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第一〇三八話、その日、ムンドゥス帝国は世界から切り離された


 ムンドゥス帝国本世界、帝都ズィクタトリア。荘厳なる皇帝の都に響き渡るのは空襲警報。


「こんなことが、あってたまるか!」


 モイラー宰相は大股に皇帝城の通路を歩く。城と言いながら一つの町くらいの巨大さを誇る城内。今そこは混沌の中にあった。


「私が在任中、いや宰相になる前から本国で空襲警報など一度たりともなかった!」


 宰相は、口ひげを整え、いかにも画像映えしそうな男であったが、今は焦りと苛立ちが全面に出ていた。

 遠くから爆発音が響いた。通路の窓から見える空。本土航空隊はまだ出撃していないようだが――


「宰相閣下! 地下へ退避を!」

「馬鹿者! ムンドゥス帝国宰相たる者が、率先して逃げられるか!」


 部下を叱責したところで防空指令室に辿り着く。帝都防衛の中枢たる指令室は、城内以上のカオスであった。

 命令や報告が怒鳴り声となって耳障りである。モイラーの到着に警備兵が敬礼しつつ叫ぶ。


「宰相閣下、到着されました!」


 これにそれまでうるさかった指令室の音量が半分以下に減った。軍人たちはかかとを鳴らし敬礼する。


「状況はどうか?」

「はっ、F37世界より侵入してきた敵は空中戦艦8隻でもって、この帝都めがけて接近中であります!」


 防空隊司令が報告し、モイラーは席につく。


「空中戦艦だと? 馬鹿な。……航空隊は防げるのであろうな? 皇帝陛下不在の城に、爆弾のひとつも落とされるわけにはいかんのだぞ」

「はっ、それは、承知しておるのですが……」


 防空隊司令は声を落とすが、モイラーが睨むと背筋を伸ばした。


「はっ! 全力を尽くします」

『敵艦隊、フィリソス・エリアへ直進中!』


 管制官の声に、何人かの兵が安堵したような吐息を漏らした。その報告が本当であれば、敵はこの皇帝城には来ないからだ。

 だがモイラーは逆に顔を青ざめさせた。


「おいおい、それは……馬鹿な! 皇帝陛下は、異世界におられるのだぞ!」


 その声に、防空隊司令も察した。


「い、いかん! 対空砲ならびに防空隊、全力で敵艦隊を阻止、撃墜せよ! フィリソスには――」


 異世界ゲートの根源たる世界間接続装置とそれを支える大魔力炉がある。そのエリアの大半を装置で埋められるほどの巨大設備だが、これはムンドゥス帝国が様々な世界へゲートを繋ぎ、侵略するためのものであった。

 だが同時に、これを失うことになれば、ムンドゥス帝国は異世界移動が不可能になるのだった。


「落とせよ! 皇帝陛下が戻ってこられなくなるぞーっ!」


 絶叫するモイラー。だが、F37世界と名付けられた世界からの空中艦隊は、フィリソス・エリアに高速接近するのであった。



  ・  ・  ・



「プラズマカノン、照準。目標、異世界ゲート発生装置」


 その若い指揮官は命じた。先頭を行く白い戦艦に合わせ、随伴する七隻の標準型ドレッドノートは艦上面と下面それぞれに装備された40.6センチ三連プラズマカノン砲塔を旋回させた。


『目標捕捉、プラズマカノン発射準備よし!』

「撃て!」


 白い戦艦が左舷方向に指向させた45.7センチプラズマカノンを発射。後続する戦艦7隻も40.6センチプラズマカノンを撃って、地上にある施設――その中でもっともエネルギーが集まっている場所へ撃ち込む。

 しかしプラズマ弾は、施設上空でシールドに阻まれる。


『敵シールド、第一射を阻止』

「まあ、そうだろうな。砲撃続行。敵のシールドのエネルギーを削れ」


 若い指揮官は不敵な笑みを浮かべる。


「奴らの防御シールドは数撃てば破壊できる。技術力の差というのを思い知らせてやれ」


 八隻の戦艦による猛撃。雨あられと放たれる光弾は、やがて防御シールドを砕いた。施設に届いたプラズマ弾はたちまち地上に破壊をもたらし、膨大なエネルギー炉を吹き飛ばす。

 それは世界間接続装置をも飲み込む。


「これで、奴らも異世界にちょっかいは出せないだろう。――全艦反転、転移離脱!」


 若い指揮官は冷淡な目で、爆発する地上施設を見下ろした。


「よその世界に手を出すなよ、蛮族が」



  ・  ・  ・



 ほどなくして、襲撃してきた空中艦隊は消えた。異世界へと帰ったのだ。

 その事実にモイラーは打ちのめされる。こちらは世界間接続装置がなくばできないことを、彼らは易々とやってのけた。


 いつか、こういう日が来るのではないかという予感はあった。

 多くの異世界に侵攻し、支配してきた偉大なるムンドゥス帝国。その侵攻を阻める者はおらず、強敵はいたが、それらは(ことごと)く討ち滅ぼされていった。

 最強のムンドゥス帝国。あらゆる世界において、もっとも優れているのは我が帝国である!


 いつしかそう信じるようになったが、それは幻想であった。

 科学力に勝る世界とぶつかった時、この無敵なる帝国も逆襲される――その予感はありつつも、頭の片隅においやっていた。モイラーは、ついにその日が来てしまったのを察したのである。


「世界間接続装置の復旧はどうか?」


 宰相は、科学省の大臣を呼びつけるが、担当者の答えは何とも情けないものであった。


「復旧は不可能であります。元々、あの装置自体、奇跡の産物ですから、同じものを二度と作れません。……いえ、我々も何かあった場合に備えて研究はしておりました。ですが、今すぐどうこうは――」

「つまり、皇帝陛下はこの世界に戻ることもできず、またこちらから戦力を送ることができない、そうだな?」

「はい……。装置の消滅で、各世界を繋いでいた世界間ゲートシステムが全て使用不能となりました。我々はあらゆる世界に対するアクセス権を喪失したのです」

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