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第一〇三〇話、燃え上がる空母


 マリアナ諸島には、中部太平洋決戦から後退した日本海軍の第一、第二、第五機動部隊、無人艦隊空母機動部隊二個が展開していた。


 第五航空艦隊の海氷島飛行場からの艦載機が各母艦へ移動し、機動部隊としての機能回復が行われている。

 五航艦司令長官である山口 多聞中将は、海氷島司令部から再編中の機動部隊の様子を眺めていた。


「何ともじれったいものだ。今こうしている間にも、敵が動いているかもしれない」

「やはり、来ますか」


 横井 俊之参謀長が首をかたむけた。


「星辰戦隊の偵察報告では、敵二千艦隊はマーシャル諸島で修理と補給を受けている様子ですが」


 戦術偵察隊として、アステールを利用した贅沢な偵察活動により、敵主力の動向は掴んでいる。

 だが山口にしろ軍令部にしろ、それで満足はしていない。


「我々、基地航空艦隊を叩いた敵、そして決戦末期に襲撃してきたと思われる敵機動部隊の所在はわかっておらん。こいつらがどう動くかわからん以上、おちおち寝てられん」


 紫の艦隊、再び。その旗艦を地中海で叩いたが、その主力艦隊は再び前線に現れ、古賀 峯一連合艦隊司令長官に手傷を負わせて後退させた。

 司令部や連合艦隊がやられた仇を取らねばならない。山口の闘志はなお固い。


「我ら五航艦は、機動部隊が動けるようになるまで何としても守らねばならない。いわゆる死守というやつだ。どこから出てきたかわからん円盤もそうだが、再編中の機動部隊を叩こうと紫の艦隊なら考えるはずだ」

「直掩機は常時展開させてあります。……しかし」

「わかっている。敵の遮蔽攻撃機だな」


 山口の表情は曇る。


「海氷飛行場は、何かと遮蔽攻撃機でケチをつけられているからな。電探にもひっかからんから忌々しいことこの上ない」

「我々は、二機艦時代から、遮蔽機には悩まされましたから」


 横井は言うのである。第二機動艦隊は遮蔽機を操る奇襲攻撃隊だが、一度敵の遮蔽機の奇襲を受けたこともあった。山口はその時の航空指揮官、横井は空母『加賀』の艦長だった。


「こちらにも遮蔽対策装備が欲しいものだ。……あれは敵から鹵獲できなかったのか?」

「内地では、モノができ始めているそうで、順次前線部隊に配備される予定だとか」

「鹵獲品でいいから、すぐにでも寄越せ――と言いたいところだな」


 山口は微笑したが、すぐに真顔になる。

 敵が動く前にこちらから仕掛ける、それが最善である。今頃、トラックでは同期の大西 瀧治郎中将の一航艦が第二、第四機動部隊ほか、無人艦隊空母部隊の艦載機復帰作業を進めている。どちらが先に動けるかわからないが、ちょっとした競争である。

 だがそこで、異変に気づいた。


「ん? 何だあれは?」


 洋上の機動部隊の間に異物が紛れ込む。四角い箱のような艦――その見慣れないシルエットは日本の艦艇ではない。

 それが一つ二つ三つ……。複数隻、艦隊の中に入りこんでいた。その大きさは大型空母にも匹敵する。


「敵か!?」


 そう叫んだ時、その不審船の甲板が開き、垂直に航空機らしきものが射出された!


「カトンボ! スクリキだ!」


 異世界帝国の無人小型戦闘機――それが四角い箱から次々に打ち出された。

 鈍足の直掩戦闘機。しかし数十機が瞬く間にばらまかれた光景は、最悪の展開を予想させる。


 艦載機の収容作業中の空母、上空待機中の航空機、停泊している艦艇――そこに敵機の群れが溢れ出てきて混沌にならないはずがなかった。

 多数のスクリキは12.7ミリ機銃と光弾砲を撃ちまくりながら、近くの日本艦に襲い掛かった。


 着艦中の流星改がやられ、大鶴型空母の飛行甲板に激突。収容作業中の整備員、自動人形が機銃になぎ倒され、被弾炎上した機の爆発で地獄絵図が広がる。


 上空で着艦を待っていた航空機もまた慌ただしくなる。烈風艦上戦闘機が、小隊ごとに降下し敵機の迎撃にかかる。邪魔にならないよう艦攻が上昇、離脱にかかり――空はもうひっちゃかめっちゃか。本来、直掩を担う第五航空艦隊の戦闘機隊も、退避機に阻まれ、即時行動をとれない機が相次いだ。


「敵は転移で母艦を送り込んできだ!」


 山口が声を張り上げると、横井は目を剥いた。


「転移……ですか!? しかしゲートは――」

「敵は個艦ごとに転移してきたのだ!」


 魔法陣型ゲートであれば、すぐに気づけた。だが個別に転移してきたそれらに、はっきりとわかる現象がなかったため、気づくのに遅れたのだった。



  ・  ・  ・



 皇帝親衛軍、紫光艦隊司令長官のササ元帥は、旗艦『ゴッドウィン・オースティン』の司令塔にいて、無人機母艦によるマリアナ奇襲が成功した報告を受けた。


『さすがは、テシス大将の策』


 仮面の司令長官は、紫星艦隊のヴォルク・テシス大将発案の新戦術に感嘆した。


「転移砲、第八目標座標にセット!」

『よし、発射』


 紫光艦隊に所属する特別転移砲艦『ワガブンドゥス』の艦首転移砲が、特殊砲弾を転移させた。

 この砲弾は、転移照射装置による出口をつけた特殊砲弾。それは転移砲によって定められた座標――日本艦隊のど真ん中に転移させる。

 転移出口は繋がった。


「無人機母艦、八番艦! 第八目標座標へ転移!」


 ポース級転移装甲艦が、敵艦隊へ送る無人機母艦に転移照射装置を向け、照射を開始した。

 数秒の転移光線を照射された母艦は、第八目標に送られた特殊砲弾にセットされた転移出口へ瞬間移動した。


 魔法陣型ゲートと異なり、出現の際に特に発光することもないため、日本兵も突然現れた無人機母艦に驚愕するだろう。状況によってはその瞬間を見逃すこともあるかもしれない。


 送り込まれた無人機母艦は、搭載していたスクリキ無人小型戦闘機を急展開。日本艦隊は不意打ち同然に拡散する無人機に対応できず、先制攻撃を受ける。

 艦隊の真ん中で暴れ回るスクリキは、日本海軍の奇襲攻撃隊にも劣らぬ迅速な奇襲を遂行した。


『この戦法は使えるな』


 仮面の下でほくそ笑むササ長官。これでマリアナ諸島に展開する日本艦隊を痛撃した。空母艦載機の収容タイミングをついた襲撃は思いのほか上手くいった。

 残るは、トラックに撤収した機動部隊……。

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