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第一〇一五話、航空艦隊、第四次攻撃隊を準備す


 第一航空艦隊は、第四次攻撃隊の準備を進めていた。

 海氷飛行場『日高見』には、第三次攻撃から帰還した機体が溢れ、燃料と弾薬の補給が行われている。


「急げ! 連合艦隊はもう戦っているんだぞ!」


 第一航空艦隊司令長官、大西 瀧治郎中将は声を張り上げた。


「前回は中途半端なところで逃げられたが、今は砲撃戦の最中、敵も転移で逃げられん!」


 大西には焦りがあった。連合艦隊と二千艦隊の激突にあって、数の上で劣勢なのはわかっている。それを覆すには、敵航空戦力を撃滅した上でこちらの航空戦力と水上艦隊が共同で敵に立ち向かうしかない。


 その点、先の第三次攻撃が戦闘の途中で無理やり切り上げられたことは、大西ら基地航空艦隊にとって不満足な結果に終わったと言える。

 海氷島飛行場や海氷空母『大海』『雲海』などに分散している第一、第二、第五、第十一航空艦隊と、空母航空隊は再出撃可能な機体による第四次攻撃を急いでいた。


「ここでもう一度大規模空襲を仕掛ければ、敵の艦隊は乱れる。そこを連合艦隊主力が突撃すればこの戦い、我々にまだ勝機はある!」

「砲撃戦の中に航空隊を突っ込ませるつもりですか?」

航空参謀(コクサ)、水上艦の大砲が航空機に当たることはない。心配するな」


 大西は自信たっぷりに断言した。

 その間にも戦術偵察隊から送られてくる敵艦隊の位置から、攻撃隊の針路や距離、進撃ルートについてまとめられる。


 幸い、第三次攻撃隊が二千艦隊の後方警戒部隊を片付けたおかげで、敵は後方の警戒が疎かになっているようだった。第四次攻撃隊も、そのコースをトレースするように飛べば迎撃を受けるまでにかなり近くまで接近できるのではないか。


「というより、これは遮蔽が使えるのではないか?」


 敵警戒艦には例の紫に発光する装置――遮蔽解除装置を積んだ艦が配備されていた。それがいないということは遮蔽を使った奇襲攻撃も可能ということではないか……?


「これはツイているかもしれん」


 二千艦隊は、連合艦隊との戦いに夢中で航空攻撃に対して疎かになっている。転移で空振りさせたことで、日本軍攻撃隊を凌いだとあぐらをかいているのかもしれない。

 千載一遇。大西が確信の笑みを浮かべた時、それはやってきた。


「失礼いたします! 軍令部より伝令です!」

「なに、伝令?」


 日高見の転移室を通してやってきた士官。軍令部がわざわざ何用できたのか?


「何事か?」

「はい。第一航空艦隊、『日高見』は現在位置を変更。新たな位置から攻撃隊を出していただきたく――」

「どういうことなのだそれは?」


 大西、そして第一航空艦隊参謀らは眉をひそめる。いきなり軍令部員がやってきて、日高見のポジションを変えろという。それに果たして何の意味があるのか?


「馬鹿言っちゃいけない。我々はこれから第四次攻撃隊を出して、連合艦隊と共同攻撃を仕掛けるのだ。それも急ぎで!」


 もたもたしていたら、連合艦隊が敵の物量に押し切られてしまう。そうなってからでは遅いのだ。その軍令部員の大尉は言った。


「敵は海氷飛行場の位置を突き止め、攻撃を行う準備を進めていると思われます」

「何だと!?」

「攻撃される前に位置を変更し、そこから改めて攻撃隊を出すようお願い申し上げます!」


 司令部は微妙な空気になる。いざこれからという時に、すでに敵に発見されていて攻撃されようとしている、などと。こちらの索敵では近くに敵の姿はなく、また敵攻撃隊が向かっているという報告もない。


「どこからの情報なのだ、それは?」


 大西は幾分か声を落として問うた。前線ではなく、後方の軍令部からというのがどうにも引っかかった。ここにいない内地からどうして敵が海氷飛行場群が敵に露見したなどとわかるのか。


「それは――」


 軍令部員が言いかけた時、司令部通信室から通信兵が駆け込んできた。


「長官! 第二航空艦隊の海氷空母『大海』が正体不明の攻撃を受け、大破したと緊急通信を傍受しました!」

「なに、大海が……?」


 第四次攻撃隊の出撃の準備を進めていた第二航空艦隊が攻撃された。何故?――わからない。


「長官、『日高見』を急いで移動させませんと!」


 件の軍令部からの伝令が言った。


「こちらも敵に把握されている可能性が極めて高く、次はこちらが攻撃される恐れも――」

「失礼します! 長官――」


 別の通信兵が顔に緊張を貼りつけて現れた。


「第五航空艦隊の海氷島が、敵円盤兵器群の攻撃を受けました! 現在、防空隊が交戦中とのこと――」

「第五航空艦隊……! 山口のところもか!?」


 同期である山口 多聞中将が指揮する第五航空艦隊もまた攻撃を受けた。参謀らは慌てる。


「馬鹿な! 円盤兵器群はすでに全滅させたはずだ!?」

「まだ未発見の敵だとでも言うのか?」


 その矢先、風切り音と着弾、そして爆発音が連続した。


「まさか、敵――!」

「電探に反応なし!」

「滑走路に攻撃! 発進間近の攻撃隊に被弾!」


 無数の砲撃が炸裂し、出撃待機中の陸上攻撃機や戦闘機、重爆撃機が破壊される。


「畜生!」


 大西は呻く。彼が日高見に着任するより前にも、この海氷飛行場は敵遮蔽航空機によって発進間近を叩かれている。そして今、敵の姿は見えないが、強力な爆弾、いや艦砲射撃を受けている。


 遠方から戦艦の主砲と思われる発砲音が連続している。

 こちらが遮蔽を封じられているからといって、敵も使ってこないと誰が決めたのか。軍令部からの移動指示は、これのことを言っていたのだ。


「応戦はいい! とりあえず転移で後方に退避だ! 急げ!」


 これ以上やられる前に敵の攻撃から逃れるのが大事だ。被害報告は後でもいい。



  ・  ・  ・



『敵、大型海氷空母、転移離脱しました!』


 報告を受けて、紫星艦隊参謀長、ジョグ・ネオン中将は振り返った。


「意外とあっさり逃げましたな」

「しょせんは巨大な飛行場でしかない。指揮官の判断は的確だったよ」


 紫星艦隊司令長官、ヴォルク・テシス大将は司令官席にいて、静かに笑みを浮かべた。


「我らは皇帝陛下の親衛軍だ。危険な要素は取り除かねばならない」


 日本軍の海氷飛行場『日高見』を襲撃したのは親衛軍の紫星艦隊。他の海氷を利用した空母や島にも、皇帝の身辺警護も行う親衛軍が動いて排除に動いていた。


「二千艦隊の後方から仕掛けようというのだろうが、さすがにそこを二度も通過(・・・・・)させるわけにはいかないのでな」

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