第一〇二九話、潜水回収隊、中部太平洋へ
「本来なら、大きな海戦の後は整備と休養ってもんじゃないんですかい?」
第一遊撃部隊先任参謀の藤島 正先任参謀は、そう皮肉った。司令官の神明 龍造少将は苦笑する。
「決戦においては、日常業務を含めたあらゆるものが無視されるものだ。たとえば休暇申請とかもな」
「取り消されたのですか?」
「いや。記憶にないな」
神明は淡々と答えるのである。藤島は斜に構えたまま言う。
「ちなみに、決戦はまだ続いているんですか?」
「戦艦群は軒並み修理が必要なようだが、機動部隊に余裕がある。山口さんと大西さんが、早々に再編させて、マーシャル諸島に下がった敵艦隊の追撃にかかるらしい」
「……古賀長官は、まだ意識不明なんですよね? 誰が仕切るんですか?」
「軍令部だろう?」
神明は準備を終えると移動した。
「我々は、回収隊を支援する。水中戦だ」
「沈めたフネを今度は拾いにいくわけですか。何とも皮肉なものですな」
「気持ちはわかるが、今回は桁が大きいからな。なおのこと敵に奪われるわけにもいかんのだ」
「我が海軍で1500隻、異世界帝国が2000隻以上参加したんでしょ?」
「潜水艦を入れたらもっと増えるな」
「仮にその半分が沈んだとして、もう四桁なんですが……。一日二日で回収できるんですか?」
「どこで戦っているかはわかっているし、我が軍の魔力式なら、邪魔さえ入らなければ素人が思うより断然早い」
だが――と神明は遠くへ視線を向けた。
「回収隊が安全かつ、しっかり回収作業をするために、ちょっと工夫がいる」
「工夫、ですか……」
敵回収拠点を破壊する。異世界帝国にも回収艦があるが、それらを広い戦場に分散させるにしても、収容できる量に限度がある。
まして今回はおよそ四桁に及ぶ沈没艦艇だ。戦闘海域と後方を往復するのは手間であるから、敵通常の手順では追いつかないだろう。
そうなると――
「超大型の回収母艦も出てくるだろう。これを潰した方が早いかもしれない」
「超大型回収母艦……?」
「南米で撃沈されたアメリカ艦隊の回収の際に来ていたらしい。全長四、五キロもあるという話だが……、確認したのが米軍だからどこまで信じていいかわからない。だが実在しているなら出てくるだろう」
「それで、回収任務なのに装甲艦を連れて行くんですね」
藤島が納得の顔になった。
今回、回収隊支援に出撃する第一遊撃部隊の編成は以下の通り。
●第一遊撃部隊:司令官、神明 龍造少将
戦艦 :「大和」
空母 :「鳳翔」「雷竜」
装甲艦:「黒雷」「火雷」
軽巡洋艦:「早月」「野洲」
駆逐艦:「氷雨」「霧雨」
潜水艦:「伊600」「伊701」「伊702」「伊703」
:「伊704」「伊705」「伊706」「伊401」「伊402」
:「伊607」「伊608」「伊609」「伊610」
:「呂401」「呂402」「呂403」
:「第〇二潜水艦」「スルクフ」「X1」
水上機母艦:「早岐」「音戸」
付属:海氷突撃艦
●回収隊主隊:司令官、佐竹 原二郎少将
○第一回収隊
潜水回収母艦:「大鯨」
潜回型(丁型)潜水艦:「伊361」「伊362」
第八〇潜水隊:「呂592」「呂593」「呂594」「呂595」
○第二回収隊
潜回型(丁型)潜水艦:「伊363」「伊364」「伊372」
第八一潜水隊:「呂596」「呂597」「呂598」「呂599」
○第三回収隊
潜回型(丁型)潜水艦:「伊365」「伊366」「伊373」
第八二潜水隊:「呂621:「呂622」「呂623」「呂624」
○第四回収隊
潜回型(丁型)潜水艦:「伊367」「伊368」「伊371」
第八三潜水隊:「呂625」「呂626」「呂627」「呂628」
○第五回収隊
潜水回収母艦:『白鯨』
潜回型(丁型)潜水艦:「伊369」「伊370」
第八四潜水隊:「呂629」「呂630」「呂631」「呂632」
沈没艦回収隊は、現状の全力出動。第一遊撃部隊も全艦艇が潜水行動が可能なもので占められている。
もっとも支援部隊である第一遊撃部隊は、ほぼ魚雷を使い切っており、その潜水艦のおおよそ半分は転移移動系の補助か、第六の回収隊としての役割を担うことになっている。
今回追加で加わった七隻の潜水艦のうち、マ号潜である『伊607』『伊608』『伊609』『伊610』はマ式回収装置を使ったサルベージ任務。『伊706』『スルクフ』『X1』の三隻は攻撃役として敵潜水艦を叩く。
なお、潜水可能な水上艦部隊は、敵の大型艦が出現した時の対処と、敵艦隊の動向を調査する索敵活動も行うことになっている。
索敵自体は二個哨戒空母戦隊が派遣されているが、その索敵範囲の不足を補うのである。
旗艦である『大和』は、その主砲弾が消耗しており、攻撃に関しては限度があるが、現在、播磨型の砲弾を流用して補給を受けている『蝦夷』がそれらを積み込み次第、部隊に合流するよう準備が進められていた。播磨型の51センチ砲弾は、例の特殊砲弾を積んだ結果、通常弾のストックが大量に残っていたのである。
かくて、第一遊撃部隊は、回収隊本隊と合流すると中部太平洋へ転移するのだった。