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第一〇三三話、動く潜水艦隊


 二千艦隊旗艦、大型戦艦『キーリア・ノウェム』の作戦室で司令長官、ソフィーア・イリクリニス元帥は、ムンドゥスのオーケストラ楽曲に耳を傾けていた。

 先日の日本海軍との戦いによって、多くの損害が出た。多数の艦艇を沈められ、司令長官としてのプライドは大きく損なわれた。


 ――皇帝陛下は、お褒め下さったが……。


 素直に喜べないイリクリニスである。戦いも結局のところ、皇帝親衛軍の参戦でケリがついたようなものであり、二千艦隊があのまま戦っていたらどうなっていたか。考えただけでも背筋が凍るのである。


 目を閉じ、耳をすませる。故郷のハルヴァノの風を思わす音色に、荒ぶる心を静めようとすることしばし、混じった雑音にピクリと眉が動いた。


「何か?」

「申し訳ありません」


 オルドー参謀長が詫びた。参謀長直々に来る用件が発生したのであろう――イリクリニスは目を開けた。


「よい。続けろ」

「はっ、戦没艦の回収艦隊が、敵と交戦中とのことです」

「日本軍か?」

「おそらくは」


 地球世界の日本軍――奴らは我らが戦士の墓を持ち去ると耳にしている。ここで沈んだ艦は、イリクリニスの指揮する二千艦隊のものである。……自分たちも同様に地球の艦艇を回収していることについては完全に棚に上げている。


「日本人も自軍の沈没艦を回収したいのでありましょうが」

「奴らは加減を知らぬと聞いている」


 苛立ちが声にこもっている。オルドーは、我が軍もそうでは、と思ったが口には出さなかった。


「タッロス大将に回収部隊の援護に向かわせろ」


 イリクリニスは自身の銀髪を払った。


「第二潜水艦隊も先の戦いで損害が出ているのは理解しているが、相手は潜水艦だ。任せるしかあるまい」

「はい、閣下。ただちに」



  ・  ・  ・



 二千艦隊から回収部隊の救援に行けと命じられたのは、第二潜水艦隊。

 ヴァスィア・ネラ級旗艦級潜水艦『ズィアヴロスィ』。艦隊司令のタッロス大将は、思い切り顔をしかめた。


「小娘め、オレにお遣いをさせるつもりか!」


 中部太平洋海戦における損害は大きい。稼働潜水艦が150にまで減らされた上、現在、補給作業中。消耗した魚雷の補充を行っていた。


「参謀長、今動かせる艦は?」

「40隻です。後は補給中か、補給待ちの状態です」

「そんなものか……。くそっ、トラックとマリアナに向かわせようと思っていたところを」

「二千艦隊からの指示に従うのですか?」


 参謀長が、すっとぼけたように言った。タッロスは鼻をならす。


「ふん、さすがに無視はできん。あちらは元帥閣下であらせられるからな」


 軍隊とは階級が物を言う社会なのである。上官が右と言ったら右なのだ。


「だが、それはともかくとして、日本海軍にはまだ潜水艦が残っていたのだな」

「かなり沈めてやりましたが、魚雷切れで後退を許した敵もそれなりにありますから」

「そいつらが魚雷を補充して戻ってきた、というところか。よほど沈んだ艦艇を回収したいらしいな」


 タッロスは不敵に笑う。


「しかし、護衛で押さえられないということは、日本軍は相当な数の潜水艦を繰り出してきたということか?」

「少数の敵であれば、護衛部隊で何とでもなるはずですから……そうなるのでしょうが」


 参謀長も眉をひそめた。


「戦力はいかほど送りますか?」

「使える潜水艦全てだ」


 タッロスは即断した。


「昨日取り逃がした連中が戻ってきたのかもしれん。それが相手ならば、まあ不足はあるまい」


 第二潜水艦隊は、『ズィアヴロスィ』以下四十隻の潜水艦でただちに出撃した。残る潜水艦は魚雷の補充などが済み、戦闘力を回復させてからということになる。



  ・  ・  ・



『エニウェトク環礁にて、敵艦隊ならびに全長5キロに達する巨大船を確認。さらに潜水艦用補給施設を確認』


 水上機母艦『早岐』の飛雲水上偵察機は、マーシャル諸島に進出した前線補給拠点ならびに超巨大回収母艦らしき存在を発見した。

 その通報は『早岐』』を経由して、第一遊撃部隊旗艦『大和』に届いた。


「エニウェトク!」


 藤島 正先任参謀が素っ頓狂な声を上げた。


「そんな! 一番手前じゃないですか。何で今までは見つからなかったんですか?」

「灯台もと暗し……。あるいは天候のせいで見落としたのかもしれない」


 第一遊撃部隊司令官の神明 龍造少将は言った。

 哨戒空母戦隊の彩雲偵察機が確認に飛んでいるはずだが、もしかしたら敵に捕捉されて撃墜されたのかもしれない。


「だが、こちらの索敵で見つかったのだ。回収隊のためにも敵母船を叩く。――有賀」

「了解。『大和』、海面へ浮上!」


 潜航状態の第一遊撃部隊の水上型艦艇。潜水艦が敵潜を攻撃し、回収隊の作業を支援する中、母艦攻撃のために前線に出張ってきた艦艇が水上戦闘の準備を進める。

 神明は通信長を呼ぶ。


「砲撃潜水艦の方は任せても大丈夫か確認しろ。……まあ、我々がいなくてもやることは今までと変わらないのだが」


 まだ砲弾に余裕があるのだろうが、なにぶん実験艦である。戦闘型の『伊706』はともかく、『第〇二潜水艦』『スルクフ』『X1』は、砲塔周りで故障など起きていてもおかしくない。


 浮上する第一遊撃部隊。戦艦『大和』を旗艦に、空母2、装甲艦2、軽巡洋艦2、駆逐艦2、水上機母艦2の計11隻。残る19隻の潜水艦は、回収隊の支援に専念させる。


 その間にも、飛雲からの続報が届く。

 敵超巨大回収母艦の周りには、旧式のヴラフォス級戦艦2隻の他に、巡洋艦6、駆逐艦10の護衛がついているとのこと。

 回収母艦の周りには戦艦級に匹敵する鯨型回収母艦が5隻ほど、他潜水艦補給桟橋と80隻あまりの潜水艦が補給を受けているという。


「超巨大回収母艦を叩くとなると、護衛との衝突は避けられませんな」


 藤島が言い、有賀も続いた。


「戦艦は『大和』で蹴散らすとして……。この潜水艦の補給拠点も潰しておくべきじゃないか?」

「……潜水艦に対しては、空母の艦載機を使おう。しかし回収母艦の方は――」


 神明は苦笑する。


「ちょっとこちらの火力が足りないかもしれないな」

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