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第一〇二六話、天国か地獄か


 ムンドゥス帝国親衛艦隊は、日本艦隊の近くに転移した。

 特別転移砲艦『ワガブンドゥス』の転移砲を用いて、使い捨てのゲート発生装置を目標座標に転移、起動させたことによる。


 砲弾を転移させられるなら、専用に小型化されたゲート発生装置も転移させられる――その発想で、敵艦隊のど真ん中にキュクロス級ゲート巡洋艦を潜入されるという不可能に近いことをせずとも、転移ゲートを設置できる。


 これによって、日本艦隊の近くに突然、艦隊を送り込むことができるようになった親衛艦隊である。

 ササ長官は、自身の紫光艦隊とヴォルク・テシス大将の紫星艦隊を、日本艦隊の左右に転移させ挟撃させると共に、本命である短転移砲搭載のリコフォス級戦艦もしくは砲艦を主力とする小艦隊を送り込んだ。


 リコフォス級は、オリクト級戦艦の艦体を基本とし、その主砲に短射程転移砲内蔵の球形砲塔を装備した艦である。


 皇帝座乗艦や特別転移砲艦『ワガブンドゥス』のような、座標にセットしたら距離を問わず撃てる長射程転移砲と異なり、リコフォス級のものは、転移に必要なエネルギーが少ない分、ほぼ直接目視できる範囲しか攻撃できない。


 日本海軍の砲身型転移砲と、仕組みは異なれど、射程についてはほぼ同じである。

 短射程転移砲は、狙いをつけた日本艦に砲弾を転移させ爆発させる。防御障壁も装甲も無意味であり、播磨型戦艦や葦津型戦艦も弾薬庫などの急所に撃ち込まれては爆沈する以外の運命はなかった。



  ・  ・  ・



「目標、正面の新型! 測距でき次第、撃ち方始め!」


 古賀 峯一連合艦隊司令長官は叫んだ。草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は驚く。


「長官……?」

「あれを、沈めねば第一艦隊が全滅する!」


 恐るべき転移砲の前には、播磨型戦艦の装甲が意味をなさない。最大の攻撃力を誇る播磨型戦艦が全滅したら、この戦いは連合艦隊の負けだ。


 航空戦艦『敷島』、僚艦の『信濃』『甲斐』が46センチ三連装砲を振り向ける。敵の新型――リコフォス級に向け、主砲が咆える。能力者が制御する砲弾は、狙った敵戦艦に吸い込まれ、そして寸でのところで弾かれた。


 防御シールドである。

 転移砲を使っている艦は、シールドを展開したまま自在に砲撃ができる。いちいち解除したりする手間がないので、防御を固めたまま砲撃が繰り出せるのだ。


「敵駆逐艦、発砲の模様!」


 見張り員の報告と共に、『敷島』の周りで小さな爆発がいくつも起きた。装甲で弾いた様子もなく、爆発しているような――


「まさか、駆逐艦も転移砲を……!」


 草鹿が口走る。そうであるならば、駆逐艦の砲撃如きで戦艦が思いの外、衝撃を受けているのも一応の納得はできる。

 装甲を抜けて艦内で砲弾が爆発しているのかもしれない。だとすれば弾薬庫や機関などバイタルパート内で深刻なダメージを受ける恐れがあった。


「長官、ここは一時撤退を進言致します!」

「草鹿参謀長……!」

「ひとまず距離を置きませんと、第一艦隊やこちらも危険です! 仕切り直しが必要と考えます」

「……っ」


 ここまできて――古賀は奥歯を噛みしめる。もうあと一歩で二千艦隊を崩壊させるところまできていたのだ。劣勢な連合艦隊が強敵を打ち破る、その寸前まで迫っていた。


 だがここにきて、敵の伏兵によって盤面がひっくり返ろうとしている。天国から地獄とはこのことか。

 長官――通信長が駆け込む。


「第四機動部隊より入電です! 我、敵航空機群の攻撃を受く! 現在、交戦中! 同様の報告が無人空母群や機動部隊より相次いでおります!」


 後衛に配置していた空母部隊が、異世界帝国の航空隊に襲われている。敵の空母群はほぼ壊滅させたはずだが、まだ攻撃できる戦力が残っていたのか。

 四面楚歌。

 もはや我が軍の優位なし。事ここに到り、古賀も頷いた。


「やむを得ない。連合艦隊全艦、離脱地点に転移退避せよ」


 意地を張れば艦隊は壊滅する。こちらもやられたが、敵にも相応の被害を与えた。これは敗北ではない――


 その瞬間、司令塔の天井が爆発で割れた。破片が飛び散り、叩きつけられる衝撃波が人をなぎ倒した。


「うぅ……長官――」


 首席参謀の高田 利種少将は呻く。


「――首席参謀!」


 源田 実航空参謀が駆け寄った。


「げ、源田、貴様、血が――」

「かすり傷です! しかしあなたのほうが」


 重傷だ。軍服が血に染まり、今にも倒れそうなほど視線がおぼつかない。


「従兵! 誰か!」


 源田は叫び、視線を転じる。


「草鹿参謀長、大丈夫ですか!? 長官――」

「撤退させろ、航空参謀。連合艦隊司令長官としての、命令――」


 古賀はそこで意識を失った。



  ・  ・  ・



 連合艦隊は戦闘を切り上げ、転移離脱せよ。

 その命令は、ただちに前線の日本海軍艦艇に届いた。残存する戦隊ごと、あるいは単艦で戦線を離脱した。


 親衛艦隊の参入で息を吹き返した二千艦隊であったが、それ以上の戦闘ができるような状態ではなかった。部隊の集結を図り、損傷艦艇の救助作業を行いつつ後退。


 連合艦隊前衛が退却に移る一方、後衛として配置されていた無人空母群と各機動部隊は、異世界帝国軍航空隊の空襲を受けていた。


 護衛の防空駆逐艦が出払った結果、空母を守る艦艇は防空巡洋艦のみであったが、すでに離脱命令が出ていたため最低限の被害で各部隊は切り抜けた。

 空母の被害を減らした一因は、母艦に残っていたわずかながらの戦闘機隊が奮戦したことにある。烈風や業風が直掩として異世界帝国の新型戦闘機クレックスと戦い、少なくない被害を出しつつも母艦の退却を見届け、転移離脱装置で各個に撤収した。


 連合艦隊、そして異世界帝国双方の艦隊、一千隻以上が没したこの戦いは、後世の判断の難しい戦いとなった。


 両者痛み分けに終わったとするものもあれば、その後の進軍を許した以上、異世界帝国側の勝利と記すものも少なくない。

 しかし、マーシャル、トラック間での戦いはまだ終わってはいない。

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