表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1020/1112

第一〇二〇話、桜花乱舞


 氷山空母――その発案はイギリス人のジェフリー・パイクであるが、異世界帝国もまた同様の特殊な氷を用いた海上飛行場もしくは超大型空母を建造していた。

 異世界氷を採用したことで、異世界帝国はもちろん日本海軍でも巨大海氷物が作られた。


 だから、巨大な海氷構造物が現れた時、その素材は異世界氷であるという認識が敵味方双方に生まれた。

 異世界帝国側は、イギリスの氷山空母についての情報を持っているものがほとんどなく、その本家でさえその建造は一度頓挫したことから、思い込みはなお加速した。


 故に、目の前の氷山の構造体も、解氷装置を作動させている中で突っ込めば、勝手に溶けると、異世界帝国軍の将校は考えた。

 遮蔽で姿を消しているプラクスⅢ級重巡洋艦の艦長もまた、目の前に迫る氷山の壁を前に余裕のある表情を浮かべていた。


 が、しかし、プラクスⅢは巨大氷山と激突した。防御シールドのない状態で艦首からぶつかり、その艦体が折れ曲がり、そして引き裂かれた。

 解氷装置で溶けなかった。これには、僚艦の衝突を目撃した友軍各艦に衝撃が走った。


 特に後続艦は――


「減速、転舵! 取り舵いっぱい!」


 さらなる衝突を避けるべく、針路を変更する。しかし、遮蔽行動中、しかも複数の艦が同時に行動している場合、衝突回避のためとはいえ勝手な変針は、味方との衝突の可能性を引き上げる。

 案の定、激突した。


「うわっ!?」

『衝突! 衝突!』


 メキメキと音を立てて、艦首が僚艦にめり込んでいく。重巡洋艦同士がぶつかり、さらに玉突き衝突のような味方艦同士の事故が複数発生する。


「なんたる醜態だ!」


 皇帝警護艦隊のモデルヌム中将は声を荒らげる。


「皇帝陛下が観ておられるのだぞ! ――全艦へ、遮蔽を解除! 正面の氷山を回避せよ!」


 二千艦隊の後ろを固めていた親衛軍艦隊は、次々と透明の衣を解く。航海参謀が口を開いた。


「よろしいのですか?」

「もうぶつかっている」


 見ている者からすれば、遮蔽で隠れていたのがすでにバレた。無理に遮蔽にこだわる意味はない。


「これ以上の事故が起こらないほうを優先だ」


 苛立ちを隠せないモデルヌム中将。参謀長が表情を硬くする。


「しかし、ここで海氷が現れるとは……」


 その間にも現れた氷山は二枚。前の幅100メートル級と後ろにそれより遥かに大きな2000メートル級の壁である。


「しかもクリュスタロスではない」


 異世界氷の構造物であれば、解氷装置があれば突っ切ることができたた。だが現実に装置は役に立たず、突っ込んだ艦が爆沈している。


「本物の氷山でも持ってきたというのか……! イカれてる!」


 まさか目の前の氷山が、イギリスの資料をもとにパイクリートを再現して建造されたゲラーン・サタナスの再現氷山空母であることを知っている者はこの場にはいなかった。


 ゲラーン艦隊の一角に、パイクリート製氷山空母が敵中孤立の後、日本海軍に鹵獲されたことを知る者も。

 だがそれは今となっては些細な問題だ。氷山を突破するために、左右に迂回しなくてはならないことに変わりはないのだから。その氷壁の向こうでは、二千艦隊が敵の奇襲を受けている。

 襲撃者は艦隊が隠れていることを看破し、障害物を送ってきた。


「どうしてバレた……?」


 モデルヌムは呟く。遮蔽が敵に見抜かれるようなヘマはしていないはずだった。


『報告! 迂回した右翼隊、被雷の模様!』

『同じく左翼隊、雷撃を受けた模様です!』

「くそっ、待ち伏せか!」


 モデルヌム中将は歯噛みする。そして追い打ちがかけられる。



  ・  ・  ・



 第一遊撃部隊の潜水艦、敷設巡洋艦によってバラまかれた誘導機雷は、姿を現した異世界帝国艦に突撃を開始した。

 防御シールドが張られていない間、マ号潜水艦の能力者たちによる誘導された機雷は、通りかかる艦を次々に触雷。艦体に穴を空けて海水を飲み込ませる。隔壁は閉鎖されていても、相次ぐ機雷がさらなるダメージと隔壁破壊を繰り返し、やがてバランスを保てなくなった艦から沈めていく。


 そして鹵獲氷山空母に待機していた航空機群が、次々にマ式レールカタパルトに沿って打ち出される。それらは空中に投げ飛ばされたかと思うと、ロケットモーターを点火させて加速。超低空から、姿を現している異世界帝国艦艇へ真っ直ぐ突っ込んでいた。


 ロケット突撃機『桜花』。自動コア操縦による無人航空機である。

 鹵獲機を改修した桃花と違い、航空機らしいフォルム。体当たりすることを前提に作られた誘導ミサイルの一つ。全長6メートル、全幅5メートルほどの小型機だが、その内部には航空機用対艦誘導弾の中で最大の1200キロ徹甲爆弾が仕込まれている。

 マ式による誘導は必要がない。打ちっ放し――自動コアが操り、勝手に目標に当たる。多数の桜花は、異世界帝国親衛軍艦隊の艦艇に飛び込む。


 対空砲火が上がる前に手近な艦から衝突、そして大爆発を引き起こした。駆逐艦は消し飛び、巡洋艦もまた艦体の半分をごっそりと吹き飛ばされる。

 空母に突っ込んだ桜花の爆発は、格納庫の可燃物を巻き込み爆発、そのまま轟沈へと誘う。

 戦艦もまた艦橋や砲塔を吹き飛ばされ、戦闘不能、もしくは航行不能に追いやられた。


 全長600メートル、全幅100メートルの飛行甲板のレールから打ち出される桜花。氷山空母は空母というよりミサイルキャリアーというべきだったかもしれない。

 遮蔽を解除したことで、日本軍突撃機が親衛軍艦隊の受けた被害は大きかった。反応の早かった艦は対空砲火を打ち上げ、あるいはシールドを展開したが、それでも桜花を止められない。


 シールドも複数の桜花の体当たりによって破壊され、その後の突入で大破、沈没。対空砲火も低空を超高速でかすめるように飛ぶそれらを捕捉するには時間がなさすぎた。

 そして桜花は、モデルヌム中将の座乗するプロートン級戦艦にも迫った。


「こんな……ことが――!」


 桜花が司令塔に突っ込んだ。E爆薬入り1200キロ徹甲爆弾の威力は凄まじく、皇帝警護艦隊旗艦をたちまち洋上のスクラップに変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ