが、半数以上は残っている上に追加で参戦した増援潜水艦もあったはずだが――


「四、五十隻くらいだな、動かせるのは。もちろん出撃させるが、トラック救援だと状況を見ながら、という形になるだろうな」


 思ったより少ない、と伊藤は思う。正直言うと被害もさることながら補給が追いついていないということもあったりする。

 ただその潜水艦も、敵艦隊攻撃に用いるのか、あるいは敵の潜水艦群を対処させるか、相手次第となる。


「あとは神明少将の遊撃部隊ですか」


 伊藤が言えば、小沢は頷いた。


「部隊ではなく、規模で言えば第二艦隊には及ばずとも、それに近いだけ揃っている」


 イギリス支援に言っていた特務部隊の戦力も加えているから、単純な隻数なら戦艦級が8隻と、第二艦隊と同数ある。……なおその半分は、金剛型であるが。


「奴の部隊には奇襲攻撃隊として動き回ってもらう。まあおれたちは、ある意味敵の注意を引く陽動部隊のようなものだ。不満はあるか?」

「控えているのが神明君ですから、むしろ大船に乗ったつもりで暴れさせてもらいます」


 伊藤にしろ小沢にしろ、遊撃部隊を率いる神明 龍造少将の手並みは知っている。現状、それが頼りだと確信できるほどは信頼していた。

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