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第一〇二八話、魚雷がなければ砲を使えばよい ~潜水艦~


 大海戦の結果、両軍に多くの艦艇が沈んだ。

 日本海軍も異世界帝国軍も、沈没艦を回収して戦力の回復、増強に務めてきた。当然、勝敗の如何に関わらず、回収部隊は動く。自軍のため、そして敵に戦力を奪われないために。


「第六艦隊は奮戦した」


 小沢 治三郎軍令部次長は、神明 龍造少将に告げた。


「だが敵潜水艦隊は、新型の衝撃兵器を用いて我が軍の潜水艦に損害を与えた」

「衝撃兵器……」


 異世界帝国の新兵器だった。その新型魚雷が炸裂すると一定範囲に強烈な水中衝撃波を発生させるという。それは防御障壁を破砕する威力があり、複数発を撃ち込まれるとたちまち潜水艦もやられてしまった。


「詳細は出てないが出撃した潜水艦の三割が未帰還だ。これは第六艦隊だけじゃない。後続として派遣した増援潜水艦も含めてだ」


 一方の敵潜水艦隊は半数以上を撃沈したようで、結果として水上決戦中の連合艦隊にはほとんど攻撃させなかった。その点を見れば、劣勢ながら日本海軍潜水艦はよく持ち堪えたと言ってよい。


「それはいい。だが問題は戦力を根こそぎ投入したから、回収部隊につけてやれる戦力が少ないということだ」


 小沢は言った。


「ここ最近の敵の動きを見るに、サルベージ作業に多数の潜水艦の護衛がついている。今回の決戦で、敵潜水艦隊を痛打したが、それが敵の全てと思うほど楽観はできん」

「回収には専門の護衛部隊がいる」


 神明の発言に小沢は頷いた。


「そういうことだ。そう考えた場合、こちらの回収隊では手も足も出ない可能性が高い」


 その結果、敵に我が軍が沈めた敵艦と、連合艦隊や無人艦隊の艦艇をまんまと奪われることになる。異世界人に戦力回復を許すわけにはいかない。


「で、問題なのは潜水艦の数だけではない。……魚雷の残存本数が欠乏しているということだ」

「……」


 あれだけの大戦力を投じた大決戦だった。燃料はもちろん弾薬の消費も凄まじい。史上最大規模の艦隊、それぞれに配分された燃料や弾薬量も当然ながら破格の量であり、いくら増産したとはいえ、一海戦の後、待ち受ける弾薬不足で全力出撃は不可能というのはわかりきっていた。


 無傷の潜水艦を集めれば、数はまあまあ揃えられる。が、消費された魚雷の補充がなされなければ、潜水艦はあっても出撃できないのである。

 だがその補充すべき魚雷がないのである。もちろん、工場はフル稼働しているのだろうが、それでも簡単に解決するものでもない。


「とりあえず、今使える潜水艦はどうなっているんですか?」


 神明は尋ねた。


「回収隊だけですか?」

「うむ、五つある回収隊の潜水母艦、輸送回収潜水艦が各2隻。その護衛に無人呂号が各4隻。他は第六艦隊の増援に使っている」


 小沢は唸った。


「俺がそうしろと命じたが、さすがにここまで消耗したとなると……」

「そうしなければ、第六艦隊の防波堤が破られて、連合艦隊が敵潜水艦の雷撃を受けていたかもしれません。仕方ありませんよ」


 水上艦隊との戦いに集中できる環境作りに注力したのは、裏方、後方の軍令部としてよくやったと認めるところである。前線でそれがどれだけ助けになるか、実際に戦った神明は理解している。……嘆いていても仕方がない。


「第一遊撃部隊から潜水艦を出しますよ。……魚雷はおそらく残っていないですが」


 こちらも二千艦隊や潜伏艦隊相手に全力雷撃を行っている。


「魚雷がないのにか?」

「転移中継やかく乱には使えます。ただ攻撃役が欲しいところです。……戦力外部隊から実戦に引っ張りだしましょう」

「戦力外、とは?」

「魔技研の玩具、実験艦艇です」


 神明は頭を掻いた。


「まだあそこには転移砲実験に使われた潜水艦がありますから、それに働いてもらいましょう」

「実験艦か……。確かにそれは戦力としてカウントされていなかった。しかし、使えるのか?」


 小沢は疑問を口にする。書類上にあるかどうかもわからないものなど疑って当然である。しかし神明は淡々と言った。


「ええ、魚雷を使いませんから、継戦能力は高いですよ。もちろん故障しなければ、ですが」


 そもそもの話――


「転移砲自体、潜水艦艇の水中兵装の一環で開発された兵器ですから。ようやく当初の計画通りに使えるというところもありまして」



  ・  ・  ・



 九頭島、魔技研実験部に小沢は神明を伴って直接乗り込むと、転移砲装備潜水艦を実戦に使うと宣言した。

 ただちに弾薬、燃料の搭載が行われ、自動化が進められつつ、最低限の乗組員が出撃準備にかかる。ほぼ実験部隊人員であるが、少し頭のおかしい者たちばかりだったが。


「しかし、これはなんだ……?」


 小沢は、実物を目にして奇妙なものを見る目になる。


「潜水型の水上艦は珍しくなくなったせいか、潜水艦に大砲が乗っている様がおかしく見えていけない」

「潜水艦に砲が備え付けてあること自体は、異世界技術関係なくありましたからね。砲塔が載っている潜水艦は奇妙なのは認めます」


 そこに並んでいるのは四隻の艦艇。1隻は、水上艦からの改装とわかるもの。1隻は小型の潜水艦に最近流行りの自動砲をつけたもの。残る2隻が艦橋前にデンと主砲塔が載っていた。


「えーと、こっちのでかい大砲をつけたのが――」

「フランス潜水艦『スルクフ』ですね。20.3センチ砲を搭載した通商破壊用の」


 ワシントン軍縮条約において、潜水艦が搭載できる制限いっぱいの砲を装備した巡洋潜水艦だが、今次大戦で異世界帝国に撃沈、利用されていたものである。


「で、こっちの主砲が二基あるのは――」

「イギリスの『X1』という潜水艦です。実物は1936年に解体しているので、これはそれを参考に独自に再現して改良を加えたものですが」


 本家本元は色々問題がある艦で、姉妹艦もなく、その系列の後継艦が作られることなく終わっている。


「かなり癖のあるフネばかりのようだな」

「だからまだ残っていたんですよ」


 日本海軍は基本的に姉妹艦二隻以上で行動させる。単艦ものは取り扱いが通常のそれとは異なるから、使い道がなければ扱いもおざなりになるのだ。


「正直、これを扱える指揮官がいるとも思えない。神明、またで悪いがちょっと遊撃部隊で使えるものを連れて、回収隊の支援をしてくれ」


 小沢は告げた。


「繰り返すが、敵に沈没艦を持っていかれるのはよろしくないからな」

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