表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1018/1112

第一〇一八話、後方襲撃


 二千艦隊、キーリア級旗艦級大型戦艦『キーリア・ノウェム』の司令塔は騒然としていた。


 ムンドゥス帝国の誇る最新鋭量産型戦艦であるプロートン級が、日本海軍の戦艦の砲撃であっさり沈められていく。

 キーリア級を除けば、最高の防御性能を持つ大戦艦。それがまるで駆逐艦のように相次いで失われれば、その衝撃は凄まじいものがあった。


『敵弾、シールドを貫通の模様! 第9戦艦戦隊、全滅!』

「シールドを貫通する砲弾、だと……!?」


 オルドー参謀長が愕然とする。参謀たちも動揺が隠せず、若き司令長官を見やる。司令官席に腰掛け、自身の銀髪を指でもてあそびつつ、しかし視線は離さなかったソフィーア・イリクリニス元帥は淡々と告げた。


「砲撃続行」

「閣下……!」

「落ち着け、参謀長。他に何か策があるなら聞くが?」


 イリクリニスは冷静であった。何故周りが慌てているのかわからないという顔をしている。


「敵の砲撃に恐れをなしたか? お前にも可愛いところがあるのだな」

「閣下――」

「落ち着けと言っている。敵は切り札を切ってきた。それだけのことだよ」


 見たところ、プロートン級をたやすく葬っているのは高威力の砲を持つ戦艦12隻のみ。


「あの12隻を沈めれば勝ちだ。たとえプロートン級戦艦111隻を全滅させることになっても、ね」


 物量で戦争をするとはこういうことだ。最終的に勝てばいい。皇帝陛下は、そのような戦争を望んでいる。懸命に戦った者たちを称える男なのだ。ムンドゥスの戦士であれば、それは最高の誉であろう。


 ――それに、今さら浮き足立ったところで、どうにもならない。


 イリクリニスは思う。ここまできて力押し以外に手はないのだ。下手に動かす方がかえって被害が拡大する。

 たとえば、シールドを張って敵の砲撃に耐えるとかいう小賢しい逃げとか。シールドを使っている間、攻撃の手が止まるのは敵に利するだけである。


 ――どうせシールドを抜かれる砲弾。潔く防御を捨てて前に出て、敵をすりつぶせばよい。


 その時、戦術モニターに新たな表示が現れる。


『艦隊後方に巨大物体が出現!』

「っ!? 後ろ――!」


 イリクリニスの目が大きく開かれる。先の連合艦隊主力の反撃よりも、より驚きがあった。敵が転移で艦隊を送り込んできた――ならばそこまで揺らぐことはなかったが。


「巨大物体とは何か? 報告急げ!」

『報告。後方の巨大物体は氷山!』

「氷山……? 海氷空母か――?」



  ・  ・  ・



 時間は少し遡る。

 九頭島から出撃した第一遊撃部隊は転移中継ブイを利用して、異世界帝国艦隊の遥か後方に転移した。


「遮蔽装置を作動せよ」


 遊撃部隊司令官、神明 龍造少将は命じた。戦艦『蝦夷』、装甲艦『大雷』『火雷』はエ1式機関で飛行し、二千艦隊へと高速で迫った。

 敵後衛部隊がいた後方警戒ラインを、遮蔽に隠れた3隻は通過する。『蝦夷』艦長の阿久津 英正大佐は見張り所に確認する。


「後方はどうか?」

「見えません! 遮蔽は有効に機能しています!」

「うむ。僚艦の姿が見えたらすぐに報告せよ」


 遮蔽が機能していることを確かめ、阿久津艦長は神明を見た。


「この辺り、対策されていませんな。まさか、このまま敵が見える位置まで行けてしまえるのではないでしょうか」

「そうだろうな。今我々が通過している下は、遮蔽に隠れた敵艦隊があるのかもしれない」

「……私はまだ半信半疑であるのですが」


 阿久津は軍帽を被り直す。


「いるのであれば、向こうもこちらが見えていないまま、追い越してしまったことになるんですな」


 やがて3隻は二千艦隊の後方を目視範囲に捉える。飛行している分、水上艦隊に追いつくことも容易い。


「本当に対遮蔽装置が働いていませんな。こちらが奇襲攻撃隊を送り込むことはないと考えているのでしょうか?」

「わが軍も敵が対遮蔽装置を使っているから、奇襲攻撃はほぼ不可能だろうと想定して作戦を立てていた。ある種の思い込み、楽観して準備をしていなかったということだ」


 神明は返した。


「では始めよう。水上へ降下。僚艦にも伝えろ」


 作戦通り、『蝦夷』以下、装甲艦2隻も海面へ緩やかに滑り込む。転移中継装置を作動。ふたつの巨大構造物を転移させる。

 ひとつは全長2000メートルの海氷、突撃海氷艦。もうひとつは全長600メートルの巨大空母――イギリス原案のパイクリートの塊、氷山空母である。


 さらに、『蝦夷』の転移中継装置により、第一遊撃部隊と支援部隊が次々に転移した。


「潜水艦部隊は潜航。機雷散布始め!」


 神明は命じる。今回の第一遊撃部隊は、元からの11隻に加え、機雷敷設潜水艦が13隻参加している。いつもの11隻にも外付けの浮遊機雷管が装備されており、それも追加でばら撒く。

 そうやって後ろの突撃海氷艦を壁にしつつ、短時間で機雷原を形成させる。


 一方、正面には二千艦隊があって、第一遊撃部隊に対して尻を向けている。相変わらず遮蔽が働いているが、海氷の壁の出現でレーダーはすでに異変と共に新たな艦艇を捉えているだろう。

 本格的に動き出す前に先制する!


「各空母へ、突撃機を急速展開。全機発艦後、転移離脱せよ」


 戦場のど真ん中に連れてきた空母。これらを敵の砲撃の届く範囲にいつまでも置いておくわけにはいかない。

 空母『翔竜』と、第九艦隊から引っ張ってきた実験空母『雷竜』、そして大鷹型の3隻――『大鷹』『雲鷹』『冲鷹』の飛行甲板にびっしりと整列するように並んでいた球形戦闘機が次々に浮遊発艦を行う。


 5隻、90機の球形戦闘機――鹵獲したイグニス戦闘機をベースにした小型突撃機群は、低空で二千艦隊の真ん中に飛び込む。


 ルベル戦闘機に見えるそれを敵味方として判別に困っている異世界帝国兵を尻目に、突撃機は搭載するロケット弾を、異世界帝国艦に次々と発射した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ