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第一〇四〇話、終戦への光明


「異世界ゲートが使い物にならなくなったのは確定だ」


 小沢 治三郎軍令部次長は、第一遊撃部隊司令官の神明 龍造少将に言った。


「イギリスに行っていた第一特務艦隊が帰還した。リバプール・ゲートも稼働せず、ただのリングになったそうだ」


 武本中将指揮する特務艦隊。巡洋戦艦『武尊』以下、一個艦隊が内地に戻ってきたのは、連合艦隊の現状を考えるとありがたい。


「軍令部第三部の諜報員からも、敵基地における放送で、自分たちの世界に帰還できなくなったことが伝えられたという報告がきている」


 小沢は薄く笑った。


「つまりだ。今の異世界帝国に、もはや本国からの増援はない。今この世界に存在する敵を叩けば、この戦争も終わらせられる」


 戦争終結の可能性――神明も目を見開いた。


「神明、俺は正直、ホッとしている。前の軍令部総長である永野さんも、戦争の終わらせ方を懸念されていたと聞く」


 勝つには異世界侵攻が必要ではないか、と永野 修身元帥は考えていた。しかし異世界への道が断たれたことで、異世界遠征の必要がなくなった。それは光明だ。連合艦隊が中部太平洋海戦で大損害を受けた直後とあっては。

 今の日本に、異世界へ攻め込む力などないのだから。


「しかし、増援がないだけで戦況が好転したとは言い難い。今の異世界帝国の戦力でも、この世界を征服することは不可能ではないだろう」


 今ある地球の資源を使って戦力を増強する。これまで前線よりおざなりな後方についても見直しがされるだろうことは想像できる。


「だが戦況によっては、あちらからの休戦や停戦などの申し出などがあるかもしれない。こちらが頑張れば、戦争の終結の可能性もまた出てくる。……神明、貴様を頼りにしているぞ」

「承知しました」


 神明は頷いた。魔技研は異世界からの侵略に備えて対抗するための組織だった。戦争が終わるその日まで尽力する。それは一つの誓いでもあった。


「とはいえ、まずはこの難局を少ない戦力で切り抜けなくてはならない」


 小沢は席を立つと、窓から外を覗き込んだ。


「連合艦隊の受けた被害は甚大だ。残存戦力をまとめて、中部太平洋に居座る敵に対処しなくてはならない。すでにマリアナ諸島には、基地航空艦隊の残存戦力と陸軍の増援が守りを固めている」


 サイパンとグアムには、異世界帝国が日本本土爆撃用の大航空要塞を建造した。今は日本軍が活用しているが、あそこを押さえれば中部太平洋はおろか、内地に爆撃が可能になる。敵が手を出さない理由はない。


「だが航空戦力と陸上戦力だけでは、マリアナ諸島を守りきれん。連合艦隊――艦隊戦力による迎撃も必要になる」

「艦隊の再編は進んでいるのでしょうか?」


 神明が尋ねると、小沢は振り返った。


「第二艦隊を中心にした水上打撃部隊と、残存空母群を集めた機動部隊を集めている。艦隊呼称は、懐かしの第一機動艦隊、ということになるのかな。俺と貴様がいないが」


 かつての第一機動艦隊司令長官と参謀長は苦笑する。


「これに、武本さんの特務艦隊と貴様の第一遊撃部隊が加わる。……第九艦隊の戦力も入れて、第一機動艦隊との二個艦隊であたる方がいいのか」

「特務と遊撃部隊は、軍令部直轄のままの方がよいのではありませんか?」


 神明が言えば、小沢は肩をすくめた。


「そう思うか?」

「次の連合艦隊司令長官がどなたか知らないのですが、誰がなるにしろ直轄部隊の扱い方に精通しているとは思えません」


 古賀 峯一大将が負傷、意識不明で職務を全うできないために新たな連合艦隊司令長官が選ばれるのだろうが、第一機動艦隊を掌握するだけで精一杯なのではないか。神明は、敵はすぐにでも進撃してくると考えているから、部隊間連係のとったことのない艦隊に回されても、かえってやりにくいだけだと思うのだった。


「ということはだ、神明。貴様、また何か新しい戦法をやるつもりか?」

「先日の回収隊護衛の際に、軽く試したのですが――」


 神明は持参した資料を提出した。


「報告書にも書きましたが、水中砲撃戦闘は、劣勢を覆す有効な戦術の一つです」

「超巨大回収母艦の撃沈と、敵潜水艦隊の撃破。あれは見事だった」


 小沢は素直だった。


「あれのおかげで、トラック、マリアナの艦隊がやられた直後にもかかわらず、敵が畳みかけてこなかった。異世界ゲートの途絶の件もあったのだろうが、こちらにも幾何かの準備時間を稼ぐことができた」


 小沢は提出された資料に目を通す。神明は言った。


「――これを扱う遊撃部隊があれば、現状の連合艦隊でもマリアナ防衛は可能であると考えます」

「貴様には実績がある」


 小沢は資料を読みながら告げた。


「その言葉、マリアナ諸島防衛の絡みで聞いた話の中で一番希望が湧いた」


 後は敵の攻勢までのどれだけ準備ができるか、だが。


 ――貴様なら、間に合わせてしまうんだろうな、神明。


 これまで、この男がやらかしてきたことを思い起こせば、不言だろうが有言だろうが大体実行してきた。


 ――本当に、ここまで頼もしい奴もそうそうおらん。


 何とかなる気がしてきた。まだ日本は異世界帝国に負けてはいない。また戦える。



  ・  ・  ・



 2月7日、マーシャル諸島に展開していた異世界帝国二千艦隊は、合流した一個艦隊と共に移動を開始した。

 その目標は――


「トラック諸島だと!?」


 軍令部総長、嶋田 繁太郎大将はもたらされた報告に驚愕した。


「敵はマリアナ諸島ではなかったのか!?」

「作戦課も、そう予想していました」


 軍令部第一部長の富岡 定俊少将は事務的に報告した。第一課長の田口太郎大佐、同作戦班長の大前 敏一中佐も半ば青い顔をしている。

 軍令部の予想が外れた。敵はマリアナ諸島ではなく、トラック諸島を狙ってきたのだ。


「仮に、トラックが陥落したとしても」


 富岡は言った。


「敵重爆の航続距離外です。すぐに内地がどうこうというものでもありません」


 なんならマリアナ諸島からトラックの敵を空襲もできる。そんな富岡に、しかし嶋田は睨むような視線を向けた。


「何故、そう断言できる? 敵はトラック諸島からでも内地に届く航続範囲を持つ新型爆撃機を配備するのかもしれん。今までがそうだったからといって、これからもそれでいいと思い込むのは危険だ」


 日本本土爆撃について、嶋田は海軍大臣だったこともあり、人一倍危機感を抱いている。特に国民の反応について、前線の軍人よりも正しく把握しているといってもよい。


「連合艦隊に、ただちに出撃を命じたまえ。手遅れになる前に……!」

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