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第一〇二三話、転移砲


 皇帝座上艦『ヘーゲモニアー』、その展望司令塔。

 ムンドゥス皇帝は、目の前で起きたことについて幕僚らの説明を受けていた。


「——なるほど、転移ゲートに別の転移ゲートを重ねられたか」

「はい、陛下。第三戦闘軍団ならびに、アフリカゲート奪回に送られた先行艦隊がやられた、転移を用いた戦術です」


 作戦参謀の説明に、ムンドゥスは問う。


「転移で飛ばされた艦隊はどうなった?」

「不明です。しかしその後、連絡が途絶えたところかしてやられたものと考えられます」

「ふむ。……すると、二千艦隊からの増援もいずこか飛ばされ、戦力外となったということだな」

「ご賢察の通りです」

「明らかに、イリクリニス元帥の失態です」


 カサルティリオ総参謀長は、氷を思わすほど冷淡に告げた。


「増援は必要なかったにも関わらず艦隊を動かし、無為に消耗させた。日本軍の主力と交戦中でありながら——」

「そうだろうか」


 ムンドゥスは考えながら言った。


「イリクリニス以外の将であれば、あれを回避できただろうか?」

「おそらく回避はできなかったでしょう」


 カサルティリオは答えた。


「ですが、敵がいる中で無理やり転移をすべきではありませんでした。巻き込んだ敵艦の中に転移ゲート艦がいた結果、このような惨事を引き起こした……」


 慎重であるべきだった。皇帝の身の安全を第一に考えた結果とはいえ、それが理由でも許されない失態はある。


「会議中、失礼します、陛下。総参謀長――」


 座乗艦『ヘーゲモニアー』艦長のミール少将が一礼すると、カサルティリオの耳元で何かしらを話す。ムンドゥス皇帝や他の幕僚らには聞こえない。


「ふむ、それは確かに難しい判断ね」


 カサルティリオは表情一つ変えずに、しかしやや深刻な声を出した。ムンドゥスは口を開く。


「何かあったのかね?」

「はい、陛下。現在、我が護衛艦隊が正体不明の攻撃を受けております」


 総参謀長は恭しく答えた。


「ほう、正体不明とは」

「敵の姿が確認できず、突然、艦が攻撃を受けて爆発、撃沈されている有様。それはまるで――」

「まるで?」

「皇帝陛下の新兵器、転移砲が攻撃してきたかのような……」


 ざわっ、と幕僚たちが動揺した。

 ムンドゥス帝国の最新兵器、転移砲。地球では初の実戦使用であり、氷山空母を痛打したが、まさか日本軍が同様の兵器を完成させていたなど信じがたいことであった。


「確証はありません。しかし敵が見えず、攻撃の予兆もわからず、次の瞬間にはやられているとなりますと……」

「可能性は大いにある、と」


 ムンドゥスは低く笑った。


「いやいや、実に驚かせてくれる。我らの転移砲かそうでないかは別として、日本軍の兵器が我々を一方的に叩いておる、とは」


 これは退屈しない、と皇帝は笑う。そして全身の毛穴が開くような感覚も味わう。ひょっとしたら、今自分はとてつもなく危険にさらされているのではないか。久しく忘れていた命を脅かされているという感覚。

 カサルティリオは告げた。


「陛下のご機嫌を損ねるような発言になることをお許しいただきたく思います」

「よい。申してみよ」

「敵の兵器が不明である上、シールドが無意味である以上、遮蔽で敵から視認されていない本艦も決して安全とは言えません。一時後方へ下がることを進言いたします」

「敵の新兵器が転移砲ならば、見えない以上、攻撃されないのではないか?」


 ムンドゥス帝国の転移砲は敵を捕捉し、その座標に砲弾を送り込む。つまりは捕捉している対象しか攻撃できない。遮蔽で潜伏している場合、攻撃対象にはならないのではないか。


「まだ確定しておりません。鹵獲されたのならともかく、地球人が我らと同等の兵器を扱っているとも考えがたく――」

「お前にはしては、ずいぶんと悩んでいるようだな」

「! いえ、そのようなことは――」


 カサルティリオは内心を見透かされたような顔になる。皇帝は手を挙げた。


「よい。お前のそういう腑に落ちないことに対する勘は信用している。親衛軍に連絡。我が艦は、一時後退する。……だがその前に」


 ムンドゥスは口元を歪めた。


「我が新兵器を、敵の旗艦にプレゼントする。それがまだ果たされておらんな。まずお礼を撃ち込んでから、後退しよう」



  ・  ・  ・



 皇帝警護艦隊を攻撃していたのは、遮蔽に隠れている戦艦『蝦夷』であった。

 かつて、ハワイ奪回作戦で、戦艦『アルパガス』一隻に連合艦隊主力が翻弄された。『蝦夷』はそれを再現してみせる。


「敵甲型戦艦、爆沈!」

「ようし、次の目標、右舷40度の敵戦艦!」


 阿久津 英正艦長は、攻撃目標を指定する。

 現在、『蝦夷』は敵からの攻撃をまったく受けていない。遮蔽に隠れているが、そもそも異世界帝国艦艇が、どこから攻撃されているかも把握できていなかったからである。


「転移砲は大したものです」


 阿久津は、司令の神明 龍造少将に顔を向けた。


「敵は何で攻撃されているかもわかっとらんでしょう」


 主砲を撃てば、砲門から黒煙と炎が噴き出る。遮蔽で隠れようとも、それは避けられない。かの『アルパガス』が主砲を光弾砲にしているのも、発射の際の煙で位置が露呈するのを避けるためだった。もちろん光弾自体は観測できるから、姿を消したまま使用するには注意深くやらねばならなかった。


 しかし、転移砲は砲口から出るもの全てを照準先に転移させてしまうため、転移するのは砲弾だけでなく、その際に発生する炎や煙も飛ばしてしまう。

 だから、『蝦夷』が大砲を撃っても敵にはそれが見えず、その出所すらわからなかった。


 何より恐ろしいのは、日本海軍戦艦主砲で最強の51センチ砲であることだ。見えないだけでなく、威力も最高。さらに転移でシールドを抜けてくるため、狙われた異世界帝国艦は一撃で致命的損害を受ける。一番装甲の厚い戦艦に対しても、直接照準という特性上、弾薬庫近辺に着弾、貫通、そして誘爆という死のコンボで葬られていった。

 まさに、一方的な狩りであった。


「このまま『蝦夷』単艦で、敵艦隊を撃滅できてしまうのでは……」

「その前に砲弾がなくなる」


 戦艦というプラットフォームに積める砲弾の量には限界がある。しかも夜戦で消耗した分の補給も完全ではないため、その砲撃可能な回数は少なくなる。


「しかし……敵は、対遮蔽装置を使わないな」


 神明は呟く。阿久津は首をひねった。


「我々が近くに潜伏していると、敵も気づいていないのでは?」


 どこか遠方から狙われていると勘違いしているのかも、と艦長は言ったが、神明は頷かない。


「何か、我々の観測していない何かが遮蔽で隠れているのではないか……?」


 それを隠すために、敵も遮蔽解除装置が使えないのではないか。

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